親から引き継いだ自宅の不動産や預貯金。財産を遺してくれて、有難いですよね。
ですが、遺産を引き継ぐための「相続手続き」は、慣れない手続きや税金、そして場合によってはドロドロの人間関係が絡み、大変なケースになることもあるのです。
目次
1. 相続人それぞれの言い分はどちらが正しい?
母が亡くなってから、近くに住む妹夫婦が神戸の実家に戻り父の介護をしていました。その父が亡くなり、東京に住んでいる兄と妹が四十九日を過ぎて遺産のことで話合いをしました。
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妹の言い分はこうです。
「お父さんも生前、自宅は妹の私に相続させたい、って言ってたしね。」
というものでした。
それを聞いた兄は次のように反論したのです。
「それに、お父さんが自宅を妹に相続させる、という遺言書でもあるのか? ないのなら、信じられないね」
「介護をしてきたって言うけど、子供だから介護をするのは当たり前じゃないか。私は東京だから介護をしたくても出来なかっただけさ。」
「それに、実家に妹夫婦そろって住んでいたなら、家賃を払っていなかっただろう。 そうすると、お父さんから長年の家賃分の面倒を見てもらったことになるね。生前にお父さんから援助を受けたことない私が、相続では多めにもらうべきだね。」
さて、あなたは、どちらの言い分が正しいと思いますか?
2. 親の面倒を見れば、相続財産も多めにもらえる?
長年に渡って親と同居をして親が死ぬまで介護をしていれば、介護をした子は法定相続分を超えて遺産を多めもらえるのでしょうか。
このような主張を法律的には「寄与分」と言います。
この寄与分は単に親を介護していた程度では、なかなか認められません。親の面倒、介護をみることは、子供であれば当然のこと。親に対する「特別な寄与」があったと認められないからです。
それに「自宅を妹に相続させたい」という父の言葉も、法律の規定に基づいて書かれた「遺言書」がなければ、兄の言うとおり妹の主張は通りません。
そうすると、兄の言うとおり、不動産を売却し預貯金を含めて全財産を兄妹で2分の1づつ相続すれば平等だ、ということになりますよね。
ところが、不動産を売却すれば、妹夫婦は引越しを余儀なくされてしまいます。
結局、兄と妹はお互いの言い分をぶつけ合うだけで、遺産をどうやって分け合うのか話合いが進まず数ヶ月が経過してしまいました。
では、兄の主張を認めない妹が悪いのでしょうか?
親の財産がほしいから妹は父の介護をしていたのではないはずです。最初から財産目当てで親の介護をしたところで、親が亡くなるまで介護をするということは、そんなに甘いものではないはずです。
育ててくれた親が年老いていくことを目の前で見せ付けられる悲しさ。そして、いつまで続くか分からない介護に疲れ果てて不安で堪らない日々。
妹は、東京に住んでいるからと言って一度も父の介護をしなかった兄に対して、介護をした妹の気持ちを全く理解しないことに気持ちが収まり切らないのではないでしょうか。
だから、兄の言う「法定相続分どおりに2分の1づつ相続」に納得がいかないのです。
3. 相続では「正しさ」を盾にとらないこと
法律を盾にとれば、たしかに兄の主張が正しいかもしれません。
ですが、兄が法律の正しさを妹に突きつけても、相続人どうしの話合いを進めていくことはできないでしょう。
相続人全員が同意しなければ、遺産をどのように分けるかの話合いである遺産分割協議が成立せず、そうなれば預貯金を解約することも、不動産を売却することもできず、結局は兄も遺産をもらうことができなくなってしまいます。
相続手続きでは、法律に基づいて手続きを進めていく必要があります。
ですが、「親の死」をきっかけに始まる相続では、法律の正しさを盾にとっても、法律論では相続人の心は動かないことが多くあります。
逆に相続人が自分の正しさを主張すればするほど、他の相続人の気持ちは収まりきらず、納得ができず、ますます遺産分割協議の話し合いが進まないばかりではなく、遺産を巡って争いになってしまい、相続をきっかけに親族の繋がりが切れてしまう、ということも決して珍しくはないのです。
兄にもう少し、妹の介護をしてきたという思いを理解する気持ちの余裕があれば、妹との遺産分割の話合い進んでいくことができたかもしれません。
数多くの相続手続きを担当してきた司法書士として思うことは、相続が発生した後にすべきことは、もちろん相続手続きについての法律をしっかりと身につけることも大切ですが、相続手続きを円満に進めていくためにも、
そして
「相手の言い分を聞く心の余裕をもつこと」
だと最近では強く思うようになりました。
4. 相続が発生前にすべきこと。それは遺言書をのこしておくこと
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相続後の遺産分割の話し合いでは、法律論より相続人の親や他の相続人に対する感情が大きく影響を及ぼします。
一度収まり切れなくなった相続人間の感情がぶつかり合ってしまうと、それを円滑にまとめる法的手段はあまりありません。
だからこそ、残された子供たちを争いから守るためにも、相続が発生する前に、遺産をのこす親がしっかりと親の意思を「遺言書」でのこしておくが大切なのです。
ところが、多くの親は
「わたしの子供たちに限って、遺産で争うことはないよ」
と言って、遺言書を書く必要がないとおっしゃる方が本当に多いのです。
父が生前に元気なうちに、「介護をしてくれている妹に相続させる」、「二人しかいない兄と妹だから仲良くしてほしい」という遺言書を書いていれば、兄と妹が相続で争うこともなかったかもしれません。
今一度、家族の絆を守るためにも、今、親ができることをじっくりと考えてみてほしい
と、相続手続きを司法書士として担当していつも思うことです。
あなたの家族の相続のこと、一緒に考えてみませんか?(執筆者:国本 美津子)