前回、金銭教育は子どもの心を傷つける可能性が大きいと書いた。今回はそこをもう少しほり下げてみたい。
子どもの心を傷つけるとは、具体的には「自尊感情」を傷つけること。
自尊感情とは
「自分は自分でいいんだ。」
「ありのままの自分で大丈夫。」
「自分の長所も欠点も含めて自分はOK。」
という気持ち。
この気持ちは「自己肯定感」、「自己価値観」という言葉でも表されるが、人生を自信を持って生きていくためにとても大切なものだ。
私が学んだAP(アクティブ・ペアレンティング:より良い親子関係講座)では、この気持ちを育てることを『勇気づけ』という言葉で表す。
逆にこの気持ちを傷つけることを『勇気くじき』と言う。
金銭教育ではしばしば勇気くじきが行われる。
APが考える勇気くじきは4つ。
1. 否定的な期待
2. 失敗を大きく取り上げる
3. 完璧をもとめる
4. 過保護・過干渉
金銭教育の現場でおきることと照らし合わせてひとつずつ考えてみよう。
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目次
1. 否定的な期待
これは、「まだ小さいでしょう。」とか「あなたにはまだ無理よ。」というように、できないと決めつけてかかる親の態度のこと。
金銭教育の始まりは子どもが何かを欲しがった時の場合が多い。子どもの心に「欲しい」という感情が芽生えた時こそが、チャンス。
その「欲しい」気持ちと自分が持っている「お金」とを考え合わせ、「買う」のか「買わない」のか自分で選択・決断していくことがお金を使いこなす力をつけることになる。
年齢や子どもの能力にみあった適切な金額を設定し、任せることで子どもの頭は回りだす。
ところが親の心の準備が間に合ってないこともあり、「まだまだあなたには早いわよ。」という言葉を口にする。
子どもに失敗をさせたくない、変なものを買ってほしくないという親心も大きく影響する。
かなり大きくなっても子どもには絶対にお金は持たせないと言っている方もいらっしゃるが、そうやって育てられた子どもは、大人になっていきなり大きなお金を手にしたときに、どんな気持ちになるのだろう。とても上手に使いこなせるとは思えない。
2. 失敗を大きく取り上げる
これは、できた時に「よくできたね。」と注目するのではなく、失敗した時に「ほらまた!そんな失敗して。どうしてあなたはいつもこうなの。」というようなアプローチ。
子どもは経験がないから失敗をする。失敗は学ぶ途中にはつきもの。
それをよい経験として未来に活かすためには、その失敗を責めたり、叱ったり、馬鹿にしたりしないことだ。
けれど、お金の失敗はことのほか大きな声で怒られる。
お金は大切なものである。それを間違った使い方をしてほしくない気持ちはわかるが、大人はいつも正しい買い方をしているのだろうか。
そんな人はほとんどいないと思う。
大人だって買い物の失敗はする。子どもが失敗をするのは当たり前だ。
失敗したときに一番、がっかりしているのは子ども自身。そのがっかりした気持ちによりそうことによって、次からは失敗しないように気をつけようと思えるようになる。
失敗しても怒られないから、いいわけをする必要もなく、自己反省に素直に向かうことができる。
自分がそのことで「お金の失敗をするダメな人間だ。」と思い込むこともない。
それは、お金の失敗からその子を遠ざけることにもなる。
3. 完全を期待する
これも、金銭教育ではよく見られる。
つまり、おこづかい帳と手元のお金の残高が1円も違わず、きちんと合っていることが要求される。
もし、違っていた場合は、翌月のおこづかいはなし、という人もいる。
大人で家計管理を1円の狂いもなくしっかり行っている人がどれくらいいるのだろうか。
講演会で何度も質問をしたけれど、家計簿すらつけていない人も大勢いる。
それは別に、責められることではないけれど、大人でさえできていないことを、何故、子どもにだけ完全を期待するのかと思う。仮に大人が完璧な家計管理を行っていたとしても、だからといって子どもに同レベルを求める理由にはならない。
ただ、1円も違わないように家計管理をすることを目指すことは大切なこと。
どうすればそれに近づくことができるかを親子で一緒に考えればいい。
・買い物をしたらすぐに記帳する。
・レシートを忘れずに受け取る。
親も一緒にできるように努力する姿を見せる方がよほど子どものためだ。
4. 過保護・過干渉
子どものお金の使い方を心配するあまり、手を出し口を出す。
これも、子どもの自信を育てない。子どもは自分の力でやってみて、失敗をしてもそれを自力で乗り越えてこそ、真の自信につながるのだ。
そして、それこそが生きる力。
子どもの時の失敗は、たかが知れている。
その失敗をさせないように、先回りしてアドバイスをすることが、子どもが大人になったときに大きなツケとなってかえってくることになる。大人になってからの失敗は、桁違いになる。
さあ、次回は、子どもに自信をつける「勇気づけ」を具体的に考えていきましょう。(執筆者:鶴田 明子)