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足利HDと常陽銀行が、来年秋をめどに経営統合することが発表されました。横浜銀行と東日本銀行との経営統合は来年の春です。
九州では、福岡銀行と熊本銀行、長崎の親和銀行の3項を傘下に擁する「ふくおかフィナンシャルグループ」が誕生した話や、熊本県トップの肥後銀行と鹿児島県トップの鹿児島銀行が経営統合の話題も最近のことです。
九州というひとつの地域に、上記2つの銀行グループに、長崎銀行を子会社に持つ西日本シティ銀行を加えた3つの巨大地方銀行グループが存在することになります。
当然生き残りをかけて、国内競争に勝ち残るために、地方銀行同士が計絵統合の道を選んでいくのでしょうが、地方銀行特有の悩みも見え隠れします。
目次
地方の疲弊と日銀の国債買い入れ
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今は日銀が、市中銀行が保有する国債を買い取っています。つまり地方銀行にとってファイナンスの手段が狭められることになります。国債投資ができないわけです。
銀行は貸し出しによる金利が大きな収入源ですが、都会と違って地方経済はかなり疲弊しています。加えて地方の人口減少はかなり深刻な問題となっています。
アベノミクスで景気が良くなったかのイメージがあるでしょうが、それは都会などの一部の地域と業種に限られ、オール日本で見れば、全然景気は良くなっていないというのが実態でしょう。
事実株価は上がってはいますが賃金は上がっていない。コンピューター上の画面数字は上昇していますが財布の中身は増えていないわけです。まさに表面的な部分と実質的な部分のギャップを感じます。
都会地方の格差も同じで、むしろますます広がっている感じが否めません。地方銀行は悲鳴を上げている状態かと思われます。
ゆうちょ銀行の民営化と金融庁の思惑
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そこに日本最大の店舗数と預金残高を誇るゆうちょ銀行の民営化です。地方銀行にとっては死活問題です。
自民党案ではゆうちょ銀行の預金上限額1000万円を3000万円に引き上げることが検討されています。今は行ってはいませんが、いずれ完全に普通銀行に業態変更してくれば、ゆうちょ銀行でも貸し出し業務が始まるかもしれません。
住宅ローンに関してはすでに、ゆうちょ銀行はスルガ銀行の住宅ローンを代理として取り扱っています。
さらに金融庁の思惑も絡んできます。日本の銀行数は多すぎるという指摘です。
かねてより金融庁は、日本の銀行数を減らすことを主張してきています。今の政権は日本版リージョナルバンク構想を推進しようとしています。広域地銀化です。
日本ではりそな銀行がこれにあたります。海外拠点を持たず、日本国内各地域に支店網を持つ巨大銀行を作るのです。すべて「効率化の名の下に」です。何が効率化なのでしょう。
ある元官僚の人は、銀行の数を減らすことでペイオフを実質無効化することが狙いではと指摘していたことを思い出します。
ペイオフとは、ひとつの銀行において預金額を1000万円とその利息分は預金保険機構で保障するというもので、何千万円もの資金を持っている人は、預金銀行を分散することで自分の資産が守られるというものです。
しかし、銀行数が減り、たとえば3000万円を3つの銀行に分散していても、3つの銀行が経営都合すれば、保全される金額は1000万円だけになってしまいます。日本版リージョナルバンク構想の真意はどこにあるのでしょか。
TPPも絡んできそうです
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TPPが絡むといえば、
信用金庫や信用組合の業態変更も起こるかもしれません。
信用金庫や信用組合は非営利団体となっていて、TPPのISD条項では、同じ業態で民間企業の急送を阻むものがあれば、投資家が国を相手取って訴えることができます。ひとつの業界に国営企業がある場合などが考えられますが、非営利団体と株式会社との共存もTPPの理念で見れば問題とされるでしょう。
地方銀行再編は、信用金庫や信用組合をも巻き込んだ形で展開されてくるのでしょう。
今後地方銀行の再編は急ピッチで進むと思われます。地方の疲弊と日銀の国債買い入れと金融庁の思惑とが交錯して、ますます地方銀行は厳しい状況に追いやられていくような感じがします。(執筆者:原 彰宏)