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「波乱の1年」予感させる年初の相場
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日本郵政グループ3社の株式が、昨年11月4日に東京証券取引所1部に上場した。そして3社とも上場当日の前場に初値がつき、以下の通り3社全ての株式が公募価格を上回った。昨年8月に起きた中国発の世界同時株安ショックから市場全体が立ち直っていたことも郵政グループ株の上場には追い風であったことだろう。
ゆうちょ銀行(銘柄コード:7182)公募価格1,450円 初値1,680円
かんぽ生命(銘柄コード:7181)公募価格2,200円 初値2,929円
しかしながら、2015年12月中旬頃から世界的なリスク回避姿勢の高まりを背景に、先進国・新興国問わず株式市場は軟調地合いが続いている。原油価格の下落継続による資源国および中東諸国の財政悪化・地政学リスクの高まり、そして米国利上げで浮上する世界経済失速のリスクなどが、円高および日本株の下落を招いているといえよう。
さらには2016年、日経平均株価は年明けからほぼ連日の下落を演じており、投資家にとってまさに波乱の1年を予感させる年初の相場となっている。
金融2社が「日本郵便」を養う構造
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本コラム執筆時点の1月15日において、郵政3社の株価(終値)は、日本郵政1,705円、ゆうちょ銀行1,550円、かんぽ生命2,771円であり、
金融2社の株価は上場時の初値を下回る「上場来安値」を付けたことになった。
市場全体の地合いが悪い中での株価下落であるので、郵政グループ各社の業績予想を必ずしも反映した株価ではないだろうが、上場時に「ゆうちょ銀行」、「かんぽ生命」の2社の株を買った投資家は皆含み損に転じたことになる。
皆さんご存知の通り、郵政グループの中の稼ぎ頭は、金融2社である「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」である。
日本郵政グループ各社の事業の現況を非常に簡単にまとめると、持ち株会社である日本郵政の傘下のもと、万年、郵便事業で赤字を垂れ流している「日本郵便」を金融2社が養っている形となっている。
つまり稼ぐ力があるのは、事実上金融2社だけということだ。日本郵政の2015年3月期の連結当期純収益4,826億円のうち、実に93.5%が子会社である金融2社が稼ぎ出したものである。
「日本郵便」の収益力に左右されるという苦しい現実
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また、厳しい見方をすれば、親子同時上場をしたため、親会社(持ち株会社)である日本郵政が子会社の利益をいかようにも操作できるという
「利益相反」問題があることに加え、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式売却が今後さらに進めば、親会社の企業価値がそれだけ毀損されることになる。
すなわち、日本郵政の企業価値は今回上場されなかった「日本郵便」の収益力に左右されるという苦しい現実があるのだ。2015年3月期決算において日本郵便は約230億円の最終損失だった。
民営化が資本面、事業面双方で「今後どのくらいのスピードで、どういった内容で進んでいくのか?」が、郵政グループ各社そりわけ金融2社の民営化成功のカギを握っていることは間違いないことであろうが、事実上の日本郵政グループの大株主である日本政府(今回の株式売り出し後も、持ち株比率90%を維持)が金融2社の業務制限・規制を徐々に緩和していくことに、民間金融機関(特に信用金庫や信用組合)は民業圧迫と強く反発している。
すでに、郵政民営化委員会はゆうちょ銀行の貯金限度額とかんぽ生命の契約限度額をそれぞれ、現行の1,000万円から1,300万円に、1,300万円から2,000万円に引き上げる報告書をまとめており、それを受けた政府は2016年4月から引き上げる方針である。民業圧迫の批判には適切に配慮・対処していくことが必要だろう。
郵政3社株の収益性・将来性を検証
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筆者は、郵政グループ3社の将来性を楽観視していない。今回上場を果たした3社を「親会社である日本郵政」と金融2社である「ゆうちょ銀行・かんぽ生命」に分けて、投資対象企業としての収益性・将来性を以下の通り整理してみた。
親会社である日本郵政
✔金融子会社2社の民営化(2社の株式売り出し)が進めば進むほど、100%子会社のままである日本郵便の収益力に事実上左右される。
✔インターネットの普及で郵便事業が将来的に先細りしていくため、豪州のトールホールディングス社を買収するなど国際物流企業として生まれ変わろうしているが、その買収戦略の成否は不透明。
✔100%子会社である日本郵便は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命から年間1兆円近い委託手数料を受け取って初めて郵便事業の赤字が維持されているという収益構造から脱却できずにいる。
直近の株価を基にした配当利回り(会社予想)1.35%は、東証上場全銘柄の平均配当利回り2%超と比べるとほとんど魅力はない。よって、中長期の投資対象としてはお勧めしない。
ゆうちょ銀行・かんぽ生命
✔稼ぎ頭である金融2社であるが、依然として政府の関与が残る実質的な国営会社であるため低収益性に甘んじている。収益力の代表的指標である株主資本利益率/ROEは、ゆうちょ銀行が3.2%、かんぽ生命が4.6%であり、メガバンクの平均である10%前後を大きく下回っている。
✔民間銀行や生保と異なり、運用資産の大半が国債に偏っている。2社を合わせて国債運用残高は過去1 年間で大きく減少したものの、国債運用比率はゆうちょ銀行が52%、かんぽ生命が57%と運用資産の5割を超えている。
収益性向上のためには、株式・外債などのリスク資産運用比率を引き上げる必要があるが、それには高度なリスク管理体制の構築と運用体制の確立が不可欠であり、一定のコストと時間がかかる。
✔ゆうちょ銀行は融資業務において、個人ローンは貯金担保融資以外はできず、スルガ銀行の商品を媒介販売している住宅ローンに限定されるほか、企業向け貸し出し業務も協調融資への参加などごく一部に限定されており、依然収益源を有価証券運用に求めざるを得ない状況である。
✔かんぽ生命は、予想配当利回りが2%強と競合する民間生保最大手の第一生命と同水準であり、中期経営計画において配当性向30~50%を目標に掲げているため、安定的な配当は投資家にとって魅力はあるだろう。
また、売上高にあたる保険料収入は5.9兆円と第一生命の5.4兆円を上回り、財務の健全性を示すソルベンシーマージン比率も1644%と競合より高く経営は安定している。
しかしながら、契約が徐々に満了・満期を迎え保有契約件数は減少傾向にある。人口減少で国内市場が縮小する中、競合の民間大手は海外生保の買収に打って出ているが、かんぽ生命は郵政民営化法の縛りで子会社保有は規制されており、買収による成長は見込みにくい。ROEは4.6%と、第一生命の5.2%、T&Dホールディングスの8.0%より大きく見劣りする。
まとめ
年初からの株式相場全体の地合い悪化で、郵政グループ株も相応に下落し割安感を感じる投資家も多いことだろうが、以上述べた理由のとおり郵政グループ3社の株式は中長期の投資対象銘柄としては個人的にはお勧めしない。ましてや、投資初心者が配当利回りを期待してNISAで郵政グループ株を長期保有するのは賢明ではないだろう。
もちろん、短期の値幅取りのための売買であれば一向に構わないが、一般の個人投資家が国の関与が残る会社だからと安心して、安易に安定配当や値上がり益が得られる銘柄だと判断することに筆者は注意を促したい。(執筆者:完山 芳男)