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日本の公的年金は原則として、現役世代が納付した保険料を、その時点の年金受給者へ配分するという、「
賦課方式」で運営されております。
例えるなら会社員や公務員として働く子供が、高齢になった親に対して、仕送りをしているような感じです。
しかしすべての年金受給者に配分するには、現役世代が納付した保険料だけでは足りないので、まだ年金受給者が少なかった頃に貯めていた積立金を取り崩して、保険料と共に配分しております。
この積立金は現在、「年金積立金管理運用独立行政法人」(以下では「GPIF」で記述)によって、国内債券、外国債券、日本株式、外国株式などで運用されております。
従来は国内債券を中心にした、安定的な運用が行なわれてきましたが、株価の上昇を重視する安倍総理によって、平成26年10月より日本株式と外国株式の比率が、大幅に引き上げされました。
これにより平成26年度の積立金の黒字額は、過去最高を更新した平成24年度を、更に上回ることになり、安倍総理の決断は成功したように見えました。
しかし中国の景気減速などの影響により、株価の下落が始まると、積立金の赤字はどんどん拡大していったのです。
特に平成27年度第2四半期(7~9月)の赤字額は、7兆8,899億円となり、四半期の赤字額としては過去最悪を更新しました。
これに加えて最近は日銀が導入したマイナス金利により、国内債券の運用利回りが低下する可能性が出てきており、積立金は大丈夫なのかと心配になります。
GPIFの評価基準は賃金上昇率を1.7%上回る利回り
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公的年金の保険料と保険給付の、バランスが取れているかなどを確認するため、5年に一度のペースで、年金財政の検証が行われております。
直近では平成26年に検証が行なわれ、その結果として労働力率、賃金上昇率、物価上昇率、運用利回りなどが異なる、8つのシナリオが発表されました。
この年金財政の検証の際に厚生労働省は、積立金の運用利回りが長期的に、名目賃金上昇率を1.7%上回れば、どのシナリオにも対応できるとしました。
公的年金の金額は、現役世代の賃金に連動して増減するため、積立金の運用利回りは、名目賃金上昇率を考慮したうえで、評価すべきというわけです。
もう少し具体的に表現すると、積立金の運用利回りは次のように、実質的な運用利回りで評価すべきということになります。
そこでGPIFが発表した「平成26年度運用状況の概要」を見てみると、積立金の名目運用利回りは、自主運用を開始した14年間の平均で「2.76%」となり、同時期の名目賃金上昇率の平均である「-0.34%」を、「3.11%」も上回っております。
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つまり積立金の実質的な運用利回りは「3.11%」になり、これは年金財政上求められる実質的な運用利回りも、上回る結果になります。
もしこれらが正しいならば、平成27年度の運用利回りが、株安とマイナス金利で大幅に低下しても、すぐに積立金が枯渇するような状態にはならないと思うのです。
積立金が減少すると何が待っているのか?
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年金財政の検証の際に示された8つのシナリオのうち、最も悲観的なシナリオHでは、平成67年度に国民年金の積立金が、枯渇すると試算されました。
そのため短期に積立金は枯渇しないとしても、長期的には決して安泰ではないのです。
なお年金財政の検証の際には、公的年金を次のように改正した場合の、「オプション試算」が公表されました。
マクロ経済スライドとは年金額を、毎年度1%~2%程度、減額するというものですが、賃金や物価の伸びが低い年度は適用されません。
オプション試算では、このような年度でもマクロ経済スライドを適用するように改正した場合、年金財政にどのような影響を与えるかなどが試算されました。
(2)社会保険の適用拡大
平成28年10月から社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用者が、現在より拡大される予定です。
オプション試算では、このように社会保険の適用者を拡大していった場合、年金の受給額にどのような影響を与えるかなどが試算されました。
(3)受給開始年齢の繰下げ
原則65歳から支給される老齢厚生年金などを、70歳までの希望する時期まで繰下げして受給した場合、65歳から受給した時より、年金額が増額されます。
ただ給与と年金の合計が高く、在職老齢年金の仕組みにより、年金額の一部が支給停止された方については、その支給停止額を差し引いた額のみが、繰下げにより増額となります。
オプション試算では、在職老齢年金の仕組みを廃止して、70歳まで繰下げを選択した場合、年金の受給額にどのような影響を与えるかなどが試算されました。
以上のようになりますが、このオプション試算を見ると、年金の積立金が減少して枯渇が近づいてきた場合に、政府がどのような対策を取るかが、イメージできると思うのです。
もし(1)のように賃金や物価の伸びが低い年度も、マクロ経済スライドによって、年金額が減額されるようになるなら、老後の生活資金を貯めるための自助努力が、今まで以上に必要とされます。
その自助努力のひとつとなる、個人型の確定拠出年金の掛金は、年末調整や確定申告の際に、「小規模企業共済等掛金控除」として、所得から控除できるのです。
この所得控除による節税効果が、金利の低下を補いますので、同じ定期預金であっても、個人型の確定拠出年金で運用した方が有利になります。(執筆者:木村 公司)