安倍政権が誕生して以降、アベノミクスは今年で4年目を迎える。
黒田東彦氏が日本銀行の総裁に就任し「デフレからの脱却・インフレ目標2%」を掲げて異次元の量的質的金融緩和を開始したのが2013年4月。
アベクロバブル政策(金融緩和を主体とした資産バブルを誘導する政策を、安倍首相と黒田日銀総裁の名前を組み合わせてこう名付けた)が実施されてからの期間でみると、ちょうど3年が経過したことになる。
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目次
アベクロバブル政策
民主党政権時代に、一時1ドル80円を超える超円高だった円相場から、マネタリベースを2年で2倍にするという日銀の量的金融緩和政策の効果で急激に円安トレンドへ転換し、2015年6月には1ドル125円を超える円安ドル高水準に達した。
一方で、8,000円台で低迷していた日経平均株価もアベクロバブルと円安の波に乗って大きく上昇を続け、時折価格調整を挟みながらも2015年8月には一時2万1,000円に迫る水準まで達した。
チャイナショック
しかし、その直後に中国人民銀行が低迷する輸出競争力を回復するため、人民元の大幅切り下げを急遽実施したため世界同時株安が引き起こされ、それに原油価格の下落継続が重なり投資家のリスク回避姿勢が一気に強まった。
日本株はピークを付けた2015年8月以降は下落基調を続け、12月上旬には一旦2万円を回復するも、2016年初から下げ幅を加速させた。
新年度に入った4月5日の終値(本コラム記事執筆時点)は1万5,732円で、昨年8月ピークから2,500円以上も下落したことになる。
円相場においても、米国および世界経済の減速懸念からFRBによる連続利上げ見通しが後退したこと等を背景に、足もとでは1ドル110円台半ばで推移しており、昨年6月の円安ドル高水準からはなんと15円も円高が進行している。
輸出企業を中心に2016年度の業績下振れリスクが高まっており、米国株より日本株のパフォーマンスが相対的に悪いのは、年初から想定以上に進行している円高が大きな理由であるのは明らかだ。
乱高下する相場
さて、2012年末から始まったアベノミクス相場で大儲けした人の多くは、2015年8月下旬のチャイナショックそして2016年の年初からの株価急落により、それまで稼いだ利益を一気に吹き飛ばしトータルの損益では含み損失に陥った人がほとんどだと思われる。
十分な投資経験がある人でも、利益確定や損切りを機動的に行って乱高下する相場を乗り切るのは難しいことだ。
ましてやアベノミクス効果に期待して投資を始めた初心者であれば、機動的な投資判断はできるはずもなく
「アベノミクスに騙された!?」
「初めて購入した投資信託が、円高・株安で損失が増えていくばかりだ…」
と日々不安にさいなまれていることだろう。
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個人投資家には厳しい状況が続く
残念ながら、日銀によるマイナス金利導入や追加の金融緩和政策だけでは、円相場を円安トレンドへ押し戻すことも、株価を大きく引き上げることも不可能である。
個人投資家にとっては非常に厳しい投資環境がしばらく続くかもしれない。
朗報や期待はある
しかしながら…原油価格に下げ止まりの兆しが見え始めており、一時の波乱相場からすれば足もとの金融市場が落ち着きを取り戻していることは朗報だ。
個人投資家が抱えている含み損失がすぐに解消することは難しいだろうが、日本政府が2017年4月に予定している消費税増税の再延期を決断する、あるいは大型の財政出動を景気対策が打ち出されれば、日本株は一時的にせよ反騰局面を迎えるかもしれない。
あまり淡い期待は持ちたくはないが、今年5月に開催される伊勢志摩サミットまでの時期、遅くとも夏の参議院選挙までには、政府による大胆な経済政策が打ち出されることを今しばらく待ってみてはどうだろう。
こんな時こそ詐欺に気を付けて
間違っても、「何とかして損失を取り戻す方法はないか」と急ぐあまり、追加資金でハイリスクの金融商品を購入することはもとより、怪しい投資話や胡散臭い勧誘に乗ることだけは絶対に避けなければならない。
個人投資家の皆さんが、投資詐欺に巻き込まれない、騙されない様、資産運用に関する相談を受ける際、筆者は常に相談者へ注意喚起をしているのであるが、投資詐欺(詐欺まがいの投資案件を含む)の被害に遭う人が絶えないのは本当に残念なことだ。
本稿で、投資詐欺の手口や特徴を過去の事例を挙げながら紹介することで、一人でも多くの個人投資家および消費者が被害に遭わない様、社会啓蒙の一助となれば幸いである。
過去に日本や海外で起きた主な詐欺事件
以下に時系列的にまとめてみた。
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中高年世代の方であれば、1985年に発覚した豊田商事による詐欺事件を覚えていることだろう。
主に独居老人を標的として金地金の購入契約を勧誘する手口だが、現物は購入客には渡されず、預かり証のみを代金と引き換えに渡す形式を取ったもので、実態は証券という名目の紙切れしか手許に残らない現物まがい商法(ペーパー商法)だった。
高齢者を中心に数万人が被害に遭い、被害総額は当時としては史上最大の2,000億円近くと見積もられ、豊田商事の永野一男会長がマスコミの前で惨殺されたことも大きな社会事件となった。
近年の金融詐欺事件で記憶に新しいのは、米国の病院の診療報酬請求債権に投資をするMARS投資で、その資産会社である「MRIインターナショナル」が約8,700人の顧客から集めた資金約1,300億円を消失させたとされる事件。
和牛預託商法最大手の畜産会社「安愚楽牧場」がおよそ7万3,000人から約4,200億 円もの資金を集めた和牛オーナー制度が行き詰まった事件があげられようか。
詐欺の手口はほとんど変わっていない
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1985年から2015年現在までの30年を振り返っても、詐欺事件は、手を変え品を変え、看板を掛け替えながらも、
本質的な手口はほとんど変わっていない様に思われる。
(1) 自転車操業のポンジ・スキーム詐欺だったということ
(2) 投資家の資産が保全されていない(守られていない)
(3) 有名人を広告塔として資金を集める手口であることが共通している
ポンジ・スキームとは
詐欺の一種で、「出資された資金を運用し、その利益を出資者へ配当金等の形で還元する」と謳っておきながら、実際には資金の運用を行わず、後から参加した別の出資者から新たに集めたお金を以前からの出資者に「運用から得た配当金」と偽って渡すことである。
あたかも資金運用が実際に行われ利益が生まれて、それが配当されているかのように装う詐欺である。
過去に起きたポンジ・スキームを知ることで、金融詐欺を避けることはできると筆者は考えている。
そのためには、以下の3つポイントを肝に銘じよう。
有名人・著名人や権威でも疑うこと
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米国証券業界の大物で高度な運用能力を持つと称賛されていたB・マードフが30年にもわたり投資詐欺を働いていたのが、2008年に発覚したマードフ事件で被害総額は3兆円~5兆円といわれている。
1996年に発覚したオレンジ共済組合事件は、首謀者が現役の参議院議員である。
またその他多くの金融詐欺では、資金集めのために有名人を広告塔としてCM等に起用したり、大手メディアに大量に広告を出稿したりすることで、当該の投資商品やファンドが安心できるものであると思わせる手口には注意が必要である。
ちなみに、裁判では、新聞社には広告受託による投資家への損害賠償責任はないとの判決が出ている。
巧妙な高利回りも注意すること
実際にありえない高利回り(たとえば1年で50~100%の利回りが確実に得られるなど)を謳う投資スキームはすぐに詐欺だと見破られてしまう。
しかし、近年の投資詐欺では、AIG投資顧問やMRIインターナショナル事件の様に、6~8%の安定した確定利回りといった通常得られると考えられる水準より数%高めの運用利回りを標榜し、それに元本保証という要素を加えている。
長期金利(10年物国債の利回り)がマイナスであり、預金金利がほぼゼロの時代に、元本保証で6%の利回りが安定的に得られる投資案件はあり得ないことを肝に銘じよう。
投資経験や金融知力のある人ほど騙さやすい
投資経験や金融知識があり、経済情勢に比較的明るい現役のビジネスマンをあえてターゲットにした投資スキームも増えているので注意が必要だ。
たとえば、ワイン投資は伝統資産である株式や債券の値動きとは相関性が低いといって勧められると、金融知力のある投資経験者は自尊心をくすぐられて勧誘に乗ってしまいやすい。
投資経験や金融知力のある人ほど騙さやすいと用心すること。
投資した資金の大半は戻ってこない
万一、投資詐欺の被害者になった場合、被害弁護団に参加して失った資金の弁済を受けようとしても投資した資金の大半は戻ってこない。
過去の例をみる限り、数十分の一以下程度の弁済しか受けられないケースがほとんどである。
詐欺事件の首謀者が逮捕・起訴されてその後有罪判決を受けた場合でも、投資資金はほとんど返還されないのが現実である。
投資詐欺スキームによって出資金を失っても結局は泣き寝入りするしかない。
繰り返しになるが、昨今の投資環境悪化で損失を抱えたとしても、何とかして損失を取り戻そうと急くあまり、怪しい詐欺投資案件の勧誘に引っかからない様くれぐれも注意を促したい。
個人投資家の中には、「アベノミクスが失敗したせいだ!」と政府の経済政策や日銀の金融政策を批判する人は多いと思われるが、投資で失敗することも、金融詐欺に騙され大切な資金を失うこともあくまで自己責任なのだ。(執筆者:完山 芳男)