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ブリグジットとは?
筆者、毎年恒例の年初の経済展望セミナーで、今年のリスク要因としてブリグジットを上げていました。
“ブリグジット”=Brexitとは、「英国がEUを離脱」するという意味の造語で、EUとは、欧州28か国が経済と政治面でパートナーシップを結ぶ“欧州連合”のことです。
その「英国のEU離脱」のリスクですが…
今年6月23日(木)に、EUに残留すべきか? それとも離脱すべきか? を直接、国民に問いかける国民投票を実施することが決まったため、急速に現実味を帯びてきたかの報道がなされています。
「残るべきか? 出るべきか?…」
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この二者択一の国民投票に対して、デイビット・キャメロン首相は、「改革後のEUにとどまることで英国はより安全で、より強靭で、より豊かになり、離脱すれば経済や安全保障にとって脅威になる」と述べています。
さらに、産業界や金融界の多くもEU残留を支持しているようですし、普通に考えれば「残留」となるような気もします。
ただし、次期首相候補にも名前が挙がり、国民的な人気と知名度を誇るロンドン市長のボリス・ジョンソン氏が離脱支持に回るなど、意外にも「離脱」選択という可能性も高まっているようです。
なぜ離脱?
では、「離脱」を支持する人々の根拠は何なのでしょうか?
筆者的にいくつか考えてみました。
【理由1】 統制強化に対する反発
英国内の法律等に関して、EUからの統制力が強まり、主権を奪われているという反発感。
【理由2】移民の急増問題
2004年にEUに新規加盟したポーランドなど東欧諸国から英国へ流入した移民の急増で、低賃金で働く移民が雇用を奪っているといわれる問題。
さらに、昨年以降の難民危機も重なり、域内のヒトの移動の自由を基本理念に掲げるEUへの懐疑論。
【理由3】テロ問題
国境検査なしで国家間を移動できる「シェンゲン協定」が裏目となるような相次ぐテロの勃発。
「国境無し」を前提に成長してきた欧州に対する懸念。
など…
あげればキリがないのでしょうが、傍目から見ていると、このようなことが考えられるのです。
そこで、「もし英国がEUを離脱」したとすると、予想されることを考察してみたいと思います。
英国経済への影響
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仮に英国がEUとの間で関税面でのメリットを失う場合、英国をEUの進出拠点と考える多国籍企業の大半は、他のEU諸国に進出先を移転するのではないでしょうか
。
また、EUの単一免許制度の適用外となれば、これまで国際的な業務展開をしてきた英国の誇る金融業は、業務の一部をEUに移管する可能性すらあります。
結果として、シティがEUの金融“センター”としてのポジションを失えば、金融業に限らず周辺サービス業を含めた英国経済全体への影響は避けられないと思われます。
さらには、雇用や輸出を引っ張ってきた外資系企業の空洞化や人材の中心地としての魅力も低下し、英国経済への影響は計り知れないのではないでしょうか。
一説によると、1,000億ポンド(約15兆円)のGDP、約100万人の雇用を失うともいわれています。
また、英国の中でも親EU色の強いスコットランドやウェールズが英国から離脱してEUに加盟する可能性もあり、そうなれば英国分裂というリスクも台頭してきます。
EU諸国への影響
離脱後の英国が他のEU諸国との間で新たな関税同盟を結ぶのか? や、はたまた金融業がEU離脱後の英国に残留するのか? など読みづらいことは多いですが、いずれにしても、EUとしての一体性に疑問符が打たれ、ユーロ圏を始めとしたEU諸国にも様々な動揺が広がると思います。
英国離脱後の残された国々のEU予算の拠出負担が増加することも想定されます。
また、残された国の中で相対的にフランスやドイツの発言力が増す可能性もあり、そうなれば、EUに対する不満・不安が加速することも考えられます。
日本企業への影響
では、地理的には遠い日本への影響はどうでしょうか?
これまで英国は、豊富な人材や地理的利便性、情報収集の拠点、高い技術力、製造業の人件費が割安、政治的安定性など、他の大陸欧州諸国と比べて有利性を誇っていました。
故に英国は、日本企業にとってドイツと並んで欧州で最大の進出先の1つでした。
仮に、英国のEU離脱が現実となれば、同国に進出する日本企業も何らかの戦略変更を余儀なくされるでしょう。
マーケットへの影響、そして…
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これまでの考察は一般によく言われていることですが、ここではファイナンシャルプランナーとして、マーケット(金融市場)への影響について考えてみたいと思います。
投票結果が離脱となれば、先述したように離脱後の英国経済を巡る不透明感が一層高まり、マーケットへの影響も少なからず避けられないでしょう。
経済活力の低下、経常赤字の拡大、金融部門の弱体化などに対する懸念が高まり、結果として、英国国債や銀行の格付けが引き下げられ、資金調達コストの上昇によるロンドンの地価下落、大幅なポンド安進行などといったことが起きる可能性があります。
さらに、EU向けビジネスを展開している英国企業の業績悪化から英国株安、EU崩壊の危機感からユーロや欧州株全体の急落懸念も台頭するかもしれません。
そうなれば、世界中でリスクオフとなり、押し出されるような円高、そして日本株安…と、負の連鎖になる可能性すらはらんでいると思います。
このように英国の重要産業である金融部門が動揺すれば、その影響は英国のみならず、全世界的にも広がる可能性があります。
つまり、英国のEU離脱は同国だけの問題ではなく、中長期的には世界中の政治や経済に大きな影響を与えるでしょう。
6月23日の投票結果に注目です。(執筆者:阿部 重利)