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日本円が安全って…?
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とよく言われますが、違和感を感じたことはないですか。
世界でも流通量がさほど多くなく、とても日本の経済状況が良いとは言えないにもかかわらず、どうして日本円がそんなに安全とか安心と言えるのでしょう。
この表現の根拠は、日本は世界で冠たる債権国で、常に経常収支は黒字で、何もしなくても、貸付に対する利払い金が稼げるからだというのがあります。
それはそれで事実ですが、だからといって世界でもっとも安全な通貨と定義付けるには無理がありますよね。
むしろ慢性の経常赤字国であっても、基軸通貨であるドルのほうが安全通貨と言えるのではないでしょうか。
日本国債のほとんどは日本国内で買われているとか、日本には国債発行量よりも多い個人資産があるから日本円は安全とするのはどうでしょう。
外国人投資家が増えきた日本の国債市場
日本の国債市場も、外国人投資家の比率は増えてきています。
先物市場で、外国人投資家が売りを仕掛けてきたらどうでしょう。
日本国債格下げとなれば、日本国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)価格は上昇するかもしれません。
CDSは、簡単に言えばデフォルトに備えた保険のようなもので、その価格が上がるということは日本国債が危険だということを連想させることにもなります。
また個人資産があるといっても、日本がデフォルトしそうだから、持っている個人資産を投げ出してくださいとでもいうのでしょうか。
これらは日本円が安全・安心という根拠としてはどうでしょう。
しかもドルは決済通貨です。
つまり世界の商取引はドルでなされているというところが、ドルにとってはとても重要なのです。
原油も金(GOLD)もドルで取引されていますよね。
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日本が経常黒字国ということの意味は?
安全・安心通貨の話のまえに、さきほどの「日本は経常黒字国」だということに注目してみましょう。
いままでは急激な円安に加え、原発がとまっていることで、エネルギーの輸入量が増えて、経常赤字になっていました。
しかし昨今の原油安で、この経常赤字額が激減しているのです。
経常赤字ということは、輸入が輸出よりも多いわけで、支払いのほうが多くなります。
海外決済はドルですから、円を売ってドルに換えて支払います。日本円から見れば円安になります。
株も為替もそうですが、価格は需給のバランスで決まります。買う人が多ければ上がり、売り人が多ければ下がります。
投資においては、日本の機関投資家や個人投資家、外国人投資家が売ったり買ったりしていて、そのバランスでマーケットは決まりましが、意外と均してみればフラットになるということがあります。
しかし、貿易における動きは、一方通行と言えます。日本円から見れば、貿易赤字なら円売り、貿易黒字なら円買いです。
あくまでも商行為におけることなので、投資のように相手があっての投機的なやり取りではありません。
この貿易収支は、無視できないことかと思います。
「日本円が安全・安心通貨だから買われる」というのは間違い
さて日本円が安全通貨と呼ばれるゆえんは、リスク・オフの時に買われる通貨だからかと思います。
この現象を安全通貨だからと切り捨てるのではなく、もうちょっと丁寧に見ていきましょう。
世界中で日本株だけが下落した要因
為替投資は金利差を取りに行くことなので、低金利通貨を売って高金利通貨を買うのが基本です。
慢性の低金利状態の円は常に売られるポジションにあるのです。まさに円キャリートレードです。
それが、俗に言う、日本がキャッシュディスペンサーになっているということに繋がります。
日本で円を調達して、その円を売って高金利通貨を買います。
さらに、アベノミクス初動のころ、黒田総裁がインフレにするといった瞬間、円は売られました。
このころは、海外投資家は大量の円売りポジションを持っているわけです。
海外投資家は、アベノミクス初動に、大量の日本株を買っていたので、世界がリスクオフになった時に、持っているポジションを手仕舞い、現金に換えるために日本株を売りました。
世界中で日本株だけが下落した要因と言われています。
サウジアラビアを中心としたオイルマネーが、原油価格下落に伴い、大量に日本株を売ったことで、日本株が大きく下落したわけです。
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リスク・オフのときの円買い
これと同じ動きが為替でも見られるのです。
海外の大きなファンド勢は、日ごろから資金調達通貨として、低金利の円を仕入れて売って、高金利通貨である外貨を買っているわけで、常に円売りポジションは膨らんだ状態にあります。
これがリスクオフ状態になると危険ですから、ポジションを手仕舞う行動に出ます。
危ない時にはどこにも投資をしない、現金で持っておこうと思うのは我々と同じです。
ポジションを手仕舞うということは、円売りポジションを解消することですから、高金利通貨を売って円を買い戻すという動きが見られるわけです。
そしてそのまま日本円でもっておいて、次のときに外貨を買うチャンスをうかがうわけです。
これが、リスク・オフのときの円買いに繋がるのです。
円高という現象はなぜ起きるのか
ドル/円レートが大きく変わらないのは、ドルも円も同じ方向に動いているからで、両方が強いとか弱い状態にあったからです。
アメリカがドル安政策の時は当然円高になり、ドル高政策になったときは、ドルと同じぐらい円も強かったのでドル/円では変わらず、ドル以外の通貨(クロスレートといいますが)では円高となっていたのです。
昨年は急激に経常赤字が縮小されました。
つまり、円安の勢いが止まることになります。
しかし、銀行やゆうちょ・かんぽ、保険会社など、盛んに外債投資を行っていました。
私たちの年金資産も海外投資を増やしました。完全ではないですが、相殺された格好になったのでしょう。大きな円高にはならなかったようです。
ところが原油安が止まらず、世界的にリスク・オフムードになると、海外勢はポジション手仕舞いで、円を買い戻してきました。当然円高になりますよね。
くじらと呼ばれる年金資産なども、そうそうは外国投資を続けられません。海外投資の勢いは止まります。
そこに経常収支の大幅改善です。
それが足もとに起こっている円高という現象になっているのです。
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日本円が買われる理由
それは日本円が安全・安心通貨だからではなく、ファンドと呼ばれる巨大な外国人投資家のポジション(円売りを抱えているか、円買いを抱えているか)の問題なのです。
となると、海外勢が大量に円売りポジションを抱えているいまは、当分は円高の流れは止まらないといえます。
そうだとすれば、円高は海外投資家のポジションの問題、経常収支の改善、そして実は、日本はまだデフレ状態から脱していないということなのです。
デフレはすなわち通貨高、日本では円高ということになります。
「インフレ」「デフレ」と為替の関係は?
物価と為替はイコールです。
つまり、物価が上がるから通貨安になるのではなく、物価高になれば通貨安になるということです。
この逆、デフレはイコール通貨高といっているのと同じなのです。
景気は空気の様なもので、直接人が手を下せるものではないので景気を良くする、つまり物価を上げるために為替市場に手を入れることで物価を調整します。
アメリカはデフレになりたくないので、ドルを安くする政策を採ったわけです。
ドル高になるとデフレになるので、ドル安政策を採ってデフレにならないようにしたということです。
それが、アメリカのリーマン・ショック後の、歴史的な量的緩和政策だったのです。
いまの欧州中央銀行(ECB)も、日銀も、量的緩和拡大で、通貨安を誘導することでデフレに陥らないように、あるいはデフレから脱却しようとしているのです。
報道とは違うことですが…
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日本はインフレにはなっていません。となると実質金利は高い状態にあるといえます。
名目金利は確かに低いですが、物価水準を考えると、実質金利は高くなります。
名目金利からインフレ率を引けば実質金利ですから、インフレ率がマイナスだと、実質金利は上がりますね。
日銀のマイナス金利政策は、この実質金利を下げようとした政策なわけです。
為替取引は金利差を取りにいきます。
それも実質金利で動きますから、マイナス金利導入で、日本の実質金利を抑えて円安に誘導しようとしたのです。そうすることでデフレからの脱却が図れると踏んだのでしょう。
ところが、原油安状態が続き、世界の投資家のリスク・オフマインドが続くと、海外投資家のポジション手仕舞いで、円高が加速しました。
貿易収支改善もさることながら、日本がなかなかデフレから脱却していないと、海外勢は判断したのでしょうかね。
というのが為替取引の鉄則です。
日本が安全・安心通貨だから円が買われるという発想では為替の行方は見通せません。
ちょっと難しい内容だったかもしれませんが、報道とは違うことなので、よく理解しておいてください。(執筆者:原 彰宏)