5月に入り、新入社員の皆さんはそろそろ職場の雰囲気にも慣れてきた頃でしょうか。
新たな環境の中でたまったストレスや連日続いたであろう集合研修による疲れを、GW連休で解消しリフレッシュできたのならいいのですが。
前回コラム(第1回)に続いて、新社会人となった皆さんに向けて、マネーやライフプラン等についてアドバイスをさせて頂きたいと思います。
今回のテーマは、生命保険についてです。

目次
安易に勧められるまま、生命保険には入らいないこと
最初に結論をお伝えしますが、「新社会人の皆さんは、必要性を自分自身で理解するまで生命保険には加入すべきでない」というのが筆者の考えです。
職場の上司や先輩から「社会人になったのだから、生命保険くらい入るのが当たり前だ」と言われた、あるいは職場内で営業活動をしている生保のセールスレディから熱心に加入を勧められた人も多いことでしょう。
でも、そういった理由でなんとなく保険に加入してしまうというのが一番悪いパターンです。
「とりあえず生命保険に加入してしまう」ことは論外ですし、「義理やお付き合いで安易に加入する」ことも絶対に避けなければなりません。
本コラムでは、詳細な保障額の設計や保険プランの提案はしませんが、新社会人の皆さんに生命保険についての大切な知識と考え方をしっかり身に着けて頂くきっかけになれば幸いです。
新社会人の皆さんに扶養すべき同居家族や親類がいないのであれば、死亡保障は基本的に必要ありません。
死亡保障とは本来、世帯主である自分自身が万一亡くなった際、残された家族の生活が立ち行かなくなることを防ぐために、必要となる生活資金を保険金というまとまったお金で備えるというものです。
もし社会人になったばかりのあなたが近い将来結婚する予定があるとしても、当面は夫婦共働きをするつもりであれば死亡保障は必要ありません。
死亡保障が必要になるのは、若い夫婦に子どもが生まれた際、その時点で十分な貯蓄や金融資産を保有していない場合です。 例えば、子どもが大学を卒業して独立するまでの20年余りの期間に、世帯主を被保険者とした死亡保障を確保するのです。
保険金額を設定するおおまかな手順を以下に説明しましょう。
保険金額を設定する例
夫婦2人・子ども1人(0歳)で、現時点で配偶者である妻が専業主婦という前提です。
遺族生活資金を試算
基本生活費を子どもが大学を卒業して独立するまでの22年間(3人家族)と、その後配偶者が平均余命を全うするまでの期間(夫婦2人家族)に別けて試算し、それらの合計を遺族生活資金(A)とする。
※基本生活費がいくらくらいになるのかは人それぞれですが、日頃から家計簿をつける習慣をもつなり生活費を支出する銀行口座やクレジットカードを特定するなりして、生活費の金額や傾向を日頃から把握しておくことが必要です。
遺族生活資金を試算する際の年間生活費は「基本生活費(月額)×12か月」といった大まかな計算でいいでしょう。
教育資金を試算
大学卒業するまでの子どもの教育に関する費用を教育資金(B)として試算する
※子供の教育費用は、学校が私立か公立かで金額に大きな差が出てきますが、教育費の負担が大きくなるのは高校入学から大学卒業までの期間です。
日本政策金融公庫による「教育費負担の実態調査結果(平成27年度)pdf」が参考になります。
公的年金受給見込み額の確認
遺族厚生年金や遺族基礎年金といった公的遺族年金の受給見込み額(C)を確認する
※遺族年金の計算には、標準報酬月額(額面の月給ではない)が必要になるので会社の給与課に問い合わせる必要があります。
また、年金受給額の試算はやや複雑なので専門家(社会保険労務士やFPなど)に相談した方がいいかもしれません。
弔慰金等の金額の把握
従業員が死亡した際、遺族に弔慰金や見舞金を支給する制度が用意されているどうかを会社に確認し、そういった制度があれば弔慰金等(D)の金額を把握する
保険金額となる必要保障額の計算は以下の式になります。
以上の手順によって計算された必要保障額を保険金額に設定するのですが、シンプルかつ契約更新がないタイプ(保険期間中は保険料が変わらない)で「掛け捨ての定期保険」に加入するのがいいでしょう。
尚、子どもの教育費について別途備えがあったり、祖父母からの資金援助が期待できたりするのであれば、その分教育費にかかる必要保障額は少なくて済みます。
また、配偶者が専業主婦でなく働いている場合は、その収入分だけ必要保障額は少なくて済むことが想定できます。
さらにいえば、保険期間を通じてずっと同じ保険金額を維持する必要はありませんので、子どもの成長に合わせる形で年々保険金額を自動的に減らしてしていく「低減定期保険」に最初から加入すれば保険料はさらに安くなるはずです。
いずれにしても、保険の営業担当者から「社会人となったあなたには2,000~3,000万円くらいの保険金額が必要です!」といった根拠のない漠然とした提案を鵜呑みにして生命保険に加入してはいけないのです。
少なくとも上記の手順を踏んだうえで保険金額を設定することが必要になりますので、所帯を持つ前の独身時代から相応の知識を持っておくことと家計管理をしっかり行っておくことが大切です。

医療保険も実は必要がない!?
では、怪我や病気に備えて医療保険には入った方がいいのでしょうか?
医療保険への加入も基本的には不要と筆者は考えています。
会社員になった皆さんは健康保険組合(中規模以下の会社であれば、全国健康保険協会いわゆる協会けんぽ)による公的医療保険に加入しているはずです。
ですから、怪我や病気はもちろんのこと入院をした場合でも、病院窓口で支払う自己負担の金額は医療費の3割になります。
また、1か月の医療費の自己負担額は高額療養費制度によって上限が定められており、月額給与(標準報酬月額)が26万円以下の場合であれば、保険医療費の自己負担額の上限は5万7,600円(平成27年以降)で済みます。
たしかに民間生保の医療保険は、通常入院1日あたり1万円といった定額の入院給付や所定の手術費用、特定の高度先進医療を受けた場合の高額な治療費(技術料)を賄うことができるという安心は得られます。
ただ、そのようなケースに該当する可能性はそれほど高いとはいえず、長期にわたる保険料を毎月支払い続けるほどのメリットがあるかどうかは冷静に考える必要があります。
諸外国と比較しても、日本の公的医療保険制度はかなり充実しているということを踏まえると、民間の医療保険には加入せず、そのかわり毎月しっかりと貯蓄をしておく方が賢明といえるでしょう。
最後に

以上、新社会人の皆さんに向けて、生命保険の加入の必要性について述べてきましたが、筆者は「民間の生命保険に加入する必要は全くない」と断言しているわけではありません。
個人的な意見として必要性は低いと言わざるをえないものの、皆さん自身が生命保険加入のメリットを保険料負担とともにしっかり理解した上で加入すべきかどうかを判断してもらいたいと思います。
社会人になったばかりの皆さんが、社会保障制度や生命保険、そして投資を含む資産形成について今のうちからしっかり勉強を始めていけば、早い段階から正しい金融知力を持つことができるでしょう。
そうなれば、家計管理の向上やライフプランの実現に繋がっていくでしょうし、さらには日々の仕事にも大いに役立つことでしょう。(執筆者:完山 芳男)