高齢者のパソコン・インターネット利用率が年々上昇しており、本人が亡くなったときに、PCのハードディスクや各種記録メディア、金融取引で必要なログインパスワードの管理、さらにはクラウド上に残された「デジタル遺品」をめぐってトラブルが増加している。
ワイドショーの話題に挙がる様なテーマかもしれないが、実は筆者の相談者においてもご家族の急死に伴いデジタル遺品の取り扱いで問題になったケースがあった。
コミュニケーションツールとしてデジタルデータやクラウドサービスに慣れ親しんでいる現役のビジネスマンや若年層にとって、これはけっして他人事ではない。
不慮の事故で若くして亡くなることも想定し、デジタル遺品を身近な問題として考えてみよう。
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目次
そもそもデジタル遺品とは?
PCやスマートフォンの中には、写真・画像や動画などのデジタルデータを始め、SNSのアカウント、各種パスワード、さらにはネット銀行、証券会社に預けている預金や有価証券など、個人に関する極めて重要なプライバシーと資産がたくさん詰まっている。
そこで、万一自分自身が急死したときを想定して、残された家族が困らない様、どんな情報がデジタルデータとして保存・管理されているのかを、概要くらいは普段から家族へ知らせておきたい。
生前には家族に知られたくないが、死後には知らせるべき情報であれば、少なくともそれらの存在や内容を書き記したノート等を保管しておき、そのことを配偶者や子へ必ず伝えておくのがいいだろう。
金融取引と趣味趣向に関するデジタル情報がトラブルのもとに
個人が開設しているウェブサイトやブログあるいは、日常的に利用しているフェイスブックページやインスタグラム等のクラウドサービスは、本人が急死した後、たとえそのままの状態で放置されたとしても大した問題は起きないかもしれない。
情報の更新が止まるだけで、有料サービスを利用していなければ課金され続けることもないからだ。
でも、自分自身の死後もフェイスブックのページ等がそのまま公開され続けるのは、亡くなった本人にとっても家族にとってもけっして気持ちの良いものではない。
死後にトラブルを引き起こすことはないとしても、それらのアカウントはやはり適切に削除する必要はあるだろう。
デジタル遺品に関するトラブルで多いのは、金融資産すなわち『お金関係』のものと、故人にとって誰にも知られたくない『趣味趣向』のものの2つだ。
銀行口座の存在を本人しか知らないケースも多い
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とりわけお金関係の場合は、残された遺族が遺産分割の際、より深刻な事態に陥りやすいので、争いやトラブルが起きないよう、生前からネット銀行や証券会社との取引の存在や保有資産の状況が家族にも容易に確認できる様、情報をまとめて整理しておこう。
銀行預金において通帳と印鑑が取引に必要だった時代は、それらの保管場所を配偶者や同居家族が知っていれば、入出金などの取引内容と残高は万一の際、通帳記帳をすれば家族でも容易に確認できる。
しかし、近年は通帳を発行しないネット専業銀行が少なくなく、取引内容はもとより銀行口座の存在を本人しか知らないケースも多い。
夫が急死した後、夫のPCのインターネットブラウザのお気に入りに登録されているネット銀行サイトやスマートフォンのアプリを見つけて初めて、夫の隠し銀行口座(へそくり口座?)の存在を知ることもあるのだ。
たとえ大した預金残高がなくても、相続財産には違いなく、口座名義人である夫の死亡を一旦銀行に伝えると、口座は即座に凍結され、妻といえども自由にお金を引き出すことができなくなる。
まとまった残高のある夫名義の預金口座から、葬式等の費用を支払うため資金を引き出そうとすれば、通常は亡くなった夫(被相続人)の戸籍謄本はもとより、法定相続人全員の同意を得た遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書や戸籍謄本を添付)等の必要書類を提出しなければ、預金の引き出しや口座解約等の手続きをすることは出来ない。
いずれにしても、店舗のある一般の銀行の口座ならともかく、ネット専業銀行の口座を持っているのなら、口座を保有していることと、その銀行のウェブサイトへログインするためのIDとパスワード(少なくともそれらを書き記したノートの保管場所)を生前に家族に知らせておこう。
そうすることで、早くから相続財産として把握され、後々相続人たちが遺産分割で揉める様なことを防げるかもしれない。
先物取引による多額の損失が遺族を苦しめることも
株式をはじめとする有価証券のネット取引で厄介なのは、先物取引や外国為替証拠金取引(いわゆるFX取引)だ。
通常の株式や投資信託への投資であれば、証券会社から取引報告や計算書等の書類が定期的に自宅へ郵送されるので、生前に取引の存在を家族が知ることかできる。
でも、FXや先物取引の場合、取引はもちろんのこと、事務連絡をはじめ取引報告書の発行は全てメールやネット上で完結してしまうケースが多いので、家族が取引の存在や実態を生前に知らないことが多い。
リスクの高いFXや先物取引では、夫の死後もそのまま取引の持ち高・ポジションが継続されて、相場の急変動により一気に数百万円~1千万円を超える評価損失を抱え、場合によっては強制ロスカットによる多額の損失確定や追加保証金の入金を余儀なくされる事態も起こりうる。
夫の死後しばらく経って、取引業者からの連絡により初めて遺族が先物取引の存在と多額の損失が発生したことを知る羽目になるのだ。
家族のために情報を記したノートを用意する
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常日頃から、自分自身の行っている投資や金融資産の全てを家族に開示しておくことに躊躇することはあるだろうが、取引している業者名と取引に必要なID・パスワードのリストくらいは必ず作成しプリントアウトしておく。
つまり、PC内だけでそれらのパスワード類を管理するのは十分ではない。
そして、家族に伝えておきたい大切な情報を記したノート(いわゆるエンディングノート)と一緒に保管しておけば、自分自身の死後、家族が金融取引の存在をすぐに知ることができ、多額の損失を被る等のトラブルを防げるかもしれない。
次回コラム記事では、デジタル遺産で問題になり得る『趣味趣向』に関するデジタルデータの取扱について取り上げるとともに、デジタル遺産に対する具体的な対処法について紹介したいと思う。(執筆者:完山 芳男)
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