原則65歳から老齢基礎年金を受給するには、次のような3つの期間を併せた期間が「原則25年以上」は必要です。
この原則25年は、老齢基礎年金の受給資格を得るために必要な期間なので、「受給資格期間」と呼ばれております。
なお公的年金の加入期間は、1か月単位で計算しますので、「原則25年以上」ではなく「原則300月以上」の方が、より正確な表現です。
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目次
(1) 厚生年金保険や国民年金の保険料を納付した期間
例えば専業主婦の方は、国民年金の第3号被保険者になった場合、保険料を納付する必要がありません。
しかし第3号被保険者であった期間は、国民年金の保険料を納付した期間に含まれます。
(2) 国民年金の保険料の納付を免除された期間
国民年金の保険料の免除には、法定免除、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除、納付猶予、学生納付特例があります。
例えば全額免除は、保険料を全額納付した場合の2分の1として、年金額に反映されるのに対して、納付猶予は追納しない限り、年金額には反映されないというように、年金額に対する反映は、それぞれの免除によって違いがあります。
しかし受給資格期間に対する反映は、免除によって違いはないので、どの免除を受けたとしても、同じように1か月単位で受給資格期間に反映されるのです。
(3) 合算対象期間(カラ期間)
これは受給資格期間には反映されるけれども、年金額には反映されない期間になります。
この合算対象期間(カラ期間)の例を挙げると、国民年金に加入しなければならないのは、日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の方です。
そのため海外に居住している場合は日本人であっても、国民年金に加入する必要はありませんが、将来に老齢基礎年金を受給したい方は国民年金に任意加入できます。
もし任意加入しなかった場合、海外に居住していた期間のうち、20歳以上60歳未満の期間については、合算対象期間(カラ期間)になるのです。
以上のようになりますが、(3) の合算対象期間(カラ期間)は種類が多く、自分で調べるのは困難だと思いますので、気になる方は簡単な経歴書を持参して、年金事務所などで調べてもらいます。
なお受給資格期間を満たし、老齢基礎年金を受給できる方が、1か月でも厚生年金保険に加入していた場合には、原則65歳から老齢基礎年金に加えて、老齢厚生年金も受給できます。
消費税率と共に再延期されなかった受給資格期間の短縮
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この受給資格期間を原則25年から、10年に短縮することが決定されたのは、民進党(旧民主党)の野田内閣の時代になります。
そんな昔に決定されたことが、まだ実施されていないのは、消費税率を8%から10%に引き上げることによって発生した税収を財源にするつもりだからです。
そのため平成29年4月から実施される予定だった、消費税率の8%から10%への引き上げが、平成31年10月に再延期されたことにより、受給資格期間の短縮も再延期されるかと思われました。
しかし参議院選挙後の記者会見で安倍総理は
と発言したのです。
もし安倍総理の発言通りに、平成29年4月から受給資格期間の短縮がスタートした場合、どのような人が得をして、逆にどのような人が、損をするのでしょうか?
受給資格期間の短縮で「得をするケース」
受給資格期間の短縮により得をするのは、上記の3つの期間を併せた期間が10年以上あるけれども、25年に満たない方です。
こういった方は平成29年4月から、老齢基礎年金を受給できるようになり、また1か月でも厚生年金保険に加入していた場合には、老齢厚生年金も受給できます。
ただ受給資格期間の短縮により得をするのは、新たに年金を受給できるようになった本人だけではなく、その家族も含まれると思うのです。
その理由として老齢厚生年金を受給している方が死亡した場合、その者によって生計を維持されていた次のような遺族は、遺族厚生年金を受給できる可能性があるからです。
第2順位 父母
第3順位 孫
第4順位 祖父母
ただし子と孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、20歳未満で障害等級の1級もしくは2級に該当する障害状態にあり、現に婚姻していないことが条件になります。
また夫、父母、祖父母については、老齢厚生年金を受給している方が死亡した当時に、55歳以上であることが条件になります。
遺族厚生年金の金額は大雑把にいうと、老齢厚生年金の4分の3なので、厚生年金保険の加入期間が短いとかなり少額になってしまいます。
しかしたとえ少額であったとしても、無年金の時には支給されなかったものが、新たに支給される可能性があるのですから、やはりお得だと思うのです。
受給資格期間の短縮で「損をするケース」
老齢基礎年金や老齢厚生年金を受給できない状態で、無職になってしまった方の中には生活保護を受給している方がいるかもしれません。
生活保護として支給される金額は、地域、世帯の人数、年齢などを基に決められた「最低生活費」から、現在の収入を差し引いて算出されます。
受給資格期間が短縮されて、老齢基礎年金などを受給できるようになっても、その金額が過大でない限り、生活保護を受給できなくなることはありません。
ただ次の計算式のように年金収入の分だけ、生活保護として支給される金額が少なくなってしまうのです。
また生活保護は毎月支給されますが、年金は偶数月(2月、4月、6月、8 月、10月、12月)の15日に、前2か月分がまとめて支給されるので、生活費のやりくりに気を付けないと、月の途中でお金がなくなる可能性が出てきます。
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受給資格期間が短縮されてもやるべきことは変わらない
20歳から60歳になるまでの40年間に渡り、1か月も欠かすことなく国民年金の保険料を納付して、満額の老齢基礎年金を受給できても、その金額は78万100円(平成28年度額)にしかなりません。
これでも少ないと思うのですが、10年しか保険料を納付しなかった場合には19万5,025円と、更に少なくなってしまうのです。
これを月当たりに換算すると1万6,252円程度ですから、とても生活できる金額ではありません。
ですから受給資格期間が原則25年から10年に短縮されても、現在と同じように保険料をきちんと納付し、保険料を納付するだけの収入がない場合には、免除申請の手続きを行います。
また免除を受けた期間については、収入のある時に保険料を追納して、できるだけ満額に近付けるのです。
と解釈して、実際にその通りに行動すると、後で後悔する日がやってくると思います。(執筆者:木村 公司)