確定申告といいますと、サラリーマンであれば主に所得税の還付のために、自営業者の場合は納める税金を計算するために行う面倒臭い作業という印象の方が多いように見受けられます。
しかし、ここで申告した所得がその後どれだけ自分のお金に影響するか、よくよく考えるとかなり広範囲にわたることがわかります。
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目次
さまざまな影響を及ぼす「住民税」
お住まいの自治体に払う住民税は6月に納付書が届いて自身で納めるか、給与から勤め先が天引きするかのいずれかになります。
これは…
・ 勤め先が年末調整した後に源泉徴収票の内容を自治体に報告
・ 確定申告の結果を税務署が自治体に通知
のいずれか(もしくは両方)を経て計算されます。ここで計算される住民税の税額や所得が、福祉にまつわる様々なものに影響してくるのです。
影響範囲の概略
主に下記諸々の社会保障・福祉制度に影響が及びます。制度の詳細には立ち入りませんが、非常に広範囲に渡って影響することをおさえてください。
健康保険
・ 国民健康保険・後期高齢者医療保険の保険料(もしくは保険税)のうち所得割額。減額になった場合の減額幅(均等割減額は世帯の総所得金額等により変わる)
・ 国民健康保険の高額療養費制度・高額介護療養費合算制度における自己負担限度額(総所得金額等が高いほど限度額が大きい)
・ 介護保険負担限度額(世帯全員が住民税非課税)
年金
・ 国民年金保険料の免除額(合計所得金額と扶養親族等の数・一部の所得控除額による)
・ 国民年金保険料の強制徴収対象者(平成29年度は控除後所得300万円以上)
・ 20歳前の傷病による障害基礎年金の支給停止(控除後所得と扶養親族等の数による)
・ 自治体の老齢福祉年金の所得制限(本人もしくは扶養義務者の控除後所得による)
低所得者支援
・ 臨時福祉給付金の支給基準(住民税が課税されていない方対象)
・ 生活福祉資金貸付制度(低所得者の要件が都道府県毎に異なる)
子育て・保育教育分野
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・ 認可保育園の保育料(住民税の所得割課税額に応じて変わる)
・ 児童扶養手当(母子手当)の金額(本人もしくは扶養義務者の総所得金額等と扶養親族等の数による)
・ 児童手当の所得制限(控除後所得と扶養親族等の数による)
・ 高等学校等就学支援金の所得制限(親の住民税所得割額による)
・ 奨学金の所得制限(世帯の所得制限)
・ 日本政策金融公庫・教育一般貸付の所得制限(世帯の所得制限)
障害者福祉
・ 障害児福祉手当・特別児童扶養手当・特別障害者手当の所得制限(本人または配偶者・扶養義務者の控除後所得と扶養親族等の数による)
医療関係
・ 老人福祉医療費助成制度の所得制限(住民税非課税世帯員で、合計所得金額一定額以下)
・ 子ども医療費助成制度の所得制限(親の所得制限)
・ その他福祉医療費助成制度(住民税所得割額もしくは控除後所得による所得制限)
・ がん検診料金・予防接種無料の基準(住民税非課税世帯)
住居費等
・ 公営住宅の入居基準(世帯の所得と世帯人数による。一部自治体では総所得金額から扶養控除等を控除した額が基準)
・ NHK受信料の免除基準(住民税非課税世帯で障害者の世帯員がいれば免除)
まとめ
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3月15日の申告期限間際に所得税の確定申告もしくは自治体への住民税申告をされる方が殺到しますが、利用できる制度に多大な影響を与えるものですので、あわてて資料をそろえて申告するのは損をする可能性があります。
また年末調整だけで確定申告や住民税申告をしていない会社員の方も、医療費控除などを活用しご自身で申告しておいたほうが、税金以外でも得をすることもあります。
なお、基準となる所得がどこまで控除を入れた段階の所得なのか(上記の「控除後所得」は全ての所得控除が差し引けるとは限りません)、また1人だけの所得で判定するのか世帯全員になるのか等は制度により異なります。
この点については続く(2) で解説します。また有利に手当を利用できるような対策については(3) で解説します。(執筆者:石谷 彰彦)