申告した所得が様々な制度利用に影響を与えること、基準となる所得も様々な尺度が存在することが前回の記事でおわかり頂けたと思います。
あとは、どうやって社会保障制度を有利に利用していくために、どこに力点をおいて申告していくかを理解することにしましょう。
目次
扶養控除等の人的控除は要件をよく確認し余すところなく
扶養控除・障害者控除などいわゆる人的控除と呼ばれるものは、意外と申告が漏れていることがありますので、要件に当てはまる人はきちんと申告しておく必要があります。
健康保険の扶養は福祉に影響するが、税法上の扶養親族は税金の計算だけ、というわけではなく両方とも福祉に影響するのです。
扶養の範囲内なのに扶養親族に入れていない場合
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税務署はあえて指摘しません。また扶養親族として届け出ず「未申告」状態におかれた人がいると、国保における高額療養費制度の所得判定で最上位の所得者扱いにされる等、不利な状況におかれることすらあります。
ですからフリーターやニートであっても年末調整・確定申告・住民税申告のいずれかで、自治体に所得がわかっている状況にしておくか、養っている人の申告で扶養親族として記載しておいたほうがいいのです。
障害者控除・寡婦(寡夫)控除
障害者控除・寡婦(寡夫)控除の要件は複雑ですが、障害者関係の手当などの所得判定で控除できるものですので、これらもきちんと所得控除に入れておきましょう。
所得控除の資料をきちんとそろえて申告
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障害基礎年金の支給停止・児童手当・障害者関係の手当など控除後所得で判定する場合は、人的控除の他、医療費の領収書や保険料の控除証明書をどれだけ集めたかで数字が変わります。
保育料や高校の就学援助金など、住民税所得割の額で判定する場合も同様です。確定申告の際に、収入よりも控除の添付資料がはるかに多くなることは珍しくありません。
資料が足りないばかりに、税金が高くなるだけでなく、手当の所得制限にまでひっかかるような状況になるのは大変もったいないことです。
控除後所得の対象になりやすい控除と、そうでない控除
なお前回の記事でまとめたように、控除後所得の対象になりやすい控除と、なりにくい控除があります。
控除後所得の対象になりやすい控除
・ 雑損控除
・ 医療費控除
・ 小規模企業共済等掛金控除等
控除後所得の対象になりにくい控除
・ 生命保険料控除
・ 寄付金控除等
ふるさと納税
ふるさと納税は確定申告のトピックとして話題性がありますが、社会保障への影響度合いは低いと言えます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
一方で平成29年より対象者が拡大するiDeCo(個人型確定拠出年金)の支払額は、小規模企業共済等掛金控除にあたり、福祉に関する所得制限への影響が大きいと言えます。
医療費控除
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医療費控除も同様で、しかもこちらは年末調整ではできないので、使えるなら申告しておいたほうがいいと言えます。盗難や震災などの災害にあった場合には、雑損控除を使える場合は申告しておく方が、税額引き下げ・社会保障の両面に波及します。
総所得金額等の計算であっても
10種類の所得のうち多くの方に発生するのは給与所得や公的年金等に係る雑所得ですが、これらは給与収入や年金収入で決まりますので(特定支出控除の特例を使うケースは別として)、確定申告のやり方によって変わるものではありません。
しかし、事業所得はどれだけ経費を入れるか、帳簿を用意して青色申告の特典を受けているかによっても変わりますし、株式等の譲渡所得であれば上場株式等の譲渡損失を申告して計上しているかによっても変わります。
所得控除前の所得であっても、申告の取り組み方により変わりやすい所得がある場合は、なるべく特典を受けておくようにしましょう。(執筆者:石谷 彰彦)