平成28年8月8日に人事院は、平成28年度の「一般職の国家公務員の給与」に関して、月給を平均で0.17%(708円)、ボーナス(期末、勤勉手当)を0.1か月分、それぞれ引き上げするよう、国会と内閣に勧告しました。
また配偶者手当は平成29年度から段階的に減額して、平成30年度に半額とし、課長級は平成32年度に廃止するよう勧告しました。
政府はこのような人事院の勧告を受け、平成28年10月14日の閣議で、勧告の完全実施を決め、勧告内容を盛り込んだ給与法の改正案を、今国会に提出することになったのです。
もし給与法の改正案が可決された場合、月給は4月にさかのぼって差額が支給され、職員の給与は年間平均で5万1,000円増え、672万6,000円になる見通しです。
また給与法の改正案が可決された場合、3年連続して給与が引き上げされることになり、これは平成3年以来の25年ぶりになります。
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目次
地方公務員は条例の可決で給与が決定される
このように国家公務員の給与は、人事院の勧告を受けた後に、国会に給与法の改正案が提出され、それが可決されると決定します。
一方地方公務員の給与は、人事院の勧告を参考にして作られた給与条例の改正案が、首長(都道府県知事、市町村長など)によって地方議会に提出され、それが可決されると決定します。
なお都道府県や政令指定都市などでは、人事委員会が首長に対して、給与勧告を行う場合がありますが、この勧告は人事院の勧告を参考にしているので、やはり地方公務員であっても、人事院の勧告の影響を受けているのです。
ただ地方公務員の給与は、地方公共団体の自主性に任されている部分が大きいので、国家公務員より低い地方公共団体があれば、国家公務員より高い地方公共団体もあります。
こういった地方公務員の給与が、国家公務員より高い地方公共団体については、適正な水準を支給するよう、国が助言を行っているのです。
また地方公共団体が給与の改定を行う際に、総務省が「総務事務次官通知」を発しております。
国家公務員の人事管理を主な業務にする人事院
このように国家公務員の給与は直接的に、また地方公務員の給与は間接的に、人事院の勧告によって決まります。
この人事院とは内閣の所轄の下に置かれる、国家公務員法によって設置された「中央人事行政機関」で、国家公務員の人事管理を主な業務にしております。
具体的には上記のような勧告の他に、国家公務員の採用試験、任免の基準の設定、研修などを実施しているのです。
ただ一般の方が人事院の名前を聞くのは、人事院の勧告によって、一般職の国家公務員の給与が引き上げられた、または引き下げられたというニュースが、テレビのニュースなどで放送された時だと思います。
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国家公務員の給与は民間企業の給与に連動する
人事院が発表している「給与勧告の仕組み(pdf)」を読むと、例えば月給については、人事院が「企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上の民間企業」と国家公務員の、4月分の給与を調査し、精密に比較したうえで、得られた較差を埋めるために、勧告を行っていることがわかります。
なぜ企業規模が50人以上の民間企業と比較するのかというと、国家公務員と同じように、課長や係長などの役職段階があるため、同種や同等の者同士による比較が可能だからです。
このように民間企業と国家公務員の給与の較差を埋めるために、勧告を行っているということは、国家公務員の給与は民間企業の給与に、連動して増減しているのです。
つまり景気が良くなって、民間企業の給与が増えると、国家公務員の給与も増え、逆に景気が悪くなって、民間企業の給与が減ると、国家公務員の給与も減ることになります。
また月給であれば上記のように、4月分の給与を調査し、精密に比較したうえで、給与の増減を決めているので、最近の景況感を元に決められているわけではないのです。
「民間企業の給与に連動」に対して納得できない方の意見
国家公務員の給与は上記のように、民間企業の給与に連動しているはずなのに、納得できない方は多いようです。
その納得できない方の意見について調べてみると、例えば次のようなものがあります。
人事院の民間企業の調査は信憑性がない
民間企業の給与は皆さんもご存知のように、前年度より下がることが珍しくない時代になりました。
しかし「国家公務員の給与改定の推移(pdf)」を見ると、国家公務員と比較する民間企業の給与は、昭和37年度から平成25年度に至るまで、一度も下がることなく、一貫して上昇しております。
ですから人事院の民間企業の調査は信じられず、その信憑性がないデータを元に国家公務員の給与を決めるのは、おかしいという意見です。
人事院は身内に甘い
人事院の職員は国家公務員の一員のため、身内に甘いのではないかという意見や、公務員が公務員の給与を決めるという仕組みは、おかしいという意見です。
地方公務員の給与は民間企業に連動していない
仮に国家公務員の給与が、民間企業に連動していたとしても、地方公務員の給与は民間企業に連動しておらず、高すぎるという意見です。
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官民の給与の格差解消を妨げる企業の内部留保の蓄積
財務省が平成28年9月1日に発表した「法人企業統計」によると、企業が蓄えた「内部留保」に当たる利益剰余金が、金融・保険業を除く全産業で、過去最高の377兆8,689億円に達したそうです。
また前年度に比べて、6.6%(約23兆円)増えており、10年前と比べると2倍近く増えております。
これを受け政府関係者からは、内部留保を蓄えるより設備投資や賃上げに、もっと資金を回して欲しいという発言が相次ぎました。
こういった事情があるため、官民の給与の格差を解消するには、公務員の給与の高さを批判するだけでなく、労働者側からも企業に対して、内部留保を蓄えずに賃上げに回して欲しいと、もっと要求すべきだと思うのです。(執筆者:木村 公司)