今年もあと残り1か月半となった。外を出歩くと、ついこの間まではハロウィーンの雰囲気で華やかだった繁華街のデコレーションも、11月からはクリスマスモードへ様変わりしている。
1年の終わりをそろそろ意識するこの時期、会社員にとって欠かせない手続きが「年末調整」だ。
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目次
「年末調整」の手続き開始
既に勤務先から、以下の2種類の書類が配られている会社員の読者は多いことだろう。
・ 保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書
「扶養等控除申告書」
扶養家族に変化がなければ「扶養等控除申告書」には署名・捺印をするのみ。
「保険料控除申告書」
署名とともに加入している生保会社や損保会社から届いている控除証明書を添付して勤務先へ提出するだけなので、手続き自体それ程手間がかかるのものではない。
新社会人の皆さんには初めての年末調整
ただ、何年も会社員をやっている人なら、それらは慣れた手続きであっても、今年4月に会社員生活をスタートさせた新社会人の皆さんにとっては
「必要な書類を提出しなければどうなるのか?」
といった疑問とともに手続きに戸惑ってしまう人も少なくないのではないだろうか。
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そもそも年末調整って…
年末調整は、14種類ある所得控除のうち
・医療費控除
・寄附金控除(ふるさと納税などを含む)
を除いた11種類の所得控除への対応を勤務先が納税者に代わり行ってくれるものである。
所得控除とは
分かりやすく説明すると給与収入(給与所得)から差し引ける経費のようなものであり、所得控除を受けることで税金の対象となる課税所得が少なくなり、その分最終的に納めるべき税金も少なくなる。
会社員であれば、毎月の給与から社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険など)とともに税金が所定のルールに基づき天引き(源泉徴収)されているが、すでに徴収されている税金の過不足を調整するのが年末調整という手続きだ。
ほとんどの会社員は、年末調整により所得税が還付されるだろうから、12月の給与明細では還付金が記載されていて、手取り金額がいつもの月より数万円多いことだろう。また、年末に別途配布される源泉徴収票で、年間の給与所得・社会保険料・確定した所得税額を確認することができる。
提出期限や内容や提出物に不備がないように注意
万一、提出期限まで勤務先へ書類を提出できなかったり、保険会社から届いたはずの控除証明書が見つからなかったりした場合はどうなるのだろうか?
もちろん、そのような事態にならないように控除証明書をしっかり保管しておくことが大切であるが、もし紛失してしまった場合は、すぐに保険会社のコールセンターへ問い合わせして「控除証明書の再発行」を依頼しよう。
いずれにしても、余裕をもって書類を提出し年末調整の申告内容に漏れが生じないよう心掛けたいものである。
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内容に不備があった場合
それでも、生命保険料控除・地震保険料控除の適用漏れがあったり、同一生計の親族を扶養しているのに、扶養控除申告書にその旨を書き忘れたりするなどの扶養控除の適用漏れがあったりした場合はどうしたらよいだろうか?
もしそのような適用漏れが生じていたら、勤務先に申し出ることで『再年末調整処理』を行ってもらうことが可能だ。
ただし、年末調整のやり直しができるのは、源泉徴収票を全ての従業員へ配布する翌年1月末日までである。
また実務に携わる側(人事部給与担当課)からすれば、源泉所得税の過不足金の再計算だけではなく、法定調書の合計表や給与支払報告書の作成といった事務処理もやり直しすることになる。そのため、勤務先によっては再年末調整の処理を受け付けない場合があるかもしれない。
年末調整で適用されなかった生命保険料控除などがあった場合
心配しなくても大丈夫。なぜなら、確定申告で適用を受けることが可能だからだ。
確定申告の期限は翌年3月15日なので、年末調整では対応できない雑損控除・医療費控除・寄附金控除を含め、14種類すべての所得控除の申告ができる。
前年に住宅ローンを借り入れて住宅を取得した場合
年末調整の適用漏れがなくても、前年に住宅ローンを借り入れて住宅を取得した人は、『住宅ローン控除』の適用を受けるためには必ずご自身で確定申告をする必要がある。
住宅ローン控除は、所得控除ではなく税額控除であり、所得税の額から直接控除され税額が還付される。
住宅ローン控除(住宅ローン減税制度)とは、毎年末の住宅ローン残高の1%が10年間に渡り所得税の額から控除され、所得税からは控除しきれない場合には、住民税からも一部控除がされるものだ。
尚、住宅ローン控除は一度確定申告してしまえば、2年目からは年末調整の対象になる。つまり、一度税務署に「住宅ローン控除」の対象になる人と認められれば、その後は確定申告ではなく、簡易な年末調整による申告でOKというわけだ。
住宅取得した翌年以降
毎年10月下旬頃に税務署から送られてくる「年末調整のための住宅借入金等控除証明書」および、金融機関から送られてくる「ローン残高証明書」を年末調整の際に勤務先に提出することになる。
「年末調整のための住宅借入金等控除証明書」は税務署から今後9年分が一括で送られてくるので、毎年の年末調整で各年度分を使用することを踏まえて大切に保管しておこう。
医療費控除
最後に、会社員にとって税金が還付される可能性が高い「医療費控除」について触れておこう。
筆者は過去に寄稿した記事コラムにて、医療費控除について詳しく説明しているので読者に皆さんには是非読んで頂きたい。
医療費控除のポイント
と早合点をせず、面倒くさがらずに確定申告して賢く税金還付を受けるということだ。
必ず領収書やレシートは保管
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まず大切なことは、単身世帯であろうと、家族のいる世帯であろうと、まずは医療費に関係する領収書やレシートを保管しておくこと。お子さんを含め扶養する家族が多い場合、年間の医療費合計は結構な金額になるケースが多いだろう。
医療費控除の対象にならない美容・審美関連の治療費もあるので、控除対象になるかどうかの判断に迷う場合もあるがもしれないが、とりあえず支払った際にもらった領収書類は捨てずに取っておこう。
「年間10万超えないと控除は受けれない」の誤解
さらに、「年間の医療費の支払額(医療機関の窓口で支払った自己負担分や、治療のための薬代等)が年間10万円を超えないと医療費控除は受けられないのでは?」と誤解されている人も少なくないと思われるので、控除対象となる医療費の金額基準について、簡単に説明しておこう。
年間10万円未満の医療費の支払いであっても、給与収入がおおむね300万円前後以下(給与所得が200万円未満)の世帯であれば、医療費控除は受けられる。
給与収入が250万円の世帯が、年間9万5千円の医療費を支払ったケース
給与収入 250万円 - 給与所得控除 93万円 = 給与所得157万円
療費支払い額から差し引く金額 = 所得 157万円 × 5% = 7万5,000円
医療費控除の金額 = 医療費支払い額 9万5,000円 - 7万5,000円 = 2万円
つまり、年間10万円未満の医療費支払いであっても、医療費控除2万円が受けられ、実際の所得税の還付金は、1,000円(2万円 × 適用される所得税率 5% = 1,000円)となる。
面倒だけど損はないからやってみよう
確定申告書の提出期間になって慌てるのではなく、日頃から医療機関からもらった領収書・レシートを大切に保管し整理しておくことを忘れないようにしたい。
一度、医療費控除を申告する経験をすれば確定申告手続きに対する理解が深まるし、たとえ少額とはいえ所得税の還付が受けられるメリットがあるのだから、会社員の皆さんには是非、確定申告で医療費控除の申告をやって頂きたい。
会社員が所得税の還付を受けられるのは、「年末調整だけでなく、場合によっては確定申告も必要である」ことを読者の皆さんにお分かり頂ければ幸いである。(執筆者:完山 芳男)