部屋探しをするときにインターネットを使うことは、もはや当たり前になっています。
賃貸物件のポータルサイト(以下、ポータルサイト)のおかげで、24時間いつでもどこでも物件検索ができることの利便性を否定する人はいないでしょう。
ですが、ポータルサイトが普及したことで、家賃が高止まりしているとしたら、みなさんはどう思いますか?
今回は、ポータルサイトと家賃の関係についてお話ししましょう。
目次
本当なら家賃はもっと安くなる?
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賃貸物件の空室率が上昇を続け、家賃は徐々に下がっているようです。東日本不動産流通機構のデータ(2016年7~9月)では、東京23区のマンションの家賃は平均で10.4万円(面積34.95㎡)です。
ピークだった08年7~9月期の12.3万円と比べると15%ほど家賃が下がっていることがわかります。
もちろん、これは平均値なので、入居者が決まらず家賃が大幅に下がっている物件もあれば、人気が高くまったく家賃が下がらない物件もあります。
でも、いま誰もが利用している、
としたら、そのサービスが何なのか知りたくありませんか?
そのサービスとは!!!!
と言ったら、皆さんはどう思うでしょうか?
もちろん、ポータルサイトは、部屋を探している人にとって非常に便利な存在です。ポータルサイトのおかげで、スマホさえあれば、部屋探しは24時間、どこからでもできるようになりました。
私自身、その利便性を否定するつもりはまったくありません。しかし、ポータルサイトにはこうした「功」の側面だけではなく、「罪」の側面もあるのです。
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賃貸物件ポータルサイトには構造的な問題がある
ポータルサイトのメリットは、商品やサービスの提供者の情報を一箇所に集約し、それを求める顧客に提供してくれることにあります。
同時に、商品やサービスの提供者と顧客をダイレクトに結ぶことで、商品・サービスの提供コストを引き下げることも可能にしました。
いわゆる「中抜き」といわれるもので、ネットのサービスが普及し始めた頃には、「中抜きこそインターネットの本質だ」と言われていました。
その本質からから考えると、賃貸物件のポータルサイトは大家さんと借り主を直接結びつけるのが最も効率的なはずです。ですが、いまのポータルサイトの構造はそうはなってはいません。
もともと不動産会社は、地域のポータルサイト的な役割を担っていました。
大家さんたちから物件の情報を集めて、部屋を探している人に情報を提供するのがその役割です。
そんなポータルサイト的な存在である不動産会社を集めているわけですから、賃貸物件のポータルサイトは中抜きどころか、二重ポータルとでもいうべき構造になっています(図1参照)。
図1
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二重ポータルの一番の問題は何か!
それは「コスト」です。
不動産会社はポータルサイトに物件情報を掲載するために、掲載料金を支払っています。
掲載料金は、ポータルサイトごとに料金システムがあるので一概には言えませんが、あるポータルサイトの料金システムでは…
・ 10件以上になると1万円
・ 20件以上では1万5,000円
という具合に掲載数に応じて料金が上がっていきます。
これは定額固定型での課金方法ですが、問い合わせなどの反響件数に応じて課金される反響課金型の料金システムもあり、その場合は反響件数に応じて賃料の一定割合を料金として支払うことになります(図2参照)。
図2
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不動産会社の集客コストが膨らんだ理由
こうして見ると、ポータルサイトの広告掲載料は、たいした料金ではないと思う人もいるかもしれません。不動産ポータルサイトがひとつしかないのなら、そう言えるでしょう。
ところが、部屋探しをしたことがある人なら、3つか4つくらいならポータルサイトの名前をあげられるはず。詳しい人は、10個以上のサイトを思い浮かべることができるでしょう。
このように「ポータルサイトはこんなにたくさん必要なの?」と首をかしげたくなるのがいまの状況です。そんなたくさんのポータルサイトに情報を掲載すれば、広告掲載料金は当然かさみます。
不動産会社の売り上げに直結するもの…
それは
なのです。
そのため不動産会社は、複数のサイトに競って多くの物件を掲載しようとするのです。不動産会社としては、当然その膨らんだ集客コストを回収しなければなりません。
賃貸物件を仲介する不動産会社の収入源は仲介手数料ですが、そもそも不動産の仲介手数料は、宅建業法で上限額が定められています。賃貸物件の場合「家賃1か月分」がその上限です(図3参照)。
図3
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不動産会社の本末転倒
建前からいえば、ポータルサイトの掲載料はそのなかから支払われています。そう考えると、集客コストがどれだけ不動産会社の収支を圧迫しているのか想像できるのではないでしょうか。
つまり、ほとんどの不動産会社は「ネット」という重要な集客ツールを、ポータルサイトに委ねてしまったために、企業にとっては必要不可欠な自分たちで集客する力を失ってしまい、ポータルサイトに利益を奪われることになってしまったのです。
シワ寄せをくらった最大の被害者はオーナー
そして、そのシワ寄せを最も大きく受けているのは誰かというと、私は賃貸物件のオーナーである大家さんだと考えています。
宅建業法に従えば、家賃1か月分を超える仲介手数料を受け取ることはできません。
もし借り主から1か月分の手数料をもらった場合、大家さんからは手数料を受け取ることはできません。借り主から0.5か月分を受け取れば、大家から受け取れるのは0.5か月分が上限ということになります
しかし1か月分の仲介手数料だけでは経営が苦しくなった不動産会社は、抜け道を考えます。それが、大家さんから受け取る「AD(広告料)」といわれるお金です。仲介手数料からADへ名前を変えるだけで受け取れる金額の上限はなくなります(図4参照)。
図4
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入居者には嬉しい「フリーレント」にも裏がある
ADを支払いたくないと思っても、それでは入居者を探してもらえないとなれば、大家さんは支払わざるを得ません。
最近、よく目にするようになったフリーレント(1か月分とか2か月分の家賃が無料になるサービス)も同様です。
大家さんには2か月分のフリーレントをつけてもらい、借り主には1か月だけフリーレントにしておいて、1か月分の家賃は不動産会社が自分の懐に入れてしまうという行為も普通に行なわれています。
こうして、大家さんが余計な費用を負担せざるを得ないようになれば、そうした費用は結局、家賃に跳ね返ってきます。
こうしてポータルサイトが徴収している掲載料は、巡り巡って家賃を支払っている入居者にものしかかってきているはずなのです。
こんな状況になってしまった原因
「ネットで部屋探しをすると家賃が高くなる」という私の言葉の意味がおわかりいただけたでしょうか。
こんな状況になってしまった原因は、いくつか考えられます。
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原因1 不動産業界のネットへの対応が遅れたこと。
業界内の競争が激しく簡単に協力体制をつくることができなかった可能性もあります。
たとえば地域の不動産会社が協力して物件情報を集約したサイトをつくるなどしていれば、現在のような状況にはなっていなかった可能性は高いはずです。
とはいえ、物件の図面をいまだにFAXでやり取りしているような業界ですから、現在のような状況を招いてしまったのは当然なのかもしれません。
原因2 集客から何から不動産会社に「すべておまかせ」にしてきた大家さん
原因の一端がないわけではありません。大家さんはラクをすることで自分の首を絞めてしまったのです。
依存してはいけないが…解決策もない現状況
「物件情報をネットで検索できるようにする」というポータルサイトの功績は誰もが否定できないものだと思いますが、そこに依存しきってしまっている構図からは、1日も早く抜け出さなければなりません。
残念ながら、その状況を一瞬で変えられるようなドラスティック(やり方が抜本的で思い切ったもの)な解決策はいまのところありません。
すべての人のためにも、あきらめてはいけない
ですが、もし現在の構図から抜け出すことを諦めてしまったら、大家さんにも不動産会社にも、そして入居者の皆さんにとっても明るい未来はないでしょう。
この構造を打破するためにも、私も含めて業界のなかにいる人たちが、もっと積極的に改革の旗振りをしていく必要があるのではないでしょうか?
その時が来るまで、消費者の皆さんが自分の大事な資産を守れるよう、できるだけ不動産業界の仕組みや慣習、そして不動産会社のやり方を学んでいただきたいと思います。(執筆者:大友 健右)