会社員やその被扶養者が加入する健康保険は、次のような2種類に分かれます。
・ 健康保険組合が運営している「組合健保」
後者の健康保険組合を企業が単独で設立する場合には、常時700人以上の従業員が働いていることが必要になります。
また2以上の企業が共同で設立する場合には、合計して常時3,000人以上の従業員が働いていることが必要になります。
ですから一般的に協会けんぽは、中小企業の従業員やその被扶養者が加入しており、また組合健保については、大企業の従業員やその被扶養者が加入しているのです。
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目次
約100億円のマイナンバー利用料に、健康保険組合連合会が反発へ
2017年1月に厚生労働省は、マイナンバーを使って所得確認などができるシステムの運営費を賄うため、健康保険の加入者やその被扶養者1人当たり、月額10円弱の利用料を求めるという通知を、各健康保険組合に出しました。
計8千万人余りが対象になると、年間で約100億円の利用料になるため、健康保険組合連合会(全国の健康保険組合の連合組織)は「高額すぎる」などと反発して、引き下げを求める要望書を厚生労働省に提出したのです。
こうした批判を受け厚生労働省は、利用料の引き下げを検討し始めましたが、その後の報道がないようなので、最終的な結論はわかりません。
ただシステムの稼動予定は2017年7月のため、厚生労働省と健康保険組合連合会はこれに向けて、妥協点を探っていくと考えられます。
傷病手当金と年金を同時に受給すると、傷病手当金は調整を受ける
健康保険に加入している方が、業務外の病気やケガにより仕事ができないため、休職した場合には、休職する前の給与の3分の2程度の金額になる、「傷病手当金」を受給できます。
この傷病手当金を受給している方が、同一の病気やケガについて、厚生年金保険から支給される障害厚生年金を受給できる場合には、傷病手当金は支給されません。
ただ障害厚生年金(同一の病気やケガで障害基礎年金を受給できる時は、それも含む)を360で割った金額と、傷病手当金の日額を比較して、傷病手当金の方が多い場合には、その差額が健康保険から支給されます。
また退職後の継続給付として、傷病手当金を受給している方が、老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金など)を受給できる場合には、傷病手当金は支給されません。
ただ老齢年金を360で割った金額と、傷病手当金の日額を比較して、傷病手当金の方が多い場合には、その差額が健康保険から支給されます。
その他に傷病手当金を受給している方が、同一の病気やケガについて、厚生年金保険から支給される障害手当金(一時金)を受給できる場合には、傷病手当金の累計支給額が障害手当金の金額に達するまで、傷病手当金は支給されません。
システムの稼動後は、行政機関が保有する情報を入手しやすくなる
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全国健康保険協会や健康保険組合は2017年7月以降、傷病手当金の受給者のうち、誰が障害年金、老齢年金、障害手当金を受給しているのかを、冒頭に記載したシステムを活用して、確認するようになると推測されます。
つまりシステムが活用できるようになると、全国健康保険協会や健康保険組合は、年金事務所などの行政機関が保有している情報を、入手しやすくなるというわけです。
個人的にはこれによって、もっとも影響を受けるのは、健康保険の被扶養者の認定だと考えております。
基本手当日額が3,612円以上あると、健康保険の被扶養者になれない
例えば仕事を退職して、その後に収入がなくなった妻は、夫の健康保険の被扶養者になれます。
しかし退職後に雇用保険の基本手当、いわゆる失業給付を受給するつもりで、その基本手当日額が3,612円以上(60歳以上は5,000円以上)ある方は、原則的に健康保険の被扶養者になれません。
そのため失業給付の受給が終わるまでは原則的に、住所地の市区町村役場で手続きを行い、国民健康保険に加入する必要があります。
この理由として健康保険の被扶養者になるには、年収が130万円未満(60歳以上は180円未満)の必要があり、次のように基本手当日額が3,612円以上あると、年収が130万円以上になるからです。
・ 3,612円×360日=130万320円(130万円以上)
なお130万円未満か否かは、このように基本手当日額を年額に換算した場合の金額で判断されるので、実際に受給することになる失業手当の金額によって、判断されるわけではありません。
待機期間と給付制限期間については、健康保険の被扶養者になれる
自己都合で退職した場合には、7日間の待機期間の後に、たいてい3か月の給付制限が付きますので、すぐには失業手当を受給できません。
ただ失業手当を受給できないということは、この期間は基本手当日額が3,612円以上であっても、健康保険の被扶養者になれます。
そのため待機期間の始まりから、失業手当の受給が終わるまでの期間について、健康保険の被扶養者になれるか否かを整理すると、次のようになるのです。
・ 失業手当の受給中(被扶養者になれないので、国民健康保険に加入する)
・ 失業手当が終わったあと(被扶養者になれる)
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ハローワークが保有する情報の入手により、失業手当の受給が発覚する
このように待機期間と給付制限期間が終わったタイミングで、いったんは健康保険の被扶養者から外れて、原則的に国民健康保険に加入しなければなりません。
しかしこのような手続きを行わず、失業手当の受給中も引き続き、健康保険の被扶養者のままにしている方がおります。
全国健康保険協会や健康保険組合は2017年7月以降、冒頭に記載したシステムを活用することにより、ハローワークが保有している情報を入手しやすくなると推測されます。
そうなると誰が失業手当を受給しているのかを、把握しやすくなるのです。
そのため失業手当の受給者が健康保険の被扶養者になるのは、現在より難しくなると考えた方が良さそうです。(執筆者:木村 公司)