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「女性の方が優れた投資家だと判明した」という米国の調査結果について
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米大手通信会社ロイターが、投資に関する能力や傾向について男女で比較した興味深いコラムを掲載(2017年6月7日配信)していたので読者の皆さんに紹介しよう。
コラム記事で取り上げていたのは、米国の資産運用大手フィデリティ・インベストメンツによる調査結果だが、
というのだ。
フィデリティ社が800万件を超える個人の証券取引口座を調べたところ、女性は男性よりも0.4%多く貯蓄しているだけでなく、投資でも年間で0.4%多く利益を稼いでいることが分かったとのこと。
年間で0.4%の差は、たいした金額の差ではないと受け止められそうだが、生涯にわたる貯蓄と投資の累計で考えるとこの差は決して小さくないということなのだろう。
記事では、生涯にわたる貯蓄と投資の推定額を挙げていて、たとえば大学を卒業後したての22歳の人が、年収5万ドル(実約550万円)で会社員生活をスタートした場合、平均的な昇給・昇進をして定年を迎えるまでに、女性の方が男性よりも資産残高が25万ドル(約2,750万円)以上、上回ることになるとコラム記事では試算している。
さらに、フィデリティ社から以下のような興味深いデータが紹介されていた。
つまり、男性の方が売買取引を繰り返し行っていることで、取引に係る手数料が女性よりも嵩んでいる。
・ 女性の方が、職場の確定拠出年金や個人年金、そして証券口座において、年間 1% 程多く貯蓄している。
・ 女性は男性よりも、さまざまな資産で構成される長期的なバランス型ファンドといった商品に投資している。
また、カリフォルニア大学による別の研究においても、女性の方が男性よりも年間1%程度、投資パフォーマンスが上回っていたという結果が出たという。
近年は、IT技術の進歩により、証券会社等の金融機関が顧客ビッグデータ解析を行うことが比較的容易になり、顧客の属性ごとの取引実態や収益実態を様々な角度から分析することが可能だから、米国では「女性の方が優れた投資家」であるという一つの傾向か導き出されたのだろう。
上記のデータだけでは説得力は少ない
しかしながら、上記のデータからだけでは、女性が男性よりも投資家として優れているという見解は十分に説得力があるとはいえないし、まだ議論の余地も大きいだろう。
なぜなら、
ということが、フィデリティ社のデータ分析結果の本質ではないかと考えられるからだ。また、日本で同様の調査を行えば、米国とは違ったデータが出てくる可能性もある。
たとえば、より膨大な証券口座数を調査対象とし、より長期的かつ継続的なデータ収集と解析を行い、さらには主要各国ごとに同様の調査を実施し、それらを国際比較・分析することができれば、統計学的な有意性が高まり調査結果はより興味深いものになったであろう。
その上で、投資家としての女性の優位性が示されれば、説得力は高いものになったと思われる。
物議を呼んだ「女性は生まれつき、科学や数学に向かない」という発言
本コラムを読んだ時、筆者は、かつて米国の財務長官だったローレンス・サマーズ氏が、ハーバード大学学長を務めていた2005年に「女性は生まれつき、科学や数学に向かない」といった趣旨の発言をして物議をかもしたことを思い出した。
フェミニストをはじめ、国内外の方各方面から激しい批判を受けたことで、サマーズ氏は自身の発言の責任を取って大学学長の職を辞したという出来事である。
サマーズ氏は、クリントン政権で財務長官を務める前には世界銀行のチーフエコノミスト・副総裁を歴任した著名な経済学者でもある。
だが、財務長官時代のエピソードとして、「サマーズに謙遜を求めるのは、マドンナ(米国の歌手・女優)に貞操を期待するようなものである」と評されたくらいに、その傲岸さが批判された人物だ。
ハーバード大学学長の辞任に追い込まれた女性蔑視とも取れる言動自体はもちろん許されない。
でも、彼の正確な発言内容を確認すると「女性が統計的にみて数学と科学の最高レベルでの研究に適していない」という表現だったかことから、全く根拠がない発言ではなかったとも受け取れる。
大学の理系学部の学生数で女性の割合が圧倒的に少ないのは事実
決してサマーズ氏を擁護するつもりはないが、私個人の感覚として、女性の中で科学や理科系科目に向かない人が個人差はあるとしても平均的に多いという印象はある。
日本でも近年は「リケジョ」と称されて才能を発揮している理系女子は様々な分野で活躍をしているが、大学の理系学部の学生数で女性の割合が圧倒的に少ないのは事実だ。
一方、理科系科目が苦手な人が多い分、女性は男性よりも概して言語的な能力に優れている人が多いと思われる。
特に、外国語を習得して使いこなす能力は、平均的に男性よりも女性の方が高いと思われる。
例えば、通訳や翻訳家に女性が多いのは単なる偶然ではないだろう。言語的、語学的な面では、女性は優れた感性を持っていると言ってもいいかもしれない。
仮に、女性が投資家として優れた素質を持っているとするのなら、科学や数学に関する能力は必ずしも投資家にとって必要でない能力と言えるかもしれない。
「科学や数学に強い人は、ファイナンス理論にも明るくリンク・リターン分析が正しく出来そうで、成功する投資家に多いのでは!?」と感覚的には思えるのだが、個人投資家としての成否はもっとシンプルな要素に左右されるとも考えられる。
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男女の差だけでは、投資家としての優劣はけっして語ることは出来ない
投資、とりわけ株式投資は、あれこれ難しく考えたり計算・分析したりすると、かえって上手くいかないことは多く、ましてや短期投資は予測不能のギャンブルに近い世界といっていい。
投資銘柄や経済予測などをあれこれ解説するアナリストなど、いわゆる専門家と呼ばれている人の予想もたいていは当たらない。
筆者は、これまでのFP業務経験から、女性は難しいものに手を出さずにシンプルに投資対象や銘柄を選ぶ人が多いように感じている。
あくまで筆者の持つ印象だが、女性は、自分の好きな会社、応援したい会社を選ぶ傾向が男性よりも強いので、それが長期投資に繋がり結果的に投資成果をあげることが出来るのだろう。
また、女性は男性に比べて大きなリターンを狙うために、過度なリスクを取ることも投資対象を集中させることも少ないため、おのずとリスクを抑えた分散投資を実行しているケースが多い。
男女の差だけでは、投資家としての優劣はけっして語ることは出来ないが、平均的にみて女性らしさや女性が持っている感性が、成功する投資に繋がっている可能性があるのかもしれない。
もちろん、女性の中でもリスクを選好する投資家たちはいる。
外国為替証拠金取引(FX)で海外でも広く知られている「ミセス・ワタナベ」はハイリスク・ハイリターンを志向する日本の女性投資家(投機家!?)の代表例なのだから。(執筆者:完山 芳男)