内閣府の有識者会議である「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」は、
を発表しました。
これは繰下げ制度の延長の話であり、支給開始年齢の引き上げの話ではありません。
しかしこれ以降に雑誌などを読むと、現在は原則65歳になっている年金の支給開始年齢を、政府は75歳程度まで引き上げすると予想した記事を、よく見かけるようになりました。
またその中には「2019年までに引き上げする」と、具体的な時期まで予想するものがあります。
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目次
わかりやすい年金額の減額は、選挙で負けてしまう確率を高める
政府は年金財政を安定化させるため、年金の支給開始年齢を引き上げしたいと思っているはずですが、簡単な話ではありません。
年金の支給開始年齢が引き上げされると、生涯に受給できる年金額が減ってしまうことは、誰でもすぐにわかります。
誰でもすぐにわかるということは、年金の支給開始年齢の引き上げを実施すれば、自民・公明の両党は次の選挙で、負けてしまう確率が高くなるのです。
家計学園問題などで安倍内閣の支持率は、急激に低下しておりますから、次の選挙で負けてしまう確率を高める政策を、あえてこの時期に実施するとは思えないのです。
年金額を減らすマクロ経済スライドは、デフレの時には発動されない
年金額は賃金や物価の変動率を元にして、毎年4月になると改定され、例えば賃金や物価が上昇すれば、その分だけ年金額も増えていきます。
しかし2004年の改正により、「マクロ経済スライド」が導入されてからは、賃金や物価の変動率から、少子高齢化の進展状況などを元に算出したスライド調整率を控除して、年金額を減らすようになりました。
賃金や物価が上昇しても、その分だけ年金額が増えていく仕組みではなくなったのです。
ただ賃金や物価の変動率がマイナスの場合、いわゆるデフレの時には、マクロ経済スライドは発動されません。
そのためスライド調整率の控除によって年金額が減ったのは、2015年度の1回だけであり、その時のスライド調整率は0.9%でした。
マクロ経済スライドで年金額を減らした方が、選挙で負けにくい
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マクロ経済スライドの適用を強化して、
は、すでに議論されているのですが、まだ実施されておりません。
個人的には年金の支給開始年齢の引き上げより、こちらの方を先に実施すると考えております。
デフレの時にもマクロ経済スライドが発動され、それが繰り返されていくと、数十年後には大幅に年金額が減ってしまうからです。
しかし1年あたりの減額は上記のように0.9%程度なので、年金の支給開始年齢の引き上げより、減額の痛みを感じにくいのです。
またマクロ経済スライドの適用の強化は、年金の支給開始年齢の引き上げより、政策の内容が複雑なため、マクロ経済スライドの適用の強化と年金額の減額を、結びつけて考えられない方もおります。
と考えられるのです。
第3被保険者の廃止は負担増になり、選挙で負ける確率を高める
会社員や公務員などの被扶養配偶者は、国民年金の第3号被保険者になるので、自分で保険料を納付する必要はありません。
この第3号被保険者をすぐに廃止して、保険料を納付してもらうようにすれば、年金財政を安定化できます。
ただ第3号被保険者の廃止によって負担が増加することは、誰でもすぐにわかります。
第3号被保険者の廃止も、年金の支給開始年齢の引き上げと同じように、選挙で負けてしまう確率を高めるのです。
社会保険の適用者が増えれば、第3号被保険者は自然に減っていく
2016年10月1日から、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用が拡大され、次のような要件をすべて満たすと、本人の意思の有無にかかわらず、社会保険に加入する必要があります。
B. 月額賃金が8万8,000円以上であること
C. 雇用期間が継続して1年以上見込まれること
D. 学生ではないこと
E. 従業員数が500人を超える企業に勤めていること
また2017年4月1日からは、Eの要件が変更され、労使(労働者と使用者)の合意がある場合は、従業員数が500人以下の企業であっても、社会保険に加入するようになりました。
今後は他の要件についても、少しずつ変更が加えられると予想され、その理由として社会保険の適用者が増えていけば、第3号被保険者を廃止しなくても、その人数は自然に減っていくからです。
また社会保険の適用を拡大して、第3号被保険者の人数が減少するのを待ってから廃止をすれば、少なくとも現在よりは選挙に負けにくいのです。
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資産運用を実施して、スライド調整率を上回るリターンを確保する
このように給付減や負担増がわかりやすい政策は、選挙で負けてしまう確率を高めるので、
「社会保険の適用拡大」
などの、選挙で負けにくい政策から、実施していくと思うのです。
この選挙で負けにくい政策は、給付減や負担増につながるのがわかりにくいので、対策が怠りがちになります。
例えばマクロ経済スライドの適用が強化されれば、デフレでもスライド調整率(0.9%程度)の分だけ、年金額が減っていきます。
ですから資産運用を実施して、スライド調整率を上回るリターンを確保することが、対策のひとつになると思うのです。(執筆者:木村 公司)