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賃上げ率

新年度が近づいてくると、国内の多くの労働組合が賃上げや、労働条件の改善などを経営者に要求する、「春闘」が活発化してきます。
第2次安倍内閣が誕生してから、賃上げ率は伸びているのですが、その勢いは2015年の2.38%をピークに衰えており、2016年は2.14%、2017年は2.11%になりました。
このような状況を改善するため安倍総理は、
のです。
また与党は2018年度の税制改正大綱の中に、一定の賃上げや国内設備投資を実施した企業を税金面で優遇する、「所得拡大促進税制」を拡充すると記載しました。
これらの影響などによって、賃上げを実施する企業は昨年より増える見込みですが、賃上げ率は今のところ3%に届かないようです。
厚生年金保険から支給される年金は、月給と賞与を元に算出される
給与から控除されている厚生年金保険の保険料は、給与の金額に比例して増えていくため、賃上げが実施されると、保険料の負担が重くなる場合があります。
ただ原則65歳になった時に、厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」は、現役時代にお勤め先から受け取った月給と賞与を合算した平均額と、厚生年金保険に加入していた期間で決まります。
そのため賃上げが実施されると、将来に受給できる老齢厚生年金が増えていくため、マイナス面ばかりではないのです。
厚生年金保険からは老齢厚生年金の他に、
・ 一定の障害状態になった時に「障害厚生年金」が支給
・ 自分が死亡した時に遺族に対して、「遺族厚生年金」が支給
されます。
これらの年金額は原則として、それまでにお勤め先から受け取った月給と賞与を合算した平均額と、厚生年金保険に加入していた期間で決まるため、賃上げが実施されると保障内容が充実するのです。
賃上げにより保障内容が充実すると、生命保険の保険料を節約できる
賃上げにより保障内容が充実して、例えば老齢厚生年金が増えると、その分だけ老後資金として準備する金額を少なくできます。
そうなれば老後資金として使う予定だった資金を、子供の教育費や住宅ローンの返済などに回せるのです。
また賃上げにより保障内容が充実して、例えば遺族厚生年金が増えると、その分だけ生命保険の死亡保険金は必要なくなります。
そのため生命保険の保障内容を見直して、死亡保険金の金額を低く設定すると、保険料の節約ができるのです。

保険料収入の増加と内需企業の株価上昇は、年金財政を安定化させる
賃上げが実施されて、給与の手取りが増えると、GDPの約6割を占める個人消費が、回復する可能性があります。
給与から控除されている厚生年金保険の保険料は上記のように、
という意見があるかもしれません。
しかし2004年から始まった、毎年9月に実施される厚生年金保険の保険料率の引き上げは、2017年をもって終了したため、以前より給与の手取りは増えやすくなっているのです。
また安倍総理の要請通りに、3%の賃上げが実施されれば、賃金の上昇率が物価の上昇率を上回るため、以前より個人消費が回復しやすい状況です。
このようにして個人消費が回復すると、小売や外食など主に国内で稼ぐ内需企業の業績が回復して、その株価が上昇する可能性があります。
そうなると年金の積立金の収益率が上がるため、賃上げによる保険料収入の増加と共に、年金財政を安定化させるのです。

現役世代の賃上げが実施されると、老齢年金は前年度より増額する
原則として65歳から支給される、老齢基礎年金や老齢厚生年金などの老齢年金は、新年度が始まる4月に、その金額が改定されるのです。
67歳以下の「新規裁定者」の場合
過去3年度における現役世代の賃金の変動率の平均を算出し、それが上昇(下降)した分だけ、老齢年金を前年度より増額(減額)させます。
68歳以上の「既裁定者」の場合
1月頃に総務省から発表される、前年の全国消費者物価指数を参照し、それが上昇(下降)した分だけ、老齢年金を前年度より増額(減額)させます。
そのため現役世代の賃上げが実施されると、特に新規裁定者の生活を改善させるのです。
年金カット法案が施行された後は、賃金の変動率が優先される

このように新規裁定者は賃金の変動率で、既裁定者は物価の変動率で、老齢年金を4月から改定するのが、原則的なルールになっております。
しかし「賃金の変動率<物価の変動率」になった場合には、この原則的なルールではなく、特例的なルールで老齢年金を改定します。
一例を挙げると賃金の変動率がマイナスで、物価の変動率がプラスの場合には、新規裁定者と既裁定者のいずれについても、前年度の老齢年金を据え置きするため、増減なしです。
ただ2021年4月からは、野党やマスコミなどが「年金カット法案」と批判していた、年金制度改革法案が施行されるため、賃金の変動率を優先するという考え方が、徹底されます。
そのため賃金の変動率がマイナスで、物価の変動率がプラスの場合、上記のように前年度の老齢年金を据え置きするのではなく、新規裁定者と既裁定者のいずれについても、マイナスになった賃金の変動率で、老齢年金を改定します。
つまり今までは据え置きで、増減なしだったものが、減額に変わってしまうのです。
ですから2021年4月からは既裁定者にとっても、現役世代の賃上げが重要になってくるのです。(執筆者:木村 公司)