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「相続時精算課税制度」
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この贈与税の制度が開始して15年、もはやその名称を知らない人はいないほどになりました。
さまざまな節税マニュアルでも活用を呼びかける声が見られます。
しかし現場の税理士で相続時精算課税制度を節税対策として積極的に提案する人はあまりいません。
一見メリットの大きいこの制度ですが、リスクをはらんでいるからなのです。
もう一度おさらい!「相続時精算課税制度」とは何か
相続時精算課税制度とは、生前贈与の際に納めた税金は、後の相続開始時における相続税と精算できるという「相続税と贈与税の一体型」の税金制度です。
2003年1月1日より創設され、生前贈与に関する税制の2本柱の一つとなっています。
生前贈与した贈与税を「相続時に精算する」というだけではうまみはないのですが、
というメリットを持っています。
そのため、「贈与する資産が贈与時の時価よりも相続時の時価が高くなると見込まれる場合、相続時精算課税制度を活用するといい」というのが節税の定石です。
また、
ため、非課税のメリットをそのまま享受できます。
デメリット
・ 贈与者は60歳以上の直系尊属でなくてはならない
・ 受贈者は20歳以上の直系卑属でなくてはならない
という条件があります。
また、一度選択したらその贈与者・受贈者の関係では二度と暦年課税制度は選択できませんし、撤回することもできないのです。
リスク1. 贈与資産の価格変動の未来と相続開始時が読めない

最大のリスクは相続時精算課税制度の適用対象となる
ことにあるでしょう。
特に現在、2020年の東京オリンピックを控えていることもあり、土地などの資産価格は上昇傾向にあります。
株式などの有価証券についても、情勢変動はあるものの、先がまったく読めません。
2000年前後から、経済のバブル化と崩壊が短期間で発生するようになりました。
相続開始時、つまり財産の持ち主の死亡時期についても同じです。
2016年時点で男性の平均寿命は81歳、女性は87歳です。平均寿命は今後、更に高齢化していく可能性があります。
そんな中、
とは限らないのです。
もしかしたら今贈与した資産は、2020年以降、大幅に下落しているかもしれません。
そうなると、得するつもりが損することになってしまいます。
リスク2. 選択後、1円でも贈与したら贈与税の申告が必要
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相続時精算課税制度を選択したら、その関係では
暦年課税制度とは「年間110万円まで資産を贈与しても非課税となる」制度です。
つまり、いったん相続時精算課税制度を選択した「祖父-孫」、「母-子」においては、そのあと贈与する金額が1円でも、必ず翌年3月15日までに贈与税の申告をしなくてはならないのです。
「お年玉のつもりで1万円」であっても申告が必要です。
ただし、「親子」、「祖父母と孫」での金銭の授受であっても、扶養義務者から受け取る金銭で、その都度直接生活費や教育費といった
「すぐ使うようなもの」
については、贈与税はかかりません。
お金をもらっても預金したり投資に充てたり…と日常生活に必要のないものに充てている場合は贈与税の対象です。
リスク3. 受贈者がうっかり忘れることで相続時の相続税計算が困難に
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相続時精算課税制度の非課税枠が2500万円と多額であることから、活用するケースも「一度に高額の贈与を行う場合」が目立ちます。
見方を変えると「その後長期間にわたって贈与が行われないまま相続を迎える」ケースが多いということです。
結果、
税理士が税務署に照会を行ったところ、
「その後計算しなおしてみたら各相続人の負担する相続税額が増えてしまった…」
ということになりかねません。
メリットの大きい制度ほど、些細なことでデメリットを被ります。
目に見えないリスクも検討した上で、相続時精算課税制度を使うかどうかを再度考えてみてください。(執筆者:鈴木 まゆ子)