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新しい会社で働きはじめるあなたへ
新年度が始まる4月から、期待に胸を膨らませて、新しい会社で働き始める方がいると思います。
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しかし実際に働いてみたら、面接の時に聞いた労働条件とはまったく違い、例えば、過労死が心配になるほど残業時間が長く、すぐに辞めたくなってしまう場合があるかもしれません。
求人サイトなどを見ていると
と記載されている場合があります。
これは
です。
社会保険で不利にならないために
これと同じように退職した後に、社会保険で不利にならない勤務期間があると思うのです。
は、
労働条件に納得できない場合でも勤務を続けた方が良いと考えます。
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「最低6カ月は同じ会社で働いた方が良い」4つの理由
1. 試用期間中であっても、要件を満たせば社会保険に加入できる
会社員の方が入社した後に加入する公的な保険としては、
・健康保険や厚生年金保険などの「社会保険」
があります。
ただ求人情報に「社会保険完備」と記載されている場合の社会保険とは、
の4つを示す場合が多いようなので、この記事においても同様の取り扱いとします。
それぞれの保険に加入する要件を満たしている場合には、3~6か月くらいに設定されている試用期間中でももちろん加入できます。
手続きをされているか、しっかり確認
しかし試用期間中については、雇用保険の資格取得の手続きはするけれども、健康保険や厚生年金保険の資格取得の手続きはしない会社があるようです。
この理由として、雇用保険、健康保険、厚生年金保険に加入する場合、従業員が納付する保険料とほぼ同額を、会社が負担しなければならず、健康保険や厚生年金保険は、雇用保険より保険料が格段に高いからです。
また試用期間中に、健康保険の資格取得の手続きをすると、短期間で会社を辞めた場合、従業員に渡した健康保険証をすぐに回収したうえで、資格喪失の手続きをする必要があり、それに手間がかかるという事務的な理由もあるようです。
いずれにせよ、それぞれの保険に加入する要件を満たしている方を、
であり、また加入していないと退職した後に困る可能性があるため、
した方が良いと思います。
2. 入社から2か月が経過すると「任意継続被保険者」を選択できる
健康保険の資格喪失日(原則として退職日の翌日)から20日以内に手続きをすると、退職する前に加入していた健康保険を、最長2年間に渡って使用できる「任意継続被保険者」という制度があります。
この「任意継続被保険者」になるには、健康保険の資格喪失日の前日までに、継続して2か月以上の被保険者期間があることが要件になるため、
のです。
退職した後は、会社が保険料の半額を負担しなくなるため、保険料は退職する前の約2倍(上限あり)になります。
扶養している家族がいる方は、保険料が安くなるケースも
しかし、扶養している配偶者や子供がいる時には、退職後も健康保険の被扶養者にできるため、国民健康保険に加入する場合よりも保険料が安くなるケースがあるのです。
また退職する前に加入していた健康保険が、健康保険組合が運営する「組合健保」で、その健康保険組合が人間ドックの受診補助を実施したり、保養所の格安利用を認めたりしている時には、「任意継続被保険者」も同じ条件で利用できる場合が多いです。
ですから、扶養している家族がいる方については、入社から2か月というのが、社会保険で不利にならない勤務期間のひとつになります。
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3. 特定受給資格者や特定理由離職者なら、6か月で失業手当を受給できる
自己都合で退職した方が、雇用保険の基本手当、いわゆる「失業手当」の受給資格を得るには、雇用保険の被保険者であった期間が、離職日以前の2年間に12か月以上は必要になります。
また失業手当の受給資格を得たとしても、たいてい3か月の給付制限が付くので、すぐに受給できません。
特定受給資格者
しかし、例えば離職直前の6か月間に、
・2~6か月平均で月80時間を超える残業があった場合
・1か月で100時間を超える残業があった場合
の、いずれかに当てはまる離職者は、「特定受給資格者」に該当する可能性があります。
そうなると雇用保険の被保険者であった期間が、離職日以前の1年間に6か月以上あれば、失業手当の受給資格を得ることができ、また給付制限が付かないので、すぐに失業手当を受給できます。
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特定理由離職者
また残業時間がこれほど長くなくても、例えば長時間労働が原因で何かしらの病気になり、正当な理由で自己都合退職した方は、「特定理由離職者」に該当する可能性があります。
そうなると、「特定受給資格者」と同じように、雇用保険の被保険者であった期間が、離職日以前の1年間に6か月以上あれば、失業手当の受給資格を得ることができ、また給付制限が付かないので、すぐに失業手当を受給できます。
ですから、仕事を辞めたくなっても
のです。
また特定受給資格者や特定理由離職者の範囲は意外に広いのですが、これらに該当しなかった場合に備えて、できれば1年は働いた方が良いのです。
なおタイムカードのコピー、給与明細、医師の診断書などにより、特定受給資格者や特定理由離職者に該当することを、ハローワークに証明する必要があります。
そのため在職中でないと入手できないものは、退職前にしっかりと確保しておきたいところです。
4. 傷病手当金や出産手当金は、要件を満たせば退職後も受給できる
傷病手当金
健康保険の被保険者が業務外の病気やケガなどで、仕事を休んでいる場合には、休職する前の給与の3分の2くらいになる「傷病手当金」を、最大1年6か月に渡って受給できます。
出産手当金
また健康保険の被保険者が出産した時は、休職する前の給与の3分の2くらいになる「出産手当金」を、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)から産後56日の中で、仕事をしなかった期間分だけ受給できます。
これらを受給中の方が退職した場合、健康保険の被保険者の資格を喪失する日の前日までに、継続して1年以上の被保険者期間があれば、退職後も所定の期間に達するまで、引き続き受給できるのです。
ですから、傷病手当金や出産手当金を受給している方は、入社から1年というのが、社会保険で不利にならない勤務期間のひとつになります。
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なお、健康保険の被保険者資格を喪失した後の保険給付としては、死亡した時に支給される「埋葬料(埋葬費)」や、出産した時に支給される「出産育児一時金」もあります。
ただこれらは、退職後に加入する国民健康保険にも、同様の保険給付があるため、原則的に国民健康保険では支給されない傷病手当金や出産手当金の方を、意識しておいた方が良いのです。(執筆者:木村 公司)