目次
労働契約法とは?
2007年に制定された労働契約法は個々の労働者と使用者の間の労働(雇用)契約を取り決める法律です。
特に最低基準を上回る労働条件の決定・変更と労働条件の成立・終了を取り決めますが、公務員や同居の親族のみを使用する労働契約には適用されません。
労働組合の中央組織、連合が始まったのは、平成が始まった1989年ですが、労働者のなかで労組に加入している人の割合(組織率)は1949年の55.8%をピークに、1989年には25.9%、2017年度は17.1%と過去最低になりました。
不況や労働規制の緩和で平成の間に急増した非正社員を労働組合員にしてこなかった影響です。
「労働組合が守るのは主に正社員」という実態があったため、非正社員も含め、雇われる人全員が結ぶ「労働契約」を取り決める「労働契約法」が成立し、その後の改正により強化されたのでしょう。
2012年8月の労働契約法改正とは?
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労働契約法の一部を改正する法律が2012年8月に公布されました。
改正点は以下の3点で、2項目は2012年8月、1項目目、3項目は2013年4月より施行されました。
1. 無期労働契約への転換.(2013年4月より施行)
2013年4月以降の有期労働契約が繰り返し更新されて合計して5年を超えるときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールができました。
有期雇用で働く人たちの「雇い止め」の不安を解消するためにできたルールです。
2. 雇止め法理の法定化(2012年8月より施行)
最高裁で決まった「雇止め」を無効とする「雇止めルール」の内容が法律に定まり、一定の場合には使用者による雇止めが認められないことになりました。
「雇止め」とは有期労働契約の更新を使用者(会社)が拒否し、労働(雇用)契約を終了させることです。
最高裁の判例により決まった「雇止めルール」とは、1つは昭和49年7月の東芝柳町工場事件の例です。
他にも
これらの判例が「雇止めルール」の基準になっています。
3. 不合理な労働条件の禁止(2013年4月より施行)
有期契約労働者と無期契約労働者の間で不合理な労働条件の相違を設けることは禁止されました。
賃金、労働時間、災害補償、教育訓練、福利厚生、服務規律、付随義務、労働者に対する一切の労働条件について、期間の定めの有無により不合理に相違させることを禁止するルールです。
2013年4月の労働契約から更新の扱いが変わった
現在、問題になっているのは2013年4月に施行された改正労働契約法の上記1項目目の「無期労働契約への転換」で、「労働契約法の5年ルール」と言われます。
「5年ルール」とは、最初の労働契約を繰り返し更新されて通算5年を超えた場合、労働者が会社に申し込みすることで無期(期間の定めのない)労働契約に転換できる権利を与えるルールです。
雇う会社側は転換の申し込みを拒否できませんし、労働契約(無期労働契約)に転換することが、会社に義務づけられたのです。
申し込みは口頭でも有効ですが、やはり書面で行う方がトラブルにはなりにくいでしょう。
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無期労働契約に転換するには申し込みが必要。
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契約期間終了後でも、申し込みがあると無期労働契約になります。
2018年4月から順次、有期労働契約から無期労働契約になる人が出てくる予定です。
例えば、上記図のように2013年4月から1年契約を繰り返し、今月に通算5年を超えた人が会社に無期契約への申し込みを行うと、次の労働契約から無期労働契約に変わります。
無期労働契約社員になるためには、最初の契約期間から5年経過した後の「申し込み」が必要という部分が最重要ポイントです。
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有期労働契約から無期労働契約に転換するには、申し込みが必要。口頭より書面の方が良い。
2013年4月から5年経過 無期契約社員が現れる?
多くの企業の対応は、有期契約を無期契約に切り替えるだけの「無期契約社員化」で対応するようで、多くは「正社員化」とは異なる形になりそうです。
無期契約社員と正社員、
「福利厚生は公平に享受できるのか?」
など会社内でも今後は検討する必要が生じるのでしょう。
5年ルールを積極的に活用していこうとする動き
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5年ルールをきっかけに有期契約社員の待遇改善に乗り出す会社なども出てきています。
理研は3,000人の研究者のうち7年以内に4割を無期雇用契約にしていきたい意向で計画しているとのことです。
アパレルの山陽商会は契約社員1,000人を契約期間が1年超すことを条件に、7月から無期雇用の正社員に転換する予定とのこと。
本州、四国で総合スーパー約400店を運営するイオンリテールには、時給制で半年契約のパート(9割女性)の「コミュニティ社員」が約10万人のうち、通算5年を超えて契約している社員は約5万人とのこと。
現有期労働契約は2月21日から8月20日までとのことですが、4月1日以降、5年ルールの要件を満たす人が転換を申し出た場合、次の契約から無期労働契約化する方針、と就業規則にも明記したとのこです。
6か月の空白で雇用期間がリセットされるクーリング制度とは?
最初の有期労働契約から通算5年経過すると、無期労働契約に転換する申し込みができるのですが、通算5年とカウントされるための労働契約期間の計算方法を確認してみましょう。
労働契約がない空白期間が6か月以上間にあるとき。
有期労働契約とその次の労働契約の間に、契約がない空白期間が6か月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は、通算5年の中にはカウントされません。これをクーリングと言います。

6か月の空白期間で、空白前の労働契約はリセットされる。
労働契約がない空白期間が6か月未満のとき
有期労働契約とその次の労働契約の間に、契約がない空白期間があっても、6か月未満の場合は、空白期間前と後の有期労働契約期間を通算できます。(クーリングされません。)
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空白期間が6か月未満なら、空白以前の労働契約も通算されます。
カウントの最初となる有期労働契約が1年未満の場合
最初の有期労働契約期間に応じ、右の期間が空白期間となると、空白前の労働契約は5年間の中に通算されません。

労働契約が1年未満の場合は、空白期間が労働契約期間ごとに異なります。例えば2か月未満の労働契約は1か月以上の空白でクーリングです。
その他通算5年の有期労働契約期間の計算方法
・ 通算5年に含める有期労働契約は「同一の使用者」ごとに計算。
・ 通算の労働契約は存続期間で計算。労働契約中なら育児休業中でも計算できる。
・ 通算の労働契約は契約期間の初日から、翌月の応答日の前日までで1か月と数える。
無期労働契約への転換を逃れようと試みる会社も現れる
労働契約法改正の趣旨とは、まったく異なり、無期労働契約に転換することを逃れようとする会社も現れています。
某大手運送会社では、2012年より毎年1年契約している女性契約社員より雇止めを訴えられたとのこと。
2015年6月の雇用契約に「2013年4月以降最初の契約から、5年を超えて更新することはない」と文言があったとのことです。
この会社では、継続して働ける期間の上限を2年11か月としていて、その後は6か月の「空白期間」がないと仕事に戻れないとのこと。
これでは、いつまでたっても通算勤務期間が5年を超えないので、無期労働契約を申し込む権利を得られないような労働条件だといえるでしょう。
某マンモス大学の一部の学部で昨年11月、英語を教えていた非常勤講師15人全員が、大学から平成30年3月までで雇用契約を打ち切ると通告されたが、15人を支援する首都圏大学非常勤講師組合は「無期転換を逃れるための雇い止めだ」と反発し、4月以降も労働契約の継続を強く求めているということです。
改正労働派遣法の最初の期限も2018年9月末
2015年の労働者派遣法の改正により、同じ人を、1つの会社の同じ部署に派遣できる期間は、3年が限度となりました。
その最初の期限が、2018年9月末に迫っています。
ただし、派遣会社に無期雇用されている場合には、この3年ルールの適用が除外されています。
いずれにせよ、派遣社員についても「有期契約の派遣社員」と「無期契約の派遣社員」が発生するのです。
おかしいと思ったら相談を
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働く人の中には労働契約法(厚生労働省 労働契約法改正のあらまし)が変わったことを知らない人もいるでしょうし、「知らない間に雇い止め」という憂き目に会わないように、次に挙げる出来事があったら、「違法な雇い止め」である可能性が高いです。
・ 「無期労働契約を選ぶなら給与引き下げする、有期労働契約なら今までの給与」と無期労働契約を不利な条件で結ばせようとする。
・ 「労働契約期間は5年上限」などと、会社が一方的に就業規則に明記する。
・ 労働契約更新時「次の更新はない」と契約上の項目を付け加える。
・ 6か月の空白で雇用期間がリセットされるクーリング制度を悪用し、「6か月以上の空白期間を設けるなら、次の労働契約を結ぶ」と条件をつける。
などがあれば、厚生労働省 都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所の所在地一覧)、もしくは労働法を得意とする弁護士・社労士などに相談してみましょう。
厚生労働省によると、パート・アルバイトの平均賃金は正社員の半分程度とのことで、福利厚生でも正規と非正規の格差が大きい職場も多いのです。
正規でも非正規でも同じ仕事をしている場合は原則同じ待遇になるように、労働契約法の改正がうまく機能することを願っています。(執筆者:社会保険労務士 拝野 洋子)