税の世界において愛人の話は、実は税務調査の局面で問題になりやすいポイントです。
税務調査官が変にプライベートの事に突っ込むことに違和感を覚える人もいるでしょうが、税法の概念にも愛人を指すものが存在し、不当に納税額が下がることを防ぐ狙いがあるからです。

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法人の損金にできない「過大使用人給与」
同族会社経営者がやりがちなことの1つとして、身内に多く給与を払うことが挙げられます。
これは法人や会社代表者に生じる所得を抑えつつ、身内に所得分散をはかることで税負担を抑えられるメリットもあるからです。
税務当局はこれをまっとうな節税と考えず租税回避とみなしているので、身内に対して不当に多い給与は、法人税の課税所得を下げる「損金」に算入できないようにしています。
企業の従業員を使用人と呼ぶことがありますが、上記の損金に算入できない給与は「過大使用人給与」と呼ばれます。
愛人は「特殊関係使用人」という概念に当てはまる

「過大使用人給与」の対象になる身内を、税法の世界では「特殊関係使用人」と呼びます。
通常は法人経営者の親族を指しますが、事実婚の関係にあるものや、生計の支援を受けている愛人までも含まれます。
愛人手当は、仕事の正当な対価とはいえないため、過大使用人給与に該当する可能性があります。
もし役員であった場合、愛人手当は役員報酬に該当しますが、同様に不相当に高額な部分は損金に算入されません。
法人税追徴と給与所得税のダブルパンチ
何をもって過大とするかに数値基準があるわけでなく、税務調査官が社内の他の従業員と給与水準を比較したり、同業他社の水準と比較したりしての個別判断となります。
例えば愛人に月50万円支払っていて、過大使用人給与と認定された部分が月30万円だったとします。
月30万円、年間で360万円が法人税の課税所得にプラスされるため、法人税(国税の他に地方税も含む)が追徴課税されます。
月30万円分も給与もしくは役員報酬として払った以上は所得税・住民税が課税され、結果としてこの部分には二重に課税されることになります。
税務調査官にすれば追徴課税のチャンスとなるため、調査における聞き取りに世間話をおりまぜながら、愛人の存在を気にするのです。
ポケットマネーでの援助は贈与税の課税対象

法人に蓄積された資金からではなく、会社経営者のポケットマネーから愛人に支払われた場合は、扱いが変わります。
個人から個人へ、仕事の対価とは言えないお金の流れは「贈与」と認定され、贈与税の課税対象となります。
各暦年(1月1日~12月31日)において110万円を超えれば、受け取った愛人の側は贈与税を支払わなければなりません。(執筆者:石谷 彰彦)