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ブレグジット決定!
約2年半前「英国がEUを離脱したら…日本や世界経済への影響は?」というコラムを書きました。
これを書いた時は、英国が「EU(欧州連合)からの離脱(Brexit =ブレグジット、Britainとexitを合わせた言葉)の是非を問う」国民投票の2か月前でした。
その後6月23日の国民投票で、残留支持が1,614万1,241票(約48%)、離脱支持が1,741万742票(約52%)となり、離脱支持側が僅差の勝利となったのです。
まさに、コラムの中で書いていた懸念が的中してしまった瞬間でした。
国民投票の結果を受け、英国の通貨ポンドは、投票からほぼ1日のうちに30年来の安値水準まで約10%下落し、英国債の利回りも急落しました。
翌日の24日は、世界の株価も大きく動揺を示し、日経平均も前日比1,286円安の1万4,952円、円も一時1ドル99円ちょうどまで急上昇(ドルの急落)したことは、皆様の記憶に新しいのではないでしょうか?
あれから2年半
最近では「ハードブレグジット」という言葉を聞かれる方も多いと思います。
「ハードブレグジット」とは、英国がEU(欧州連合)から離脱するに当たり、EU市場との“合意無し”での決別を含む「強硬路線」で離脱に突き進むことを指します。
合意形成のもと、柔らかに離脱する「ソフトブレグジット」に対する言葉です。
「ハードブレグジット」になってしまった場合、どんなことが起きるのでしょうか?
もともと、2016年の国民投票結果のベースにあったのは、「英国がEUから離脱することで移民や金融のコントロールをしたい」ということでしたから、その意向はある程度担保されると思います。
離脱することで今後、英国政府がEU以外の急成長する国や地域と独自の通商協定などを結び、経済発展を後押しする可能性もあるでしょう。
また、
といったブレグジット推進派の声も聞こえてきます。
しかしながら、その一方で「ハードブレグジット」は、EU市場への自由なアクセスが制限されることになるでしょう。
よって、
・ 企業の英国からの撤退
・ 貿易額の大幅減少
・ 結果としての景気後退や(景気後退時の物価高で)スタグフレーション
・ はたまた金融センターとしてのロンドンの地位低下
などといった事態になることが予想されます。
英王立経済社会研究所(NIESR)では、英国がEUとの合意形成を持ってある程度の絆を保ったままで離脱する「ソフトブレグジット」に比べ、「ハードブレグジット」ならば
と指摘しています。
ロイターの調査では、「ハードブレグジット」が実現した場合、現在1.2750ドル近辺のポンド/ドルは1.20ドルと約6%下落する見通しだといいます。
さらに、コメルツ銀行では、
とまで想定しています。
そして、合意なしの最悪のシナリオでは、英国のEU市民、EU域内の英国民はそれぞれ居住権や他の権利を喪失する危険すらあると思います。
日本への影響は地理的にも遠いし、「大きな問題はない」と言えるでしょうか?
これに関しては、2年半前のコラムでも、
と書いています。
それが「ハード」な離脱となっては、「何らか」どころか「大きな」戦略変更になることは必至だと思います。
もしもそうなったら、ぞっとするようなシナリオばかりです。
まだ大丈夫…でも安心はできない
当面は、「ソフトブレグジット」を目指すメイ首相に対しての不信任案は提出されることはなさそうです。
EU離脱を主張する強硬派保守党議員の中心的存在であるジェイコブ・リースモッグ氏も今の所その意向はないようです。
また、メイ首相に異議を唱える議員もいるものの、ほとんどの議員がメイ首相を依然支持している模様ですので、英国がEU離脱を予定する来年3月の時点でもメイ氏が首相を続けている可能性が高いと思います。
しかしながら、デービス欧州連合(EU)離脱担当相やボリスジョンソン外相などの主要閣僚を含めこれまで7人の閣僚が辞任した流れで、メイ首相も一転して辞任に追い込まれる可能性も否定できません。
メイ首相が辞任した場合、新たに選出される首相が彼女のハト派路線とは逆姿勢をとれば、一気に「ハードブレグジット」の可能性も高まると思います。
当面、目が離せない状況が続きます。(執筆者:阿部 重利)