厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の年金部会は、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入要件である「月収8万8,000円(年収なら106万円)以上」を、「月収6万8,000円以上」まで引き下げる議論を開始するようです。
こういった影響により国民年金から、厚生年金保険に切り替わった場合には、国民年金から支給される「老齢基礎年金」に上乗せして、厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」も受給できるようになります。
厚生年金保険に加入するメリットは他にもあり、例えば一定の障害状態になった時に、国民年金から支給される「障害基礎年金」に上乗せして、厚生年金保険から支給される「障害厚生年金」も、受給できるようになるのです。
また障害基礎年金の障害等級は、もっとも重度の1級と、それよりは軽い2級の、2種類しかありません。
それに対して、障害厚生年金の障害等級は、1級、2級、3級の3種類があり、3級よりも障害の状態が軽い場合には、障害手当金という一時金があるため、障害年金や一時金を受給できる可能性が広がります。
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目次
日常生活や労働に支障が出てくると、障害年金を受給できる
障害年金を受給できる病気やケガには、日本人の罹患率が高い3大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)や、7大疾病(3大疾病+慢性腎不全、肝硬変、糖尿病、高血圧性疾患)なども含まれます。
またうつ病、てんかん、統合失調症などの精神疾患でも、障害年金を受給できるのです。
ただこれらの診断が下されたら、誰でも障害年金を受給できるわけではなく、これらの治療の後に残った障害により、日常生活や労働に、次のような支障が生じている必要があるのです。
日常生活に著しい支障があり、常に他人の援助が必要である
【障害等級2級】
日常生活に著しい支障があるが、最低限の生活であれば、辛うじて一人暮らしができる
【障害等級3級】
労働(労働時間や職務内容など)に、著しい制限がある
【障害手当金】
病気やケガは治っているが、労働に制限がある
また実際にどの等級に該当するのかは、血液検査の数値範囲などを事細かに規定した、日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準(pdf)」を元にして判断されます。
障害基礎年金には子の人数に応じた、「子の加算」が上乗せされる
2級の障害基礎年金は、2018年度額(以下でも同年度の金額を記述)で、77万9,300円(月額だと6万4,941円)になり、1級の障害基礎年金は2級の1.25倍の、97万4,125円(月額だと8万1,177円)になります。
障害基礎年金の受給者に生計を維持されている、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子、または障害等級1級か2級の障害の状態にある、20歳未満の子がいる場合には、子の加算が上乗せされるのです。
その金額は、1人目と2人目は、1人につき22万4,300円(月額だと1万8,691円)になり、3人目以降は、1人につき7万4,800円 (月額だと6,233円)になります。
1級か2級の障害厚生年金には、「配偶者加給年金」が上乗せされる
厚生年金保険に加入していた方の障害等級が、1級か2級に該当する場合には、上記のように障害基礎年金に上乗せして、障害厚生年金も支給されます。
障害厚生年金の金額は、厚生年金保険の加入期間や、勤務先から受け取っていた給与の平均額で決まるため、計算するのが難しいのですが、ねんきん定期便を見ると目安額がわかるのです。
例えば、2級と3級の障害厚生年金は、ねんきん定期便の中に掲載されている「老齢厚生年金(報酬比例部分)」とほぼ同額であり、1級の障害厚生年金はこの1.25倍になります。
ただ厚生年金保険の加入期間が短いと、障害厚生年金の金額が低くなってしまうため、いずれの等級についても、厚生年金保険の加入月数が300月に満たない場合には、次のような計算を行って、最低でも300月は加入したものとみなすのです。
また3級の場合には、障害基礎年金を受給できないため、58万4,500円(月額だと4万8,708円)という最低保証があります。
1級か2級の障害厚生年金の受給者に生計を維持されている、65歳未満の配偶者がいる場合には、22万4,300円(月額だと1万8,691円)となる、配偶者加給年金が上乗せされます。
なお障害手当金の目安額は、
になりますが、金額が低くならないように、障害厚生年金と同様に300月は加入したものとみなし、また116万9,000円という最低保証があります。
障害状態になる前にできる3つの対策
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対策1:初診日を証明するために、領収書などを保管しておく
障害年金を請求する際には、初診日(初めて医師の診察を受けた日)を、証明する必要があるのですが、これが難しいケースもあるのです。
その理由として病院などが、カルテを保存しておく義務があるのは、最終の受診日から5年になるため、初診日が5年以上前にあると、病院などから証明をもらうのが、難しくなるからです。
また病院などがすでに廃業している場合も、証明をもらうのが難しくなります。
これらの対策としては、領収書、診察券、お薬手帳、健康診断の記録などの初診日がわかるものを、できるだけ保管しておくのです。
対策2:公的年金の保険料を、きちんと納付しておく
障害年金を受給するには「初診日の前日」において、次のいずれかの保険料の納付要件を、満たしている必要があります。
・初診日において65歳未満の場合、初診日のある月の前々月までの1年間に、保険料の未納がないこと。
なぜ「初診日の前日」で判断するのかというと、例えば病院などで診察を受けたら、想像していたよりも重病で、障害年金を受給できるかもしれないから、未納の保険料を初診日以降に納付するという方に、障害年金を受給させないためです。
この対策としては、日ごろから公的年金、特に国民年金の保険料をきちんと納付することであり、保険料を納付するだけの経済的な余裕がない場合には、免除申請を行うのです。
対策3:認定に関係がある病状や生活状況は、医師に伝えておく
障害年金は原則的に書面審査であり、その中でも医師が書いた診断書は、重要な判断材料になります。
しかし、すべての医師が障害年金の認定基準を、詳しく知っているわけではないので、実際には認定基準を満たしているのに、満たしていないような診断書を、書かれてしまう場合があるのです。
この対策としては、障害年金を請求する可能性が出てきたら、上記の「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」や、それぞれの障害に応じた診断書の用紙を、早めに読んでおきます。
そして、これらの中に記載されていることと、自分の病状や生活状況を照らし合わせ、一致している部分があったら、それを診察の際に、医師に伝えておくのです。
そうすれば認定基準を満たす診断書を、書いてもらえる可能性が、以前よりも高くなります。
自分で手続きができない場合には、専門家への依頼を検討してみる
厚生労働省は2013年に、身体障害者手帳を持つ20歳以上の方のうち、障害年金を受給できるのに請求していない方が、0.4%程度いるという調査結果を発表しました。
身体障害者手帳を持つ方の人数から考えると、障害年金の請求漏れは、2万人程度はいると推測され、未調査の知的障害者や精神障害者を加えると、更に多くなる可能性があるのです。
障害年金を受給できるのに、請求をしていない理由は、制度が周知されていないだけでなく、制度内容がわかりにくいからだと思います。
ですから障害年金の本を読んだり、年金事務所や街角の年金相談センターで聞いたりしても、自分で手続きができない場合には、障害年金を専門にする社会保険労務士に依頼してみるといいです。
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なお、国内最大の障害年金のサポート団体である「NPO法人障害年金支援ネットワーク」では、無料の電話相談のほかに、障害年金を専門にする社会保険労務士の紹介も行っております。(執筆者:木村 公司)