せっかく御縁があって知り合い、付き合い、一緒になった男女。しかし、世の中に「永遠」は存在しません。
残念ながら、一度は結婚した夫婦ですが、遅かれ早かれ確実に別れるのです。
別離の理由は死別、離婚のどちらかですが、今回は離婚の修羅場に焦点を当てましょう。
離婚の最大の被害者は夫でも妻でもなく「子供」です。子供は両親を選んで産まれてくることはできず、何の罪もありません。
それなのに両親の離婚によって今まで住み慣れた家、使い慣れた部屋、通い慣れた学校、そして地域や学校、習い事等で仲良くなった友達…親の都合ですべてを奪い取られるのです。
だからこそ、せめて金銭的に苦労しないよう十分な養育費を用意してあげるのは当然なのです。
しかし、この期に及んで夫は夫、妻は妻のことしか考えておらず、子供のことはそっちのけで養育費の金額が決まるという現実を私は目の当りにしてきました。
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目次
家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)
妻 : 新井玲子(34歳) → 専業主婦 ☆今回の相談者。
長女 : 新井日向(0歳) → 新井夫婦の娘。親権は妻が持つことで合意済。
相談内容
そんなふうに怒り心頭なのは今回の相談者・新井玲子さん(34歳)。
玲子さんは妊娠9か月目で短気な性格の夫に嫌気がさし、「里帰り」名目で実家に戻ったのですが、最初から離婚するつもりだったそう。
そして計画通り、離婚を切り出したのですが、養育費をめぐって折り合いがつかず。
これでは本末転倒ですが、なぜ、養育費の話し合いは長期化するのでしょうか?
3つの理由が考えられます。
養育費の話し合いが長期化する3つの理由
理由1:夫婦間の人間関係が破綻している
玲子さんは語気を強めますが、1つ目の話し合いが長期化する理由は夫婦間の人間関係が破綻しているからです。
結婚生活を継続できないほど両者の関係は悪化しており、互いに不信感や嫌悪感が募っているので、頭に血がのぼると、「子供のため」という視点が抜け落ちるのです。
残念ながら、夫は「1円でも減らしたい」、玲子さんは「1円でも増やしたい」という感情論に終始し、自分勝手な言動を繰り返し、時間ばかりが過ぎていったようです。
理由2:互いの利害が相反している
収入の枠内におさまるよう支出の可否や金額を調整するのは同居中の夫婦も離婚後の元夫婦も同じです。
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養育費をどのように決めていくのか
先に決めるべきは養育費なのか(養育費とその他の収入の合計の枠内で子供を育てる)それとも支出なのか(その他の収入から支出を差し引いた数字を養育費にする)で全く変わってきます。
玲子さんは夫に詰め寄ったのですが、夫は夫で
と言い返してきたそうです。
まるで水と油のように混じり合うことなく平行線をたどったのです。
特に夫の生活と妻子の生活は別々なので住居費や公共料金、食費などの支出は「同居中の夫婦 > 別居後の元夫婦」という点が厄介です。
そのため、子供のために使うことができる夫の余力は限られています。
夫は「無理な金額を押し付けられたらどうしよう」と慎重になり、互いの意見がかみ合わず、折り合いがつかず、話が止まってしまったようです。
玲子さんは悲しそうな顔をこちらに向けましたが、3つ目の話し合いが長期化する理由は目先の数字しか追っていないことです。
離婚に伴って発生するお金の支払は主に養育費、慰謝料、財産分与の3つですが、養育費だけ異色です。
慰謝料は結婚生活における精神的苦痛の対価を金銭で補償するもの、財産分与は結婚期間中に築いた財産を夫婦で分け合うものです。
慰謝料と財産分与の時間軸は「離婚時」です。
例えば、「毎月5万円 × 60回」という条件で慰謝料を支払うことを約束したり、500万円の財産のうち250万円を支払った上で離婚したり…。
現在の収入や財産、事情や状況をもとに決めれば良いので難易度は低いです。
将来の養育費を予想することは非常に難しい
しかし、養育費はどうでしょうか?
玲子さんの場合、娘さんはまだ0歳なのだから、高校を卒業するまで18年、成人するまで20年、大学を卒業するまで22年…先々のことを見通した上で養育費の金額、期間等を決めなければなりません。
将来的に何が起こるのかを予想するのは難易度が高いです。
玲子さんの希望額は毎月5万円で、「乳飲み子の娘を月5万円の養育費で育てていけるかどうか」しか考えていなかったようです。
私は諭したのですが、玲子さんは「今さえ良ければそれでいい」という感じで離婚1年目の金額しか目に入らなかったようです。
理由3:離婚後の人生設計を長期スパンで考えられていない
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一方で夫は「今の収入(手取額は月22万円)で5万円の養育費を払うことができるかどうか」しか眼中になかったよう。
夫の年齢を考えれば、社内昇進や定期昇給、残業代や歩合増、そして転職等で収入が増えることが見込まれるのですが、今月の給与明細しか見ずに「5万は無理! 4万なら何とか!」と言い出したのです。
そして玲子さんも一刻も早く離婚したい気持ちを抑えきれず、「毎月4万円 × 18歳まで」という条件で妥協したそうです。
統計上、母子家庭が受け取っている養育費の平均は毎月4万3,000円です。
なので(平成23年 全国母子世帯等調査より)なので一見、有利不利のない条件のように思えますが、現時点で月5万円が必要だから、将来的に月4万円の養育費では足りなくなることは目に見えています。
残念ながら、離婚するにあたり自分の頭のなかで人生設計を5年、10年、20年スパンで考えることができる人は少数派です。
長期的に数値化する工夫が必要
私が相談の現場で感じたのは、離婚の当事者は一様に「長期的に数値化する工夫」が欠けていることです。
そのため、私は今まで約2,500人以上の相談者に対し、離婚後のライフプランをシミュレーションし、「未来予想図」を提示してきました。
例えば、収入や支出はもちろん、子供の成長や希望の進路、将来の夢、非親権者の学歴や教育方針、親権者の就職可能性や収入の見込みなどを養育費の金額や期間に反映させることが大事です。
その結果、養育費の期間が10年なら10回、20年なら20回、養育費の年額を毎年のように変動させることで相談者は「将来、子供がどのように成長するのか」を手に取るように把握できます。
夫婦が離婚する上で、「子供の養育費」は大きな関門になる
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子供への愛情が養育費に影響するのは当然です。
だからこそ「自分のため」という意識が透けて見える相談者に「子供のため」という感覚を芽生えさせることが重要なのです。
相談者からそんなふうに感謝の声をもらうことも多いですが、夫婦が離婚する上で、「子供の養育費」は大きな関門として立ちふさがります。
話し合いの長期化を避け、互いに納得の上で金額、期間等を決めることができるように取り組んでください。(執筆者:露木 幸彦)