日立、過去最大のM&Aへ
日立製作所は2018年12月17日、電力関連・重電の世界大手、スイスのABBグループからパワーグリッド事業を約7,000億円で買収するとのリリースを発表しました。
各メディアでは、「日立として過去最大のM&A」などと報じており、注目度の高い案件です。
今回はこの案件を簡単に説明し、日立の経営にどのように影響するのかを考察したいと思います。

7,000億円も支払って日立は何が欲しいの?
今回の取引相手のスイス企業ABBは発電所向けに電力関連製品・サービスを提供したり、幅広い業界にロボットなどの自動化製品・サービスを提供したりしています。
今回日立が買収するのは、電力会社向けに制御・管理システムなどを販売するパワーグリッド事業です。
「大規模な電気の流れを管理するサービス事業」と覚えておくとわかりやすいでしょう。
日立はどうしてこの事業が欲しいのでしょうか?
それは「海外の顧客獲得」と「研究開発のスピードアップ」ができるからです。

海外の顧客獲得について
日立の現在の電力関連事業は、国内の顧客が9割です。
つまり、日本への依存が非常に強く、成熟市場なだけに事業の成長もあまり期待できない状況ということです。
それと比較してスイスABBのパワーグリッド事業の顧客は、先進国・新興国問わず世界に広く分散しています。
日立はこの顧客をまるごとゲットし、海外での成長性を取り込もうというわけです。
技術の融合について
日立は自分のデジタル技術と、ABBのパワーグリッド事業の技術を組み合わせることで、エネルギープラットフォームを構築すると公表しています。
研究開発を加速させ、よりよりサービスを開発したいわけです。
7,000億円って高いの? 安いの?

7,000億円という値段は安いように思えます。
日本はまだ遅いですが、世界では地熱・水力・風力・バイオマスといった再生可能エネルギーの開発が活況となっています。
パワーグリッド事業が提供する大規模電流管理サービスは、まさにこの分野に直結します。
日立が12月17日に発表した資料によると、
税引き後純利益はだいたい約650億円くらいでしょうか。
買収金額7,000億円をベースに算出されるPERは10~11倍。
東証1部企業の平均PERである13倍台より低い水準です。
市場の成長性が高い再生エネルギー業界に絡んだ事業にしては、安く取得できるように思えます。
加えて、日立にとっては「海外の顧客獲得」と「研究開発のスピードアップ」という、自社単体の業績成長の加速につながるうまみもあります。
企業のM&Aのリリースが出るとメディアなどでは「割高だ」などと批判されることも少なくないですが、今回の価格についてはそういった批判もさほど生まれないではないでしょうか。
今回のM&Aっていい話なの?

ここまで散々褒めておいて今さらですが、まだいい話といい切ることはできません。
なぜなら、世のM&Aの大半は買収した後の展開で失敗しているからです。
買収した後の業績の展開を見て初めて成功だったと判断できるということです。
現段階では、「かなり筋のよさそうな計画」でしかありません。
今後は、日立の計画通りに相乗効果が生まれて業績拡大につながっていくのか、期待を胸に決算情報を年単位で追いながら確認していきたいです。(執筆者:高橋 清志)