目次
米中貿易戦争の背景

昨年から米中貿易摩擦、ひいては米中の覇権争いの話題で持ち切りのようです。
この背景には、アメリカの対中貿易赤字が拡大を続けていることに一因があると思います。
なぜなら、アメリカの貿易赤字に占める対中貿易赤字の割合は70%以上にもなるからです。
それは、トランプ大統領でなくても、対中貿易戦争を仕掛けることで「貿易赤字を減らしたい!解消したい!」と考えるのも頷ける話というものです。
これを受けて、IMF(国際通貨基金)は、昨年10月の世界経済見通しで、「米中両国の2019年GDP成長率を前回予想より0.2%いずれも下方修正」しました。
この両国間のいざこざは、お互いの消費者や企業のマインドを悪化させ、経済を減速させ、結局の所、お互いの首をしめるのでは?といった思惑が働いているということでしょう。
このように、摩擦どころか、関税報復合戦、貿易「戦争」、ひいては「世界の覇権争い」が泥沼化していくことも十分考えられます。
しかしながら、トランプ大統領ひいてはアメリカとしては、貿易赤字を被っている相手に対して「当面一歩も引く気はない」といった姿勢で臨むものと思います。
メキシコに対しても
さらにアメリカの貿易赤字国第2位のメキシコに対してもかなりのプレッシャーかけているのをご存知でしょうか?
昨年夏、米国とメキシコ両国政府が北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに合意しました。

その合意内容は多岐にわたるものの、筆者が特に注目したいのは、「自動車関係の輸出入」についてです。
主な内容としては、
・自動車用部材の40%~45%は時給16米ドル以上の労働者によって作られたものを求めること。
などが規定されました。
メキシコの平均的賃金は時給16ドルもないので、事実上アメリカからの部品調達となる可能性が大きく、あえて極端に言うと、
と言っているようなものです。
メキシコにとってはかなりのプレッシャーを与えられたという感じです。
お次は日本の番?
それでは、アメリカの貿易赤字国第3位の国はどこでしょうか?
これが我が国日本なのです。

ということは、中国やメキシコ同様、何かしらのプレッシャーを仕掛けて来る可能性が大きいのではないでしょうか?
筆者はその【仕掛け】として、大きく2つの懸念を持っています。
1. 円高
一つは「円高」です。
昨年10月、ムニューシン米財務長官が日本との物品貿易協定に関連し、通貨安誘導を制限する「為替条項」の導入を日本に対して求める考えを表明しました。
トランプ大統領も
と、日本の為替政策を批判した経緯があります。
要は「日本は円安を誘導して輸出で儲けている…結果アメリカは赤字になっている」
よって「これからは円安に誘導するのはけしからん!」と言っているようなものです。
仮に日米通商協議で為替条項が織り込まれたとすると、現状の日銀の金融緩和策さえも「通貨安を誘発してるのでは?」といって問題視される可能性があります。
そうなったら、株式は暴落、為替も一気に円高になるのではないでしょうか?
2. 自動車業界への圧力
もう一つの【仕掛け】は「自動車業界への圧力」です。
一昨年の対米貿易黒字は約7兆円ですが、このうち自動車と自動車部品の黒字額は5兆3,657億円と貿易黒字額全体の76.7%も占めています。
これは、アメリカ側からみれば、日米貿易不均衡は「日本の自動車輸出が生み出している」と考えても致し方ない数字だと思います。
そこへトランプ大統領は、(ブラフなのかどうかは悩ましいですが)「日本車に25%の関税を課す!」と迫っているわけです。
現在、日本の自動車メーカーは年間約180万台の自動車をアメリカに輸出しています。
よって、ブラフではなくもし本当にそうなったら(重い関税をかけられたら)、日本の屋台骨とも言える自動車業界は大打撃を食らい、結果、日本の雇用と経済成長に大きな危機感を及ぼすでしょう。
このように大きく2つの懸念を抱いているのですが、中国やメキシコに対する現在のアメリカの動きをみると、これらの【仕掛け】も現実性を伴って来るのではないでしょうか?(執筆者:阿部 重利)