・ 結婚中の夫婦が離婚
・ 同棲中のパートナーが解消
・ 交際中の恋人同士が別れる
男女間に未成年の子がいる場合、女性が子を引き取って育てるなら、男性が女性に対して養育費を支払わなければなりませんが、家庭が1つなら計算方法は単純明快です。
家庭裁判所が公表している養育費算定表に互いの年収を当てはめ、機械的に算出します。
しかし、家庭が2つ、3つもあった場合はどうでしょうか? 腹違いの兄弟姉妹がいるという意味です。
男性(子の父親)は各家庭に対して責任を負っており、優劣をつけることは許されません。
離婚や再婚、隠し子など複雑な事情を抱えている場合、どのように養育費を決めれば良いのでしょうか?
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目次
相談実例をもとに話を進めましょう
相談者:大空七海さん(38歳)
七海さんは彼氏(横田健司氏、48歳)と交際していたのですが、七海さんは妊娠していることに気が付いたのは交際4か月目。
早速、七海さんは彼氏にそのことを伝え、当然のように結婚の話を切り出したのですが、彼氏の反応は七海さんの予想とは正反対でした。
妊娠して喜んでいる七海さんに向かって結婚を断るだけでなく、子どもをあきらめるよう言い出し、奈落の底に突き落とした彼氏はどのような人物なのでしょうか?
彼の人物像
30代の頃に会社(携帯電話の販売)を立ち上げた会社を経営しており、本人いわく昨年の役員報酬は1,500万円超。
いわゆるヤリ手社長なのですが、プライベートは充実しておらず過去に2回の離婚を経験をして、現在は独身です。
そのたびに妻へ多額の慰謝料(1回目は600万円、2回目は800万円)を支払い、手持ちの財産の大半は持ち逃げされた揚句、前々妻の子の養育費として毎月6万円、前妻の子の養育費として毎月8万円を今でも払っています。
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「また同じ目に遭うのではないか」と、これらの悪夢がトラウマになっており、七海さんとの結婚に二の足を踏んでいたのです。
全く話が進まず、進んでいくのは妊娠の日数だけ…
七海さんが私のところに相談しに来たのは、そんな絶体絶命の時期でした。
現在、七海さんのお腹のなかにいる子どもはどうでしょうか?
子供は父親、母親を自分で選ぶことができません。
それなのに両親の交際や妊娠、出産の経緯のせいで子供に不利益を被るのは理不尽すぎます。
結婚するという形で責任を取らせることが難しくても、父親は子に対して扶養義務を負っているので、彼氏は七海さんに対して子にかかるお金のうち、まとまった金額を毎月、支払わなければなりません。
複数の家庭(母親)にまたがって子が存在する場合、一例として家庭裁判所が公表している「新しい算定方式」(判例タイムズ1111号291頁)を用いて養育費を計算する方法があります。
具体的な算定方法
1. 算定方式における基礎年収(年収の0.4倍)を算出します。
2. 本人は100、子供は55とし、「今回の子 ÷ 本人 + 前々妻の子 + 前妻の子 + 今回の子」の係数を算出。彼氏の基礎年収に係数を掛けると「子供の生活費」になります。
3. 「子の生活費 × 彼氏の基礎年収 ÷ 彼氏の基礎年収 + 七海さんの基礎年収」が妥当な養育費の金額です。
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彼氏の年収が1,500万円、七海さんが400万円の場合、上記の算定方式に収入、家族構成を当てはめると養育費は毎月約7万9,000円です。
彼氏は自分の会社の顧問弁護士に今回の件を相談し、妥当な金額だというお墨付きを得たようで養育費の金額については異論を述べませんでした。
今回の場合、彼が今までの離婚歴をひた隠しにし、七海さんと付き合い始め、性交渉に及び、妊娠させたという同情すべき事情もあります。
交際や妊娠、出産の経緯について大の大人(子の父親、母親)に問題があるにせよ、子どもには何の罪もありません。
どんな形でこの世に生を享けたにせよ、彼氏は責任を果たさなければなりませんし、途中で養育費をあきらめず、最後までやり切ることが七海さんの責任といえるでしょう。(執筆者:露木 幸彦)