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300回近く高齢者施設を見学
私が初めて、高齢者施設の見学をしたのは2002年のこと。
見学先は日本ではなく、介護保険の取材で訪れたアメリカの高齢者施設(4か所)でした。
当時はまだ30代後半でしたが、高齢者施設での暮らしを目の当たりにして、
に興味を持ち、帰国後、日本の高齢者施設の見学を始めました。
以来、現在まで毎月1か所以上は高齢者施設を見学することを自分に課しています。
見学を始めてから17年がたった今、300回近く高齢者施設に足を運んでいると思います。
見学を重ねることで、高齢者施設に対する知識や情報が積み上げられていき、最近では
と頼まれる機会も増えています。

合わせて、「再住み替え」の資金プランを頼まれる機会が出てきています。
ここでいう再住み替えは、
のが目的です。
介護破産しそうな人に、共通するポイントとは

過去に、再住み替えプランを立ててきた方の住み替え理由(原因)は、「想定以上の長生き」でした。
合わせて、資金プランの見積もりの甘さも要因になっています。
住み替えた時点では、「あと数年程度」だと思っていた入居期間が、10年や15年などに「長引く」ケースはたくさんあります。
長生きの結果、手持ちの資金が底を突いてきて、
という状況に陥るわけです。
再住み替えについて、資金プランのご相談をする時間が残っている方はまだいいほうで、すでに施設への支払いができなくなって、困り果てている方もいます。
居続けることもできず、行き先もない。
こうした介護破産の現実を目にする機会が増えてきています。
介護破産しそうな人には、共通するポイントがあります。
今回挙げるポイントは2つ。
ポイント1:入居直前まで、施設の見学をした経験がない

一番避けたいのは、高齢者施設に入居する直前まで、施設の見学をした経験がないこと。
自分から進んで、高齢者施設の見学に行く親はかなり珍しいケースでしょうし、子ども側から誘われても嫌がる親のほうが多いとは思います。
「高齢者施設には住み替えたくない」とか「高齢者施設の費用は、自分の年金では払えないはず」などと言って、情報を得ようとしないのが平均的な親の姿かもしれません。
とはいえ、在宅介護では対応できずに、住み替えをせざるを得ない方がたくさんいるのも現実です。
ことです。
そこに「急いでいる」という事情が加わりますので、「自分の年金ではかなり赤字が出るな」と思っても、「なんとかなるだろう」とか「とりあえず」などと、慌てて住み替えるケースが後を絶たないのです。
親が要介護状態になった時、在宅介護にするのか、施設介護になるのかは、要介護状態になってから考えるご家庭も少なくありませんが、施設見学は親が元気なうちに行う必要があります。
高齢者施設の見学をきちんとしたうえで、「自分(親)は、どんなことをしても自宅で最期の時を迎える」と決めるのはかまわないと思っています。
きちんと見学をして情報を得たうえで、在宅介護と施設介護を天秤にかけ、在宅介護を選択するからです。
自分の意思で選択したら、多少の不便が生じても、納得感、あるいはあきらめ感が持てるはず。
いっぽう、
と思ったまま施設介護に移行するのはおすすめできません。
施設に入居した後、職員さんとうまくいかない方が少なくないからです。
たとえば職員さんに「ありがとう」といえる入居者と、いつも文句ばかり言っている入居者がいるとします。
職員さんたちも人間ですから、前者の入居者によくしたいと思うはず。
後者の入居者は、自分から住みにくく、居心地も悪くしています。
同じ月額費用を払うのであれば、職員さんたちに好かれる入居者になることが大切。
介護を受ける場所である前に、住まいでもあるからです。
そのためには、
なのです。
ポイント2:どういった介護を希望するのか、親から聞いていない

介護破産に陥りやすいケースの2つめのポイント。
「介護になった時にどうして欲しいか」を親から聞いていないこと。
など、介護を受ける人の気持ちを聞いていないケースでは、いざ、介護が発生するとバタバタと目の前の用事に追われがち。
介護認定や介護プランの作成などで疲弊してしまい、資金プランにまで気を配るのが難しくなります。
介護が発生すると「待ったなし」ですので、親が元気なうちに、「介護が必要になった時は、どうして欲しいのか」を聞き取ることが重要なのです。
親と意思の疎通ができていれば、いろいろな対策を講じられます。
たとえば、「家族信託」の仕組みを利用して、家を子どもの名義に変更しておくことも可能。
親が認知症になって高齢者施設に住み替えたあと、親の家(名義は子ども)を賃貸に出せます。
賃貸収入が得られれば、月額費用の不足分を補うことができるわけです。
いっぽう、親が認知症と診断されてしまうと、空き家になった親の家を賃貸に出そうとしても、難しいのが現実です。
資金プランでも行き詰まりやすくなります。
と考えてしまい、働きながら介護を続けていたり、中には介護離職をしてまで、介護を引き受けている方もいます。
親の介護を引き受けようとする気持ちは尊いものの、介護する側が体調を崩すのもよくあること。
親が亡くなった時点からは老後資金を貯められず、介護が終わったお子さんが生活保護で暮らすケースもあります。
子どもにこうした負担をかけることを、親側が望むとは思えません。
そのため、高齢の親がいる場合は、介護が必要になった時は、どのように介護を受けたいのかをきちんと確認する必要があります。
介護破産を避けるためには

1. 「聞き取り用ノート」を作成して、親が記入してくれるのを待つ
確認の方法として、無理に聞き出そうとするのは避けましょう。
うまく本音を引き出す前に、親が怒り出す可能性があるからです。
私は、質問ノートを作ってもらうようにアドバイスしています。
「高齢者施設へ住み替えることについて、絶対にいや?介護が重くなったら、住み替えも許容してくれる?」
「住み替えるとしたら、入居一時金はいくらくらいまで払えそう?」
「住み替えるとしたら、月額費用はいくらなら払えそう?」
など、聞きたいことを質問形式で書き並べ、親が答えを書くスペースも充分に取ったノートを渡すのです。
と伝えるのがよいと思います。
お金については、親に聞きにくいものですが、介護にかけられそうな金額を聞いておくことは必須。
親がいくら出せるのかがつかめていないと、子どもが月額費用の不足分を補う羽目になります。
その結果として、自分(子ども)自身の老後資金を取り崩しているご家庭も少なくありません。
それでは、親子共倒れになる可能もあるでしょう。
2. 特別養護老人ホームの待機人数など、地域の情報を集めておくこと
親がノートに書いた内容を見て、民間の介護付有料老人ホームなどへの住み替えが難しいとわかったら、周辺の特別養護老人ホームの待機人数を調べることをおすすめします。
特別養護老人ホームは、40万人以上の待機者がいるといわれていますが、実際に見学をしていると、地域格差を感じます。
1人で複数の特別養護老人ホームに申し込みをするのが一般的ですから、40万人が待機しているのではなく、実際の待機者数はその数分の1程度のはず。
また地域によっては、申請から2~3か月くらいで入居できそうなところもあります。
問題なのは、
こと。※ただし、制度改正前から継続した入居者は要介護1~2の人はいます。
親の介護度が2までのあいだは、どこで待機するかも課題になります。
自宅で待機するのが難しい方は、「介護型ケアハウス」を探すのもひとつの方法です。
ケアハウスについては、以前の記事でもご紹介していますが、60歳以上で、身の回りのことは自分でできる方が共同で暮らす住まいです。
介護型ケアハウスは、ケアハウスに住んでいる方が要介護状態になった場合に住み替えられるように併設されているところが多いですが、中には介護型ケアハウスを単独で運営しているところもあります。
介護型ケアハウスの月額費用は、施設や収入によって若干異なります。
特別養護老人ホームでは、満額(既定の金額)を払っている方より軽減措置の対象になっている方のほうが多いため、月額費用は介護型ケアハウスのほうが高くなりがちですが、介護付き有料老人ホームに比べれば抑えられるのが一般的。
要介護1や2の方でも住み替えられますので、特別養護老人ホームが空くまでの待機にも利用できます。
在宅で、永遠と待ち続ける必要はなくなります。
ただしケアハウスの情報は少なく、比較検討するのも難しいのが現実です。
ケアハウスについて知りたい場合は、居住地の自治体でケアハウスの一覧表を手に入れて(作成していない自治体があるかもしれませんが) 、費用や入居状況を調べることをおすすめします。
3. 「親子の仲がいい」ことも、介護破産を防ぐポイント
3つ目のポイントにするほどではありませんが、介護破産の可能性を下げるには、「親子の仲がいい」ことも重要です。
親子の仲がいいと、会話の機会が持ちやすくなるからです。
反対に仲が悪いと、介護が発生するまで、親の気持ちを確かめるのが難しくなります。
また子どもに手続きなどを頼みにくくなるため、手続きに第三者の手を借りるなど、費用面でもかさみがち。
安い施設を探すのにも、付き添いなどにお金がかかる可能性があります。
介護状態になっていないときに、介護になった時のことを考えるのは気が進まないものですが、健康なうちに介護になった場合の介護の受け方を親子で共有化しておきたいところ。
できれば親と一緒に施設見学に行き、親が持っている資金で住み替えられる先を見つけておくことも大切です。
これを実行しておけば、介護が発生した場合に資金的な無理をしにくく、介護破産も防ぎやすくなるはずです。(執筆者:畠中 雅子)