フリーランスの方や起業した方から
「利益が出るようになり、青色申告にした方がメリットがありそうだけれども、簿記の知識がないため必要な帳簿が作成できるか不安。だからと言って専門家に依頼するほどの事業規模には至っていない。」
というお悩みをお聞きすることがあります。
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こんなジレンマの中、「青色申告にすべきか否か迷っている」という方はいると思います。
そこで「青色申告にする自信がない」という方に、安心して白色申告を卒業していただける情報をお届けしたいと思います。
目次
1. 青色申告にするメリット、節税効果はどの程度あるの?

青色申告には様々な特典がありますが、その一つに所得金額から最大65万円を控除できる「青色申告特別控除」があります。
例えば、売上が300万円、必要経費が100万円であった場合、白色申告と青色申告による所得金額は下記のように異なります。
【青色申告】 売上300-必要経費100-青色申告特別控除65万円=135万円
このように利益が出ている場合は、青色申告にすることで課税所得を65万円減らせます。
節税額は、これに税率を乗じて求めますので、上記の場合は所得税と住民税合わせて約9万8,000円、支払う税金を少なくできます。
住民税の減税額:特別控除65万円×10%=6万5,000円
合計:約9万8,000円
です。
「専門家に記帳を依頼するか、会計ソフトを導入するか」と検討される際には、節税効果と記帳費用や労力を天秤にかけるのも一案です。
尚、所得税の税率は課税所得により5%~45%です。(※所得税の税率表はこちら)
また、青色申告特別控除を受けることによる減税額は、特別控除前の税額が上限です。
青色申告には、他にも次のような特典があります。
・損失が出た場合は翌年以降3年間、損失を繰り越せる
・1組30万円までの減価償却資産を一括償却できる(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)
などです。
2. 青色申告にするデメリット、記帳作業はどの程度大変なの?
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白色申告の帳簿は家計簿のようなつけ方でも良かったのですが、65万円の青色申告特別控除を受けるためには、「正規の簿記の原則」に従って取引を記帳する必要があります。
また、確定申告の際には「貸借対照表」および「損益計算書」を確定申告書に添付する必要があります。
簡単に言うと、白色申告に比べて、記帳方法が複雑になり、決算書類が増えます。
記帳方法の違い
2つの取引を例に、白色申告と青色申告の記帳項目の違いを紹介します。
a) 3月1日にコピー用紙1万800円を現金で支払った
白色申告の場合 簡易帳簿の要領で「日付」、「勘定科目」、「金額」、「適用」の4項目を記帳します。
しかし、青色申告の場合は、これに加えて、「現金で支払った」ということも記帳する必要があります。
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b) 12月20日にサービスを提供し、翌年1月15日に代金が預金口座に入金された場合
白色申告の場合、着金した1月15日に一度記帳します。
しかし、青色申告の場合はサービスを提供した12月20日に「売上」と「売掛金」という代金を受け取る権利が発生した事を記帳し、着金した1月15日に「預金」が増え、「売掛金」という債権が消滅したことを記帳する必要があります。
簿記を学んだ事がない方には、イメージしづらいと思いますが、とにかく白色申告に比べてややこしくなります。
簿記会計の知識がなくても帳簿はつけられる?
このように記帳方法を知ると益々不安に思われたかもしれませんが、会計ソフトを活用すれば、家計簿感覚で入力することができ、必要な帳簿類もソフトが作成してくれます。
入力作業における不明な点はチャットや電話で質問できるサービスを提供しているところもありますので、簿記会計の知識がなくても会計ソフトを活用して青色申告をしている方も多くいらっしゃいます。
数か月お試し利用ができて、年間1万円前後で利用できる会計ソフトもあります。
3.口ほどにもなく帳簿がつけられなかったら
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「でも、会計ソフトを使いこなせなかったらどうしよう…」と、まだ不安が消えないかもしれません。
無理もありません、やったことがないのですから。
でも、ご安心ください。
白色と同じ簡易帳簿で、青色申告を行うこともできます。
この場合、65万円の特別控除を受けることはできませんが、10万円の特別控除を受けることができます。
青色申告には65万円の控除と10万円の控除の2種類があり、白色申告と記帳方法や決算書の違いは下表のようになります。
特別控除10万円の場合、帳簿は白色申告と同じ簡易帳簿でよく、「貸借対照表」を作成する必要もありません。
確定申告書に添付する「損益計算書」は白色申告の「収支内訳書」同様、売上と必要経費の明細を記載し所得を計算する書類で、記載内容もほぼ同じです。
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収支内訳書が作成できれば、損益計算書も作成できます。
10万円の青色申告特別控除は、「手間は白色、特典は青色」という良いとこ取りの申告方法と言えます。
「青色申告承認申請書」を提出しておけば、確定申告をする際に65万円の控除を受けるか、10万円の控除を受けるか選択できます。
「青色申告にしたら必ず複式簿記で記帳しなければならない」と気負わなくても大丈夫です。
とりあえず青色申告の申請をして、「口ほどにもなく帳簿がつけられなかった」という場合は、10万円の控除を選択すれば問題ありません。
既に事業を開始している方で、今年から青色申告者となるためには、3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
尚、前々年度の所得が300万以下の方は「青色申告承認申請書(兼)現金主義の所得計算による旨の届出書」を提出すれば現金主義による記帳を行えます。
青色申告に対する心理的なハードルは下がったでしょうか?
青色申告特別控除が10万円になっても、課税されている方であれば最低1万5,000円の減税額です。
会計ソフトが1万円前後なら失うものはありませんので、勉強のつもりでトライされてはいかがでしょうか?(執筆者:小谷 晴美)