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同居親族間の暴力
例えば、育児ノイローゼの母親が幼子を折檻する、不良息子が口うるさい父親に殴りかかる…
そんな悲惨な暴力事件が日々報道されますが、意外と表に出てこないのは「成人した子どもが加害者」、「年老いた親が被害者」のケースです。
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実際のところ、高齢者の虐待被害の通報は8年で約3割も増えているのですが、(平成18年は1万8,390件、平成26年は2万5,731件。厚生労働省の高齢者虐待対応状況調査)この数字は被害者の家族が市町村の窓口へ相談した件数です。
もし、加害者が「親と同居し介護している子ども」だとしたら、わざわざ加害者が通報してくるのは少数派です。
ここには「同居も介護もしていない家族からの相談」は含まれていませんが、今回の相談者も姉の両親に対する虐待に悩む1人です。
親の介護をめぐって勃発した虐待
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今回は親の介護をめぐって勃発した「姉(女)VS 弟(男)」の構図です。
親戚会議の末、「両親のことを姉に任せる」と決めたのに、途中で横やりを入れて、姉と両親の関係にヒビが入るのは避けたい…
相談者は静観を続けていたのですが、そんな矢先、お父さんが亡くなってしまい、相続で揉めに揉めました。
姉のお母さんに対する虐待をやめさせたい。
そんな一心で相談者は私のところへ来ました。
姉を母親から引き離すには
本人:勝田隼太(44歳。会社員)☆相談者
姉:勝田智子(48歳。家事手伝い)
姉の娘:勝田美和(28歳。フリーター)
父:勝田昭(78歳で逝去)
母:勝田美智子(77歳。年金暮らし)
隼太さんの希望はただ一つ。
ですが、まだ遺産相続すら片付いていない状況で、どのように実現すれば良いのでしょうか?
一度は母を姉に任せることに決めた
そんなふうに当時の心境を話しました。
姉は21歳で夫と離婚し、2歳の娘を連れて実家へ戻ってきました。
それから現在まで実家で父、母と一緒に暮らしていたのですが、父の逝去をきっかけに隼太さんは姉に
と提案したそう。
しかし、姉は
と言って聞かなかったので、隼太さんも「そこまで言うなら」と、1度は母のことを姉に任せることに決めたのです。
遺言書で状況は一変
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しかし、遺言の存在で状況は一変します。
ちょうどその頃、母が隼太さんに遺言の存在を耳打ちしてきたのです。
生前の父は「何かあったときに」と言い、母に遺言を託したそうで四十九日法要が終わり、家族が落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって遺言を渡してくれたそうです。
そして家庭裁判所での3週間の検認を経て、ようやく遺言を開封したのですが、家族会議で決まったこととは全く逆の内容が書かれていたのです。
隼太さんは姉と両親は仲良くやっていると思っていました。
しかし、母いわく姉とその娘は
「汚いから近寄らないでよ!」
「もう!早く死ねばいいのに!」
と暴言を吐くだけでなく、姉は歩行器を使ってゆっくりと歩く父を両手で突き飛ばし、父が廊下の床に顔から倒れ、全身がアザだらけになったそうです。
姉を実家から追い出し、母を救い出すことに
遺言執行人に指定された隼太さんはどのような決断をしたのでしょうか?
何も知らなかったとはいえ、1度は承諾した内容を撤回したら、姉との間に波風が立つでしょうし、過去の悪事の口止めしたいがために、母の世話を買って出たため、説得するのは容易ではありません。
暴言や暴力の矛先はあくまで父であり、今後、母が同じ目に遭うかどうかは分かりません。
姉に任せるという選択肢もありましたが、隼太さんは父の遺志を尊重し、姉を実家から追い出し、母を救い出すことを決めました。
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1. 土地 780万円
2. 家屋 560万円
3. 預貯金 230万円
姉は直系尊属なので遺留分(どんな遺言を作成しても残る相続分)が認められており、今回の場合、遺産全体の8分の1(196万円)です。
隼太さんは
「警察署に被害届を提出することも検討しないといけないけれど…」
と必死に訴えたのですが、姉はなかなか首を縦に振りませんでした。
そこで、相続手続が完了する前でも無権利者(姉)が不動産に居住し続けるには、被相続人(父)が生前に「逝去後も住み続けてもいい」と認めていた場合に限られますが、父は
と言っていたので、姉には今すぐに退去しなければならないこと(平成8年12月17日、最高裁判決)を言い添えたのです。
姉はこれ以上、実家に居座れないと観念したのか、遺留分の支払を条件に退去することを約束してくれたそうです。
こうして隼太さんが親族間の世間体にとらわれず、「美智子(母)のことを頼む」という父の遺志を叶えるため、あきらめずに行動を起こした結果、遺言通りの遺産相続(母5割、長男5割)を実現できました。
誰に遺言を任せるのかが極めて重要
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自分がこの世を去った後、残された遺族に負担をかけたくない、相続で揉めて欲しくない、葬儀を円滑に進めて欲しい。
余命が差し迫れば誰しも心配事は絶えません。
だからこそ「遺言」という形で生前の気持ちを残そうとします。
しかし、最後まで遺言の行末を見届けたくても、本人はすでに亡くなっています。
そのため、遺言の運用は執行人(相続を取りしきる人)に託すしかありません。
ところが最近は、生前の人間関係が災いして、故人の遺志が尊重しない遺族が増えている印象です。
遺言のなかで特に遺産分割は誰かが得をすれば、その分、誰かが損をします。
遺言の通りに遺産分割を行うのは執行人の責任ですが、もし、相続人の一部が反対したら、どうなるのでしょうか?
執行人と反対者の力関係が影響する
例えば、執行人が反対者より立場が悪かったり、気が弱かったり、声が小さかったりした場合、反対者に押し切られ、遺言の内容が捻じ曲げられ、故人が望まざる結果に至ることが少なくありません。
そのため、執行人の存在は極めて重要です。
もちろん、1番に大事なのは「どのような遺言を残すのか」ですが、2番目に大事なのは「誰に遺言を任せるのか」です。
相続時に反対者が現れることを想定し毅然として態度で遺産協議に臨めるような人に任せなければなりません。
執行人として適任かどうかの「身体検査」も抜かりなく行ってください。(執筆者:露木 幸彦)