日本の資本市場において、日銀の存在感が大きくなってきています。
「デフレからの脱却」という旗の下、物価目標2%達成に縛られた日銀は、株価を押し上げることで物価を上昇させることを目的に、金融緩和政策の一環として、国債買い入れに加え、世界でも例を見ないETF直接購入に踏み切りました。
とにかく景気の下支えを最優先に、なんとしても株価を押し上げたいという思いで、日本市場場中で株価が下落したら、後場に日銀によるETF買い出動が繰り返されてきました。
投資家も、前場株価急落となれば、後場での日銀の買いを期待して、あえて逆張りで買う動き「日銀プレー」が見られました。
2015年からはETF買い付け額を増やし、いまや年間6兆円ものETFを買っています。
2015年は年間3兆円だったが、2016年8月からは現在の年間6兆円ペースでの買い取りをしています。
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日経新聞の記事によれば、日銀の保有残高(時価ベース)は3月末時点で28兆円強となり、東証1部の時価総額の4.7%に相当、さらに、日銀が同じペースで買い続けると仮定すると、20年11月末には約40兆円に増えます。
現在6%超を保有すると見られ、最大の株主である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を上回る計算になります。
ETFは東京証券取引所に上場している銘柄で構成されていますので、ETFを購入することで、それぞれの構成銘柄(企業)の株主になることになり、この結果、日銀が上場企業の5割で大株主となります。
日経新聞記事によれば、日銀が筆頭株主になっている企業上位10社は
ファナック(同12.7%)
オムロン(同12.5%)
日本ハム(同12.2%)
宝HD(同11.7%)
東海カーボン(同11.0%)
安川電機(同10.3%)
サッポロHD(同8.0%)
ユニチカ(同6.7%)
京王電鉄(同6.3%)
いずれも今年3月末時点の時価ベースですが、これ以外にも上位10位以内の株主(「大株主」と呼ばれます)基準では3月末時点で、上場企業の49.7%と半数で日銀が大株主となっています。
通常、赤字経営とかキャッシュフローが悪いとか、悪材料の銘柄は買わないというのが「普通」の株式投資ですが、日銀の場合、個別銘柄選択ではなくETFを購入しているので、ETF構成銘柄であれば、赤字だろうが何だろうが関係なく購入します。
それゆえ、通常の「悪い企業は株価が下がる」という現象が起こりづらくなっているのが、正常な株式市場という観点からは「異常」と言えます。
日経新聞は、東証1部では過去10年間で5回以上赤字を計上した企業は計54社にのぼり、新日本科学など赤字の回数が8回に達した企業も存在することを指摘しています。
イメージとしてはETFは東証一部の企業を、ゴソっとザルですくう感じです。
すくったものを、購入者が細かく選別しているわけではなく、ただ単に株価指数が上がればよいという感じです。
これが後々、日本市場にとっては「恐ろしい」ことになりそうだと思っています。
目次
外国人投資家が売れば日銀が買い支える
2018年、外国人は5兆7,488億円売り越しています。
これに対して日銀は6兆5,040億円買い越しています。
銀行や生保、個人も売っていますが、それを買い戻しているのはおそらく年金(給与所得者の将来の厚生年金等)だと思われます。
2017年は個人が5兆7,934億円と大きく売りこしているのに対し、日銀が5兆9,033億円買い越しています。
どう見ても、株価を下支えするために、誰であれ市場で売られた分を日銀が買い戻すことで、株価をなんとか維持させているという構図となっています。
いまの日本市場における数字は、実は実勢価ではなく、実体をともなわない虚構ではないかとも言いたくなります。
現在日経平均株価が2万2,000円強をつけていますが、いろんな説があり実際の数字は分かりません。
日銀や年金が買い支えなければ1万2,000~1万3,000円ぐらいではないかという意見もあるようです。
もちろん1万2,000~1万3,000円という数字は極端かもしれません。
外国人が日本市場を買い支えているところもあり、日銀要素がどれだけいまの株価に反映しているのかはわからない部分も多く、株価への影響は限定的という意見もあります。
ただ、日銀がETF買いをやめるというアナウンスが出れば、投資家心理に大きな影響を及ぼすことは確かで、そのときの株価状況や経済状況では、大きく株価が下落することも考えられるのではないでしょうか。
このまま日銀が永遠にETFを買い続けることができるとは到底思えず、もし日銀がETF購入をやめたとしたら、日本の株価は一体どうなるのでしょう。
今投資家の間ではやっている、前場急落の後場買いという「日銀プレー」はどうなるのでしょう。
今後株価が下がれば大変なことに
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株安局面に転じて日銀の自己資本が毀損する事態になれば、通貨の信認も揺らぎかねません。
日銀の雨宮正佳副総裁は3月に国会で「日経平均株価が1万8,000円程度を下回ると保有ETFの時価が簿価を下回る」との試算を示したそうです。
日経平均株価1万8,000円以下、いまが2万2,000円強ですからあと4,000円強の幅、これを余裕と見るのか危険と見るのか。
いずれにしても、将来の景気後退局面などで含み損が発生する可能性はゼロではありません。
満期を迎えると償還する国債や社債と違い、ETFには満期がありません。
残高を減らすために、もし市場に売却するなら、株価の下落を招かないように長い時間をかけて慎重に売却していくのでしょうか。
それともそのまま「塩漬け」にしておくのでしょうか。
今は普通の状態ではありません
企業に新株を発行させ、日銀は証券会社経由で企業に発行数の株を引き渡す、企業は資金調達ができない、単に株数を増やすだけにある。
これならマーケットの日銀保有株が流出しない、マーケット下落にはつながらないというスキームを聞いたことがありますが、果たしてどうなのでしょう。
とにかく、いまの日本市場は異常というか、すくなくとも「ノーマル」な状態ではないということです。それだけはよく理解しておきましょう。
いずれ海外勢による評価が下ることになります。(執筆者:原 彰宏)