目次
年金分割
離婚をする際や、事実婚(内縁)を解消する際の年金分割は、次のような2種類に分かれております。

(1) 合意分割
2007年4月以降に離婚が成立した場合に、婚姻期間に関する厚生年金保険の保険料納付記録を、これが多い方(例えば夫)から少ない方(例えば妻)に、50%を上限にして分割する制度です。
このようにして保険料納付記録が分割されると、夫が納付した厚生年金保険の保険料の一部を、妻が納付したという取り扱いに変わるため、妻が受給できる老齢厚生年金が増えるのです。
(2) 3号分割
2008年5月以降に離婚した場合に、2008年4月以降の婚姻期間に関する厚生年金保険の保険料納付記録を、国民年金の第2号被保険者(例えば会社員の夫)から、国民年金の第3号被保険者(例えば専業主婦の妻)に、50%分割する制度です。
こちらは合意分割と違って、妻が請求すれば自動的に分割されるため、話し合いをする必要はありません。
また合意分割は50%を上限にして、分割割合を話し合いで決めるのですが、3号分割は50%という定まった割合で分割されます。
2種類の制度が併存状態
2008年4月以降については、合意分割と3号分割という2種類の制度が、併存している状態です。
そのため少し複雑になっているのですが、妻も厚生年金保険に加入する共働きの夫婦は合意分割、また妻が専業主婦で夫の扶養に入っている夫婦は3号分割を、利用する場合が多いと思います。
50歳以上は離婚前でも、分割後の年金見込額を調べられる
1990年に入った辺りから2002年まで、離婚件数は右肩上がりに増加していったのですが、2003年からは右肩下がりの減少に転じております。
ただ2004年の法改正で年金分割が導入されたため、2007年からは再び上昇に転じると、ある専門家の方が予想しておりました。
この方が予想したように2007年辺りは、離婚件数が少しだけ上昇しましたが、わずか数年で右肩下がりの減少に戻ったのです。
考えられる理由
年金分割の制度が導入されてから数年後に、分割した後に増えた年金額の平均は、月額で3万円程度というデータが発表されました。
このように期待していたより年金額は増えず、年金分割を受けただけでは十分に生活できないというのが、右肩下がりの減少に戻った理由のひとつではないかと思います。
なお50歳以上の方は、「年金分割のための情報提供請求書」という書類の中の、「年金見込額照会を希望します」の部分を◯で囲んで、書類を年金事務所に提出すると、離婚前でも年金分割を行った場合の年金見込額を試算してもらえます。
こういったものを離婚する前に入手しておくと、離婚した後に生活していけるのか、また老後資金をいくら準備すれば良いのかなどが、わかるのではないかと思うのです。

卒婚は同居でも実施できるが、別居のイメージが強い
2004年に「卒婚のススメ」(著:杉山由美子)という本が出版され、また有名な人がこれを実施していることが、テレビのワイドショーなどで取り上げられ、卒婚という言葉がすっかり定着しました。
法改正で2004年に年金分割が導入されたのに、離婚件数が右肩下がりの減少を続けているのは、卒婚の普及と多少は関係があるのかもしれません。
この卒婚とは結婚という形態を維持しながらも、互いに干渉せず、それぞれが自分の人生を、自由に楽しむ夫婦関係を示しているようです。
そのため夫婦が同居している状態でも、卒婚を実施できるのですが、有名な芸能人の夫婦は別居を選択しているため、卒婚は別居して生活するイメージが強いような気がします。
加給年金や遺族年金を受給するには、生計維持関係が重要になる
卒婚以外でも、例えば家族の介護、業務命令による転勤、病気やケガの療養のために、別居している夫婦がおります。
これらはすべて離婚の予定がない別居になりますが、社会保険の保険給付を受給するうえで、何か問題があるのでしょうか?
例えば厚生年金保険の加入期間が通算して20年以上ある夫が、65歳に到達した時に、その方によって生計を維持されている65歳未満の妻がいる場合、老齢厚生年金に「加給年金」が加算されます。
また公的年金(国民年金、厚生年金保険など)の加入者、または加入者であった夫が亡くなった場合、その方によって生計を維持されていた妻に、「遺族年金」(遺族基礎年金、遺族厚生年金など)が支給されます。
それぞれの年金ごとに細かな支給要件があるため、それらを満たさないと支給されないのですが、もっとも重要な支給要件は、「生計を維持されている(されていた)」という生計維持関係です。
この生計維持関係がある(あった)と認められるためには、次のような2つの要件を満たす必要があります。
2. 妻の前年の収入が850万円未満であること
夫婦が同居している時は、どちらの要件も満たせる場合が多いのですが、
夫婦が卒婚などにより、離婚の予定がない別居をしている時は、(1) の要件を満たせない場合が出てきます。
別居中に経済的な援助をするなら、証拠が残る手段を選択する
夫婦が離婚の予定がない別居をしている場合でも、夫から妻に対して生活費や療養費などの経済的な援助があり、また定期的な連絡や訪問が行われていた時は、(1) の要件を満たせる可能性が出てきます。
ただ経済的な援助があったとしても、例えば夫が妻の家を訪れた時に、生活費や療養費として現金を手渡ししていた場合には、年金事務所が事実関係を確認する証拠が残りません。
そのため経済的な援助をするなら振り込みにして、通帳などに証拠を残しておいた方が良いです。
また(1) の要件を満たしていることを証明するため、「生計同一関係に関する申立書」という書類を年金事務所に提出するのですが、この中には「第三者による証明欄」があります。

そのためこの欄に証明を書いてくれる、民法上の三親等内の親族以外の方を、早めに探しておいた方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)