働いて給料をもらえるだけの十分な収入がある高齢者には、厚生年金の支給額を抑制する制度が在職老齢年金制度です。
ただ生涯でもらえる年金額が純減となるため、就労調整が起きるという問題点も指摘されています。
雇用契約でなく請負契約にして厚生年金に加入しなければ、在職老齢年金による減額は起きません。ただ長期的に見ると、この方法には注意点もあります。

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在職老齢年金は厚生年金加入者に適用される
在職老齢年金制度は65歳を境に基準が変わるのですが、簡単に言えば給与と年金の月額合計が65歳以上では47万円、65歳未満では28万円を超えると減額されます。(47万円の支給停止調整額は、毎年微調整されます)。
なお給与の発生原因となる雇用契約が厚生年金の加入要件を満たしている場合は、在職老齢年金制度により減額(支給停止)が起きえますが、そうでない場合は減額されません。
雇用契約でなく請負契約で年金減額を防ぐ
勤務先と雇用契約でなく、請負契約や業務委託契約という形を結ぶことで、在職老齢年金制度による支給停止を逃れるという方法が一部で推奨されています。
請負契約を結ぶ場合の注意点
単に形式上請負契約にしているということであれば脱法性を帯び、支給停止になるはずの年金額を不正に受給していると見られかねません。
成果に応じて報酬が払われ、かつ(雇用契約のような)指揮命令系統に無いような場合でも、下記のような制度の動きには注意しておく必要があります。

在職老齢年金制度自体が廃止の動き
政府の一部に、在職老齢年金制度を廃止しようという動きがみられ報道されています。
生産年齢人口の減少に伴う労働力不足を補うため、高齢者の活用が課題になっていますが、在職老齢年金が就労調整の原因と見られているからです。
インボイス導入による消費税の納税義務発生
高齢者に限らず、請負契約や業務委託契約を結んでいる個人事業主が今後意識すべき話は、消費税の問題です。
個人事業主の報酬の多くは消費税の課税取引であり、通常は本体価格と消費税を意識して価格設定します。
事業者が顧客から預かった消費税は丸々納付するのではなく、課税取引の経費にかかった消費税を「仕入税額控除」として差し引いて納付します(簡易課税適用業者は、預かった消費税の一定割合を控除して納付)。
令和5年(2023年)10月にインボイス制度が導入されると、取引先の都合でインボイスが発行されない経費は例え領収書があっても、「適格請求書等保存方式」に該当しないものとして仕入税額控除が認められなくなります。
課税売上高1,000万円以下の事業者は消費税の免税事業者になれますが、インボイスは発行できません。このため取引先等の要請により、多くの個人事業者が課税事業者を選択することが見込まれています。
本題に戻ると、雇用契約から請負契約に切り替えた際に消費税の課税事業者になることを要求される可能性も十分あり、この場合資金繰りに注意する必要があります。
消費税は、事業者の滞納が多いことで問題になっている税目でもあります。
年金減額を抑えられたとしても消費税を納税することで、結局損にならないかも考慮しておく必要があります。
まして在職老齢年金制度が廃止されるのであれば、消費税納税分を丸々損してしまいます。
消費税に関しては令和元年10月の10%増税を延期する観測もあり、実際に延期する場合はインボイス制度の導入も後ずれする可能性はあります。
ただ各制度がどの時期に変化するかを問わず、制度の変化に合わせて雇用/請負契約をコロコロ変えるようなやり方は、脱法性を帯びてくるので避けるべきです。(執筆者:AFP、2級FP技能士 石谷 彰彦)