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新元号施行まもなく、突如広まった「年金破たん説」
令和元年5月下旬、突然、YouTubeに「公的年金が破たんした」といった趣旨の動画が続々とアッブされるようになりました。
発信元をたどっていくと、朝日新聞デジタルの5月23日付の『人生100年時代の蓄えは? 年代別心構え、国が指針案』というタイトルの記事だとわかりました。
そして、1次情報は5月22日に金融庁が公表したレポートでした。
金融審議会市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案)です。
どうやら、「公的年金が破たんした」と叫んでいる人たちは、上記朝日新聞記事中にある「政府が年金などの公助の限界を認め、国民の”自助”を呼びかける内容になっている」というくだりに反応したようです。
少なくとも私には、朝日新聞の記事も金融庁が公表したレポートも、現実をふまえた冷静な議論であると感じられたのですが。
「公助の限界」があることは事実

上記の朝日新聞記事にあるくだりに過剰に反応する人は、「公助に限界があってはいけない」という意見なのでしょう。
確かに、高齢者の大多数が「ほぼ公的年金だけで生活できた時代」がありました。
しかし、それはむしろ、いくつかの条件が積み重なった例外的な期間でした。
年金受給者である高齢者の絶対数が増え続け、年金保険料を負担する現役世代が減り続ける事実だけを考えても、そういった幸運な時間が継続しないことは明らかです。
公助の仕組みには限界があります。
理想を抱くのは良いですが、固執していては現実的な対応はできません。
老後赤字への対策にもふれた金融庁のレポート
金融庁が公表した上記レポートも、しっかり現実をふまえた内容となっています。
老後に不安を持つ人は、もれなく目を通しておくべきです。
レポートのポイントは、高齢者の家計が、現状ですでに月あたり約5万円の赤字である事実を認めているところです。
この事実をふまえて、赤字をいかに埋めるかの提言が記されています。
「資産寿命」というキーワードを使いながら、貯蓄と資産運用にまつわる具体的なノウハウにまで言及されています。
ただ、「失われた数十年」と呼ばれる経済状況が続く中、毎年のように減り続ける給与の手取り額で、レポートに記載された手段が選択可能であるか、という点については議論の余地がありそうです。

まずは現状を冷静に見定めることが大切
以上をふまえつつ、なぜ「年金破たん説」という結論になるのか理解に苦しむところです。
極論を唱えたい人は、やはり「公的年金だけで暮らせない」という現実が受け入れ難いのかもしれません。
金融庁のレポートにある「月あたり約5万円の赤字」という事実も許せないに違いありません。
しかし、公的年金が実際に破たんしたのでは、月ごとの赤字幅は「約5万円」なんかでは、とてもおさまらないことを冷静に考えるべきです。(執筆者:金子 幸嗣)