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忘れてはいけない「年金問題」
元号が平成から令和に変わるタイミングで、平成にあった出来事を振り返るテレビ番組が、よく放送されておりました。
平成に発生した年金に関する出来事で、もっとも印象に残っているのは、「宙に浮いた年金記録問題」になります。
これは誰のものかわからない身元不明の年金記録が、社会保険庁(現:日本年金機構)のコンピューターの中に、5,095万件も存在していたという問題です。
民主党の長妻昭議員の追及で平成19年2月に発覚し、同年7月に行われた参議院選挙の争点になりました。
この選挙で与党は過半数割れの惨敗になり、のちに民主党政権が誕生しますので、宙に浮いた年金記録問題は政権交代の、きっかけを作ったと言われております。
最近はこの話をまったく聞かないので、もう大部分は解決したと思っておりました。
解決したのは約半分だけ

最後の記録解明としていた、平成22年から平成25年の集中作業期間が終わった後に発表された報告書によると、5,095万件のうち解明できたのは2,983万件、解明できなかったのは2,112万件だったため、約4割は身元不明なままです。
歴代の政権は最後の1件まで調べると宣言して、多額の予算を投じてきましたが、十分な成果を出せないうちに、平成は終わりを迎えました。
浮いた年金の原因1:複数の番号による管理
平成9年に基礎年金番号が導入されるまで、年金制度ごとに異なる記号番号が発行され、それで年金記録を管理してきました。
・ 会社員の時は厚生年金保険、独立して自営業者になってからは、国民年金に加入したという方
こういう方は、2つの記号番号を持っていました。
また記号番号ごとに年金手帳が発行されていたので、こういった方は各制度の年金手帳を、1冊ずつ持っていました。
・ 転職経験がある方
会社の手続きミスなどにより、厚生年金保険だけで2つ以上の記号番号と年金手帳を、持っていたというケースもあったのです。
浮いた年金の原因2:人為的ミス
複数の番号がある状態だと年金の請求手続きが行われた際に、制度や記号番号ごとに照会が必要になり、調査のために時間がかかります。
そこで複数の記号番号を基礎年金番号に統合し、ひとつの番号で年金記録を管理することになりました。
ところが統合作業を進めていくと、厚生年金保険に加入する時の資格取得届に、会社が間違った氏名や生年月日を記入していたため、統合できない記号番号がありました。
また社会保険庁の職員が、手書き原簿からコンピューターに入力する際に、間違った氏名や生年月日などを入力したり、入力するのを忘れたりしている場合がありました。
こうった人為的なミスが重なって、5,095万件もの宙に浮いた年金記録が発生しました。
年金手帳に記入するというアドバイスは、過去のものになりつつある
私が年金の勉強を始めたのは、宙に浮いた年金記録問題が話題になる前の、平成15年くらいだったと思います。
この頃に読んだ年金の本の中には、
というアドバイスが記載されておりました。
その理由として年金手帳に記入しておけば、過去の記憶が曖昧になったとしても、年金記録の中に間違いがあるのかを調べられるからです。
またこの本の中には、
というアドバイスも記載されていました。
その理由として厚生年金基金は請求忘れが多く、また厚生年金基金に対して年金などを請求する時に、基金加入員証が必要になるからです。
私はこの2つのアドバイスを実施していたため、宙に浮いた年金記録問題が話題になった時に、不安を感じないで済みました。
「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」

現在は毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」や、もっと最新の情報がわかる「ねんきんネット」があるため、記憶が曖昧になる前に、年金記録の中に間違いがあるのかを調べられます。
これに加えて平成以前に発行された年金手帳には令和の表記がなく、被保険者になった日となくなった日を記入しづらくなったため、年金手帳に記入しておくというアドバイスは、過去のものになりつつあります。
また厚生年金基金はいずれ廃止される可能性が高いので、基金加入員証を年金手帳に張り付けておくというアドバイスは、令和の時代には必要なくなるのかもしれません。
なお厚生年金基金に短期間だけ加入していた記憶があるけれども、基金加入員証などが残っていないという方は、企業年金連合会のウェブサイトが参考になると思います。
基礎年金番号とマイナンバーの紐づけで、年金手帳の役割が終わる
ねんきん定期便やねんきんネットの登場により、年金記録の中に間違いがあるのかを調べる時に、参考資料として役に立つという年金手帳の優れた点は、以前より重要でなくなりました。
しかし、年金手帳にはもうひとつの優れた点があります。
それは例えば自分や、勤務先の社会保険事務の担当者が、公的年金に関する書類に基礎年金番号を記入する時に、年金手帳が手元にあれば、間違いなく記入できるというものです。
ただ平成の終わり頃から、基礎年金番号とマイナンバーの紐づけが始まったため、マイナンバーを記入すれば、基礎年金番号は記入しなくても良いという機会が増えました。
令和の時代になると、これがさらに進んでいき、基礎年金番号の記入欄がなくなる可能性があります。
そうなると年金手帳の役割は平成で終わり、これの代わりとして例えばマイナンバーカードが、公的年金に関する手続きをする際の、必需品になるのかもしれません。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)