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厚生年金の上限引き上げ案
数か月前に新聞を読んでいたら厚生労働省が、厚生年金保険に加入する年齢の上限(現在は70歳)を、引き上げする案の検討に入るという記事が掲載されておりました。
何歳までかは記載されていなかったのですが、厚生年金保険とセットで加入する健康保険は、現在の上限は75歳になります。
また厚生労働省が引き上げを検討している、「繰下げ受給」(原則65歳から受給できる老齢年金の支給開始を、遅くすると年金額が増える制度)は、現在の上限である70歳から、75歳くらいになるという報道があります。
こういった点から考えると、厚生年金保険に加入する年齢の上限は、75歳くらいに変わるのかもしれません。
そこまで働く予定はないかもしれませんが、政府は働きたいと希望する方については、70歳まで雇用することを、企業の努力義務にする案を示しているため、この年齢まで厚生年金保険に加入する方は、さらに増えていくと予想されます。
厚生年金保険に何歳まで加入したとしても、その期間の長さに応じて、年金額は増えていきます。
しかし次のような3つのケースについては、加入期間の分だけ年金額は増えない、または数年に渡って待たないと年金額は増えないため、注意しておく必要があります。

ケース1 : 60歳に達した時点で、保険料の未納がない場合
厚生年金保険に加入している会社員や公務員は、原則65歳になった時に、厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」だけでなく、国民年金から支給される「老齢基礎年金」も受給できます。
この理由として厚生年金保険の保険料の一部は、国民年金の保険料として使われているからです。
そのため厚生年金保険の保険料を納付した期間は原則として、国民年金の保険料を納付した期間にもなります。
しかし20歳未満と60歳以上の期間については、厚生年金保険の保険料を納付した期間にはなるのですが、国民年金の保険料を納付した期間にはならないのです。
このような仕組みのため、60歳以降の厚生年金保険の加入期間は、老齢厚生年金を増やす効果はあるのですが、老齢基礎年金を増やす効果はありません。
しかも厚生年金保険の保険料は、給与の金額を元にして算出しているため、60歳未満と60歳以降の月給の金額が変わらなければ、保険料の金額は同じです。
そうなると60歳以降に厚生年金保険に加入するのは、もったいないような気がします。
ただ20歳以上60歳未満の間に、国民年金の保険料の未納期間があるため、満額の老齢基礎年金を受給できない方は、厚生年金保険に加入した方が良いと思います。
その理由としてこのような方が、60歳以降に厚生年金保険に加入すると、上記のように老齢基礎年金は増えませんが、その代わりに厚生年金保険から支給される「経過的加算額」が、1か月加入するごとに1,600円くらい増えるからです。
そして経過的加算額が増え続け、「減額された老齢基礎年金+経過的加算額」が、満額の老齢基礎年金と同額くらいになれば、国民年金の保険料の未納期間を、実質的に帳消しにできます。
ケース2 : 65歳に達した時点で、60歳未満の配偶者がいる場合

厚生年金保険に加入している会社員や公務員に扶養されている、20歳以上60歳未満の専業主婦(夫)の配偶者は、年収130万円未満などの所定の要件を満たすと、国民年金の第3号被保険者に該当します。
この第3号被保険者に該当すると、国民年金の保険料を納付する必要がないうえに、第3号被保険者であった期間は、国民年金の保険料を納付したという取り扱いになります。
ただ厚生年金保険に加入している夫が、65歳に達した時点で、原則10年の受給資格期間を満たし、老齢基礎年金を受給できる場合には、妻は60歳未満でも第3号被保険者から外れ、第1号被保険者に切り替わります。
また第1号被保険者に切り替わった後は、自営業者やフリーランスなどと同じように、2019年度額で月額1万6,410円となる国民年金の保険料を、60歳になるまで納付する必要があります。
このような仕組みのため、65歳以降に厚生年金保険の加入期間が長くなっても、妻の老齢基礎年金を増やす効果はありません。
しかも厚生年金保険の保険料は上記のように、給与の金額を元にして算出しているため、妻が第3号被保険者から外れても、厚生年金保険の保険料は安くなりません。
この対策としては夫が65歳に達する直前に、妻が厚生年金保険に加入することだと思います。
その理由として例えば妻の月給が9万3,000円未満の場合、厚生年金保険の保険料は月額8,052円(2017年9月~)になるため、これに健康保険の保険料が加わったとしても、国民年金の保険料より安くなる場合が多いからです。
また第3号被保険者から第1号被保険者に切り替わった際には、住所地の市区町村役場に行って、所定の手続きをする必要があるのですが、厚生年金保険の加入手続きは、妻の勤務先がやってくれます。
ケース3 : 65歳から70歳までの間に、一度も退職しなかった場合
65歳以降も厚生年金保険に加入する場合、加入期間が1か月長くなるごとに、老齢厚生年金の金額は増えていきます。
ただ年金額が改定されるのは、70歳に到達してから、または退職して1か月が経過してからになるため、65歳以降の厚生年金保険の加入期間が年金額に反映されるまでに、最長で5年くらい待つ必要があります。
もし厚生年金保険に加入する年齢の上限が、75歳まで引き上げされた場合には、さらに待つようになる可能性があります。
なお会社を退職して1か月が経過する前に再就職し、別の会社の厚生年金保険に加入した場合には、この時点で年金額は改定されません。
ですから65歳以降に再就職する場合には、退職して1か月が経過するまで、待った方が良いです。
ただ年金額が増えることによって、「在職老齢年金」による年金の支給停止が始まりそうな方は、待つべきなのかを検討した方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)