離婚をするときには慰謝料や子どもの養育費をきちんと取り決めておくことが大切です。
しかし、元夫から慰謝料も養育費もほとんどもらえずに離婚して貧困に陥っている元妻も多くいるのが現実です。
離婚というのは人生の再スタートです。
相手に原因があって離婚するのであれば、相応の慰謝料を支払ってもらって、それまでの結婚生活を清算したいです。
子どもを引き取ったのなら、健全に育てるために、養育費をもらうという権利も使うべきでしょう。
この記事では、離婚するときの慰謝料や養育費を獲得するために重要なポイントを5つに絞ってご紹介します。
できるだけ大きな金額を獲得するのも大切ですが、それよりも「確実に」獲得することを重視してお伝えしていきます。
離婚したいけれど慰謝料や養育費をもらえないのではないかと不安な方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次
1. 慰謝料の請求は相手の反論や言い訳をブロックするのがコツ
離婚するときに慰謝料を請求できるケースは実にさまざまですが、典型的なケースとして以下のようなものがあります。
・ DV、モラハラ
・ 悪意の遺棄(家に帰ってこない、生活費を渡さない、など)
・ セックスレス
慰謝料額はケースバイケースで異なりますが、相場としては数十万円~300万円というのが大半です。
このような慰謝料を請求するためには、証拠を確保しておくことがとても大切です。
証拠がなければ裁判になったときに勝てません。
それだけでなく、2人で話し合う場面でも証拠は重要な役割を果たします。
証拠がなくても、相手が事実を認めて慰謝料を支払ってくれるのであれば問題ありません。
しかし、そんな良心的な相手ばかりではありません。
こちらの主張を相手が否認したり反論したりする場合には証拠を突きつけることが必要です。
相手の反論や言い訳を全てブロックできるだけの明確な証拠を確保するのが理想的です。
そうすれば、あとは支払う気があるのかどうか、いくら支払うのかという論点に進めます。
証拠として有効なものとしては、不貞行為については写真やメール、暴力を受けた場合は診断書や病院の領収証、その他相手の言動が問題になる場合には継続的に書いている日記などが主になります。
2. 養育費に必要な金額は簡易算定表も参考にできる
養育費の相場は子ども1人あたり2~5万円程度とも言われていますが、家庭裁判所では「簡易算定表(pdf)」が利用されています。
これは、子どもの年齢や人数、父親と母親それぞれの年収に基づいて妥当と考えられる養育費の金額を一覧表にしたものです。
簡易算定表による養育費の金額の一例を示しておきます。
・ 子ども2人(第1子15~19歳、第2子0~14歳)、元夫の年収700万円(自営業)、元妻の年収200万円(パート)のケースで、養育費月額14~16万円
この算定表は絶対的な意味を持つものではありませんが、離婚調停でも離婚訴訟でも養育費算定のベースとして使われているので、指標として大きな意味を持っています。
元妻から依頼を受けた弁護士が元夫に請求するときも、多くの場合この算定表を用いています。
具体的に必要な金額を主張することが大切
さて、養育費として相応の金額を請求するためのコツですが、必要な金額を割り出して具体的に主張することです。
相場が〇~△万円だからその金額を支払ってほしい、ではなくて、この子を育てるためにはこれだけの金額が必要だということを示すのです。
そのためには一度、子どものライフプランを描いてみましょう。
何歳でどんな習い事をさせ、何歳から塾に通わせるのか、中学や高校では部活に入る、大学の受験費用や入学金、学費…などというプランを描いて、必要な金額を概算で割り出してみましょう。
もちろん、将来のことは誰にもわかりません。
しかし、大切な子どもの将来のためですから、希望的観測でプランを描いて構いません。
最初に高めの金額を提示することは交渉のコツでもあります。

3. 強制力のある形にしておく
慰謝料や養育費について相手と合意できたとしても、口約束だけでは守られる保証がありません。
誓約書などにサインしてもらったとしても、それに強制力はありません。
ここでいう「強制力」というのは、裁判をしなくてもそのままの形で差押えなどの強制執行ができる効力という意味です。
裁判をした結果である判決書や調停調書には、そうした強制力があります。
裁判をしないで強制力を獲得する方法として、公正証書を作るという方法があります。
話し合いで取り決めた内容を公証役場で文書にしてもらい、執行認諾文言(支払わない場合は強制執行されても構わないという意思表示)が付されると、その公正証書には確定判決と同じ強制力を持ちます。
ただし、強制力のある書面を獲得しても、差押えが可能な相手の財産を把握していないと、やはりただの紙切れになってしまいます。
できれば、離婚後も相手がどこに住んでいるのか、どこの会社で働いているのかという事情は把握しておきたいところです。
いざというときに給料や不動産、自動車などの差押えを検討する糸口になります。
場合によっては一括払いの方が有利なこともある
離婚の慰謝料は100万円や200万円になることも多く、養育費も少なくない金額が毎月発生します。
元夫のなかには、支払う意思はあるけれど、支払うだけの余裕がないという場合も多いものです。
そういったケースでは、慰謝料も分割払いにすることがよくあります。
養育費に慰謝料の分を少し上乗せして毎月支払っていくという形です。
しかし、この方式はある意味危険です。
実は、養育費を毎月きちんと支払う元夫は少数派です。
厚生労働省の調査によると、母子家庭で元夫から養育費の支払いを受けているのは19.7%(平成23年度)とのことです。
養育費の支払いを受けていない母子家庭が8割以上です。
そのなかには離婚するときに公正証書も作らず、調停も訴訟もしていないケースも多く含まれているはずですが、それにしても衝撃的な数字ではないでしょうか。
公正証書や調停調書、判決書があってもその通りに支払われるケースは少ないのが現実です。
このような現実を踏まえた場合、特に慰謝料については分割払いよりも一括払いで支払ってもらった方が有利な場合もあります。
総額300万円を毎月5万円ずつ分割で支払ってもらう約束をしても、結果として30万円しか支払ってもらえないようなことはよくあります。
それよりは、100万円でも50万円でも一括で支払ってもらう方がトクになるということです。
養育費については、何度でも再協議したり調停を申立てることができますので、慰謝料についてはこのような形で割り切るのも1つの選択肢です。
元夫の経済力や性格に応じて検討してみてはいかがでしょうか。

4. 慌てて離婚するのは禁物
この記事の冒頭で、元夫から慰謝料も養育費もほとんどもらえずに離婚して貧困に陥っている元妻が多くいるということを書きました。
そういったケースのなかには、「何もいらないから、早く離婚したい」といって慌てて離婚してしまったケースも多くあるはずです。
たしかに、離婚を考えるくらいですから、相手と関わりたくないのも無理はありません。
きちんとした取り決めをしないで慌てて離婚をするのは、それまでの結婚生活でのマイナスを背負ったまま人生の再スタートを切ることを意味しますから、大きなハンディとなります。
子どもを健全に育てていくためにも、離婚条件はきちんと取り決める責任があると考えるべきです。
離婚した後でも慰謝料の請求はできます。
ただし、3年で消滅時効にかかるので、のんびり構えているわけにはいきません。
注意が必要なのは、消滅時効期間は「離婚」から3年ではなく、「原因となった行為があったとき」から3年です。
例えば、離婚の2年前にあった不貞行為が原因で離婚した場合、離婚から1年以内に請求しないと慰謝料請求権は消滅時効にかかってしまいます。
なお、養育費については子どもが未成年である限り、いつでも請求できます。
5. 何を重視すれば最も納得がいくのかきちんと相談しよう
慰謝料も養育費も、訴訟では裁判官が事実に基づいて公平に判断して金額を言い渡します。
それに対して、離婚協議や離婚調停では、駆け引きによって金額が増減したり、回収できる確実さが変化したりします。
金額を増額させるための駆け引きと、確実に回収するための駆け引きは、似ているところもありますが違うところもあります。
この記事では、「確実さ」の方にウェイトを置いてご説明してきました。
もちろん、できるだけ大きな金額を確実に回収するのが理想的ですが、金額を重視すべきケースと確実さを重視すべきケースというのもあります。
ご自分のケースでは何を重視すれば最も納得のいく結果が得られそうなのかを弁護士などに相談してみるのも良いことです。(執筆者:川端 克成)