クレジットカードを不正利用されても、ほとんどのカードには盗難保険が付いているので、救済措置がとられます。
しかし、盗難保険が適用されるためには意外に厳しい条件があり、それらの条件を満たさなければ不正利用された料金を支払わざるを得なくなります。
・ 条件を満たさない場合には支払い義務を免れる法的手段はないのか?
泣き寝入りするしかないのか…とお悩みの方は、ぜひご覧ください。

目次
盗難保険の適用条件は意外に厳しい
クレジットカードを不正利用されたときに盗難保険で救済してもらうための条件は意外に厳しく、不本意な支払いを余儀なくされている利用者がいるのが現実です。
その条件はカード会社やカードの種類によって異なりますが、おおむね共通するところをご紹介します。
盗難保険が適用されるためには、まず、以下の3つの申請手続きを確実に行っていることが条件となります。
・ 警察に被害届を提出すること
・ 被害届の受理番号をカード会社に伝えること
申請手続きを確実に行ったとしても、不正利用されたことにカードの保有者の過失があると判断される場合には盗難保険が適用されません。
過失があると判断される代表的なケースは以下のとおりです。
・ カードを他人に貸した
・ 正しい暗証番号でカードが利用された
・ 推測されやすい暗証番号を設定していた
・ カードを盗まれやすい場所に保管していた
・ カードの重要情報を書いたメモを盗まれやすい場所に保管していた
適用条件を満たさない場合は支払うしかない?
カードを正しく管理・使用していれば、不正利用されても盗難保険の申請手続きを正しく行えば、確実に救済されます。
しかし、以上の条件を見て、少し厳しいと思った方もいるのではないでしょうか。
不正利用されてから61日以上が経過すると、たとえその間気づいていなかったとしても、もう補償してもらえません。
カードの裏面に署名していなかったり、カードをときどき家族などに貸していたり、暗証番号を書いたメモをカード一緒に保管していたりするのはありがちなことですが、このような場合も補償してもらえません。
条件を満たさない場合は、カード会社から容赦なく支払いを請求されます。
納得がいかないからといって支払わないと延滞になり、カードは利用停止となってブラックリストに載せられるという結果が待っています。
このような不本意な支払い義務を免れる法的手段はないのでしょうか。
不正利用による支払い義務を免れる法的手段とは
盗難保険の適用条件を満たさず、カード会社から支払いを請求されたとしても、まだ諦めるのは早いです。
この段階になると専門家や専門機関の力を借りないと支払い義務を免れるのは難しいですが、解決する可能性はまだあります。
解決を目指す方向性としては大きく分けて2つあります。
「裁判しないで解決を目指す方向」と、「裁判を視野に入れて解決を目指す方向」です。
裁判しないで解決する方法

裁判しないで解決するためには、カード会社との話し合いによる和解を目指すことになります。
この方向性を目指す場合は、全国各地にある国民生活センターや消費者センター、消費生活センターに相談するのが便利です。
これらの機関は、あくまでも公平中立な立場としてですが、カード会社に連絡を取って意見を聴くなどして話し合いによる解決を図ってくれます。
国民生活センターにはADR(裁判外紛争解決手続)という制度もあり、和解の仲介や仲裁をしてくれます。
国民生活センター等の力を借りても100%勝利するのは難しいですが、支払額を2分の1から3分の1程度にまで減額する和解ができるケースは多くあります。
何よりも、これらの機関は無料で利用できるので、費用倒れになる心配がないのがありがたいところです。
裁判を視野に入れて解決する方法
国民生活センター等に相談しても埒があかなかった場合や、100%の勝利を目指す場合は、裁判も視野に入れて戦う必要があります。
裁判をするには弁護士に依頼しないとなかなか難しいですが、戦い方にはポイントがあります。
クレジットカードを不正利用されたのに盗難保険が適用されないのは、カード名義人に過失がある場合です。
したがって、裁判をするなら、本当に過失があったのかどうかという点がポイントとなります。
クレジットカードの不正利用に関する有名な裁判例が3つあるので、ご紹介します。
(1) いわゆる「ぼったくりバー」の法外な料金の支払い義務を免れたケース
このケースでは、顧客が清算のためにクレジットカードを渡した後に法外な料金を請求されました。
話し合いの結果5万円で合意し、現金で支払って店を後にしましたが、従業員が既にクレジットカードで決済しており、後日約78万円の支払いをカード会社から請求されました。
判決では、顧客はぼったくりバーの意図的な過大請求を認識することなくクレジットカードを渡していることから、正当な意思によらずにカードの占有が移転されており、カードの利用規約に列挙されている免責事由に該当しなくても免責されるとして、カード会員の支払い義務は0円となりました(平成27年8月10日 東京地方裁判所判決)。
判旨には書かれていませんが、飲食店で料金をクレジットカードで支払うのは普通のことなので、店の従業員が勝手にそのクレジットカードを使って約78万円の決済をしたとしてもカード会員に過失はないという意味も読み取れます。
(2) 同居の家族が無断で利用した料金の支払い義務を免れたケース
このケースでは、同居する未成年の長男が父名義のクレジットカードを無断で使用して有料インターネットサイトを利用し、その料金を請求されました。
判決では、このカードが暗証番号など本人確認情報の入力不要で決済できたことから、カード会社が不正利用を排除するシステムを構築していたとは言えないとして、父親の支払い義務は0円となりました。
父親としては、暗証番号も入力しないでクレジットカード決済ができるとは思ってもおらず、適切なカード管理は困難であると主張していました。
裁判所も、カード券面上から明らかなカード情報だけで利用可能な方法があることをカード会社が規約で明示していなかったことから、父親の過失を否定しました(長崎地裁佐世保支部平成20年4月24日判決)。
(3) 知人に貸したカードの支払い義務を50%免れたケース
このケースでは、知人がパソコンを購入するというのでクレジットカードを貸したところ、知人がそのカードを使って無断でクラブやホテル等を利用し、合計約94万円の支払いを請求されました。
裁判では、カード会員が許可した範囲を超えて知人が無断使用した分についても全額の支払い義務があるのかが争われました。
判決では、カード会員の支払い義務は2分の1になり、残りの2分の1についてはカード会社の請求は権利濫用として認められないと判断されました。
100%勝訴とはなりませんでしたが、他人にカードを貸して不正利用された場合はカード会員に全額の支払い義務があるとカードの利用規約に明記してあるにもかかわらず2分の1に減額されところに大きな意義がある判決と言えます。
この判決では、知人がカードを無断使用した際にカード会員の氏名が署名されていましたが、それが本人の筆跡とは明らかに異なることも考慮されています。
正しい署名がないのにカードの利用を認めた点で、カード会社にも50%の過失があると判断されたと読み取れます。
戦い方はいろいろある

長々と裁判例をご紹介しましたが、どの裁判例でも、
あるとしてもどの程度の過失があるのか
カード会社の方にも過失はないのか
という点が詳細に検討されています。
ということは、今後もさまざまなケースで裁判例が蓄積されていくはずです。
現に、地裁レベルですが、ここにあげた3つと同様にカード会員の支払い義務を全部または一部排斥する裁判例はいくつも出てきています。
今後、最高裁判例も出てくれば、カード会員が救済されるケースも広がっていくことと思われます。
泣き寝入りする前に相談しましょう
クレジットカードを不正利用され、盗難保険が適用されずに支払いを請求されたとしても、まだ戦う余地があることをおわかりいただけたでしょうか。
たしかに、楽な戦いではありません。
しかし、カード会社の利用規約に従うことが公平であるとは限らないのです。
納得できなければ戦って勝つことで、カード会社と会員を少しでも公平な立場に近づけることにつながります。
何よりも、少しでも被害を軽減させなければなりません。
泣き寝入りする前に、国民生活センターに相談したり、弁護士の無料相談を受ける程度のアクションは起こしてもいいでしょう。(執筆者:川端 克成)