養育費は、子どもがいる夫婦が離婚する時に大きな論点になります。
養育費の月額平均は母子家庭の場合4万3,707円、父子家庭の場合3万2,550円(厚生労働省 平成28年度ひとり親世帯等調査)です。
しかし、離婚によるひとり親家庭が大切な子どものために取り決めた養育費をきちんと受け取ることができているとは限らず、養育費を受け取っているのは全体の一部に過ぎないのが現実です。
その結果、養育費の不払いで、生活に困っているひとり親家庭は少なくありません。
本来は子どもにかかる養育費の支払いは、親である以上負担するのが義務です。
不払いが続くようであれば強制執行などの法的な方法はもちろん、強制執行前に相手から不払いの養育費を回収する方法があります。
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目次
養育費を受け取れない母子家庭は約6割の現実
厚生労働省が発表した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」では、養育費を一度も受け取っていない母子家庭は56%、父子家庭においては86%に上るという統計結果も同時に発表されており、あらためて養育費が支払われていない実態が浮き彫りになっています。
世帯収入が平均収入を大きく下回る母子家庭にとって、養育費を受け取れない状況は家計の観点からも深刻な問題で子どもの健やかな生活を揺るがすことにもなります。
養育費の強制執行とは? 申立ては個人でもできます
養育費の強制執行とは、養育費の支払いが行われない場合、地方裁判所に申立てをすることによって養育費を支払うべき相手の給与や資産を差し押さえ、不払いになっている養育費を回収する方法です。
不払いの養育費を回収する最終方法とも言えるでしょう。
裁判所に申立てを行うためには弁護士に依頼しなくてはいけないと思う方も多いのですが、実際は自分で申立てを行うこともできます。
ただし、必要な書類をそろえる、相手の所在を確認するなど申立てをするまでの準備が煩雑なので、不安がある時は弁護士に相談して手続きを進めるほうがおすすめです。
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養育費の強制執行を申立てる前にできること
強制執行の申立てを行う前に、自分でできることがいくつかあります。そのひとつが、「内容証明郵便」です。
内容証明郵便は、手紙の内容や発送日、相手が受け取った日付などを郵便局が記録し証明するサービスのひとつです。
郵便局に内容、発送日、受取日まで証拠として記録されるため、もし相手が「養育費についての手紙は受け取っていない」と主張しても、一般的にはその主張が認めることはありません。
また、内容証明郵便は、「請求に応じない場合は法的手段(裁判)になる可能性もあること」を伝える手段でもあります。
受け取った相手には心理的圧迫を与え、強制執行申立てをしなくても不払いの養育費を回収できます。
「1行の文字数、1列の文字数に制限があり、1行20字以内、1枚26行以内」といった様式をしっかり押さえていれば自分で文面を作成し、相手に送れます。
縦書き、横書きは問われません。
注意点:養育費の強制執行を見据えて離婚成立時に必ず公的書類を作成
養育費の不払いを回収するには、離婚する時に作成した公正証書や調停調書など養育費についてはっきりと明記された正式な公的文書が必要となります。
実は、この公正証書や調停調書は「債務名義」とも呼ばれ、「もし養育費が不払いの場合は支払義務のある相手に強制執行する権利が発生する」という意味を持ちます。
協議離婚の場合は口約束だけで養育費についても決めてしまう場合も多いでしょう。
しかし、養育費などの決め事を口約束だけで済ませてしまうと正式な文書として残りません。
そのため、養育費を請求する根拠となるものがないため、内容証明郵便の送達や強制執行することはできないので注意しましょう。
諦めずに請求! 養育費は子どもの生活と未来を守る大切なお金
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母子家庭、父子家庭に関わらず、ひとり親家庭にとって、子どもを養育していくための経済的負担や精神的負担は決して軽くはありません。
養育費は子どもと離れて暮らす親の義務であり、子どもの生活を支える大切なお金です。
また、養育費をきちんと受け取ることで、子どもの未来の選択も大きく広がります。
「強制執行」と聞くと手続きが煩雑で難しく感じますが、けして不可能なことではありません。
正式な公的証書に基づいた養育費の請求は、法律に基づいた権利なのです。
「相手はどうせ支払ってくれない」と諦めず、子どもの生活と未来のために毅然と請求手続きを行うことが大切です。
子どもの未来を守るためにも、自分でできることはもちろん強制執行までを視野に入れて不払いの養育費はしっかり請求しましょう。(執筆者:花見 結衣)