ここ数年、地震や台風などの自然災害が多発しています。
既に物件を所有している状態で、自然災害に遭遇した場合は、物件に付保している火災保険を利用します。(火災保険料も10月に値上げされます)
では、新築や中古住宅の売買において、売買契約後、物件引渡し前に自然災害で物件に損害が生じた場合、売主と買主、どちらが損害を負担するのでしょうか。
今回は、自然災害の増加で実際にこのような事例が増えていることから、どちらが負担するのか、わかりやすく解説します。
目次
法律の規定では「買主」が負担する
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日本の民法では、このような事例を「危険負担」という項目で規定しています。
例えば、売買契約が済んだ後において、売主には物件の引き渡し義務、買主には代金の支払い義務が生じます。
ここで、民法では買主が危険を負担するという、「危険負担の債権者主義」が規定されています。
具体的な事例で解説すると、売買契約後、物件引渡し前に、台風の直撃により、引き渡し物件が損傷したとします。
これを民法の「危険負担の債権者主義」で解釈すると、買主が危険を負担しなければならないため、売主は損傷した物件を引き渡し、買主は当初どおりの代金を支払わなければなりません。
どちらかが危険を負担しなければならないため、やむを得ないと言えばそうなりますが、売主と買主の力関係など、何かと揉める原因になります。
実務では上記を修正し、「売主」が危険を負担する
今まで民法上の「危険負担」について解説してきましたが、力関係で言えば、売主の方が強い場合が多いです。
例えば、分譲マンションにおいては、売主は不動産業者、買主は個人となります。
そこに民法上の「危険負担の債権者主義」をそのまま適用すると、不動産業者は損傷した物件をそのまま引き渡せばよく、買主は当初どおりの代金を支払います。
これについて、当然ながら、不動産業者に危険を負担してもらいたいと考える買主がいても不思議ではありません。
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そうしたトラブルを避けるため、売買契約書には「売主が危険を負担する」と修正した文言が入っています。
これにより、売買契約後、物件引渡し前に台風の直撃により引き渡し物件が損傷したとしても、売主が危険を負担することから、売主が修理を行ってから、買主は代金を支払えばよいことになります。
なお、地震などにより、対象物件が滅失した場合も、売主が危険を負担するので、買主の支払い義務は消滅します。
売買契約書の記載を必ずチェック
このように、実務では「売主が危険を負担する」ので、売買契約後、物件引渡し前までの状態をそれほど心配する必要はありません。
ただし、必ず上記のように修正されている保証はないので、売買契約書の「危険負担」の欄を必ず確認し、不明な点は解消するようにしておきましょう。(執筆者:1級FP技能士、宅地建物取引士 沼田 順)