婚活やデート商法など恋愛感情を巧みに活用した不動産投資詐欺の手口はあとを絶ちません。
被害者にとっては不動産投資詐欺と結婚詐欺の二重苦で、経済的にも精神的にも追い込まれてしまいます。
せめて、不本意な不動産購入の契約を取り消してお金を取り戻すことはできないのでしょうか。
法的に検証していきます。

目次
民法での解決は難しい
婚活サイトなどで知り合った異性と何度かデートをして、恋愛感情が湧きたってきた頃合いで投資用マンションの購入を勧められ、断り切れずに購入してしまうというのが典型的なデート商法の手口です。
このような手口は以前からありましたが、最近では婚活サービスの普及や年金問題、老後の不安などが増大しているためか、なお多数件発生しているようです。
不本意な契約をしてしまった場合、民法上は錯誤による無効や詐欺・強迫による取り消しを主張することができます。
しかし、デート商法の場合は錯誤や詐欺・強迫を伴うとは限らない上、仮に伴っていても、このような主観的要件は立証することは非常に困難です。
そのため、デート商法によって締結させられた契約を民法によってなかったことにするのはなかなか現実的ではありません。
裁判例では、婚活サイトを通じて出会った男性から勧められて投資用マンションを購入した女性のケースで、恋愛感情を利用して不本意な契約に至らせた点が「社会的に相当性を欠く違法なものとして」不法行為にあたると認められたものもあります。
しかし、この裁判例は契約の無効や取り消しについて判断したものではなく、判決では売った側に損害賠償として90万円の支払いが命じられました。
勝訴ではありますが、女性が買わされたマンションの価格が約2,700万円であったことを考えると、実質的な被害の回復にはほど遠いという印象は拭えないでしょう。
消費者を守る法律は他にもある
売主が宅建業者だった場合は、宅建業法上のクーリングオフによって契約を解除できる可能性があります。
クーリングオフは宅建業者の事務所等以外の場所で契約した場合でなければ使えませんが、デート商法の場合は飲食店や自宅などで契約が行われる場合が多く、その場合は無条件で契約を解除できます。
ただし、このクーリングオフ制度にも穴がいくつかあります。
まず、業者自らが売主でなけれならず、仲介業者の場合は適用されません。
次に、クーリングオフの告知を受けてから8日が経過するとクーリングオフは使えなくなります。
正規の宅建業者であればこの告知をしないことは考えにくいですが、もし告知を受けていない場合はいつまでもクーリングオフできます。
最後に、買主が物件の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ってしまえば、その後はクーリングオフできなくなります。
デート商法の場合は、相手の異性が物件の引き渡しと代金の支払いが終わるまで見届け、クーリングオフ期間も過ぎてから姿を消す場合が多いので、実際にはクーリングオフも使えないケースが多いのです。
先ほどご紹介した損害賠償が認められた裁判例も、おそらくクーリングオフが使えなかったために最後の手段として損害賠償請求訴訟を提起したのであろうと考えられます。
2019年6月に施行された新法は期待できる?
デート商法による被害や訴訟が近年増えてきたこともあり、最近の消費者契約法の改正では、デート商法による契約を取り消すことができる条項が盛り込まれ、2019年6月15日から既に施行されています。
この新法による被害の救済が期待されるところですが、条文を見ると疑問もあります。
当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。(引用元:消費者庁)
この手口によって締結された契約は取り消すことができるという内容になっています。
疑問点も残る内容
まず「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件が疑問です。
契約の勧誘者に対して好意を抱き、勧誘者も自分に対して好意を抱いていると誤信した原因が「社会生活上の経験が乏しいこと」にあることを立証しなければなりません。
まるで、未熟者であることや恋愛経験が乏しいことを立証しないといけないかのように思えます。
でもこの点は、さほど問題ではないのかもしれません。
デート商法に引っかかった以上は、
ことを意味します。
婚活の経験や不動産投資の経験が豊富でないことを立証できればこの要件はクリアできると考えられますが、裁判所がどのように判断するかは今後の動向を見守るしかありません。

今後、法律をどのように解釈していくか期待
「当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること」という要件も疑問です。
疑問というか、厳しいですね。
このマンションを買わないのならもう会わないとか、結婚はできないなどという発言があったことを立証しなければならないということです。
このような発言が出るケースもあるでしょうが、巧みな加害者が決定的な発言は口にせず、上手に相手を契約まで誘導しているケースも多いと考えられます。
この要件についても、加害者の発言を総合的にみて「このマンションを買わなければもう会わない」という意思が読み取れるというレベルの立証でクリアできればいいのですが、現時点では何とも言えません。
法律をどのように解釈するかは判例の集積によって培われていく面もあるので、消費者保護という立法趣旨に見合った判例が出てくることを期待するばかりです。
契約を取り消すのは簡単ではない
結局のところ、婚活やデート商法で不動産投資詐欺に遭った場合、契約を取り消すための法律はいくつかあるものの、現状では簡単ではありません。
結局は自己防衛するしかありませんが、デート商法は心の盲点に付け入ってくるものだけにつらいところではあります。
それでも、多額のお金を動かすときには第三者の意見を聞いてみるとか、慎重で冷静な生き方が望ましいでしょう。(執筆者:川端 克成)