以前、成年後見制度における「法定後見」と「任意後見」についてそれぞれ説明しました。
どちらも「後見制度」ではあるものの、成り立ちも手続きも全く異なるので、どちらか一方の利用となるのが普通です。
しかし、まれに双方の申立てが競合することがあります。
その場合には、どちらが優先されるのでしょうか。

目次
「法定後見」と「任意後見」なぜ競合があり得るのか
「任意後見」は、本人と、本人がいずれ判断能力が衰えた場合に後見をお願いしたい人(受任者)との2当事者間の意思が合致すれば契約が成立します。
1人暮らしの方が法律の専門家などの第3者と契約すると、親族が契約の存在そのものに気づかずに、必要だとして「法定後見」の申立てをしてしまうケースがあります。
また、「任意後見」の申立てがされたことを知った親族が、受任者が信用できないなどの理由で、「法定後見」を申し立てることもあります。
競合したら「任意後見」優先が原則
このような場合、法は
第十条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。任意後見契約に関する法律
と定めています。
既にある契約を優先させるということです。
理由:本人の意思の尊重
理由としては、なにより本人の意思の尊重が1番にあげられます。
本人が自分の意思で自分の財産などの管理をしてもらう相手を選択し、公正証書に認めたのであれば、本人以外の者が申し立てる「法定後見」より優先されるのは当然といえます。
任意後見契約の存在を親族などが知っている、いないは関係ありません。

法定後見が優先する「特に必要がある」時とは
法定後見の方が「本人の利益」に資するとされるのはどういう場合でしょうか。
まず、「任意後見」の受任者が破産宣告をしたなど、受任することが不可能な場合があげられます。
次に、どうしても後見人の「取消権」が必要な場合です。
本人がした契約を原則無条件に取り消すことができる「取消権」は任意後見人には与えられません。
もちろん、詐欺や錯誤を理由として契約解除を本人に代わって申し立てることはできますが、本人が頻繁に不要な契約を結び続ける場合にはとても追いつきませんし、訴訟に発展することもあり得ます。
このようなケースでは法定後見が優先されることがあります。
「法定後見」の優先はあくまでも例外的なもの
漠然と受任者が信用できないという理由はもちろんのこと、本人が施設に入っているなどで無駄な契約をする恐れがなければ、取消権による申立てもまず認められません。
行動を起こすとしても、個人的な感情より、なにが本当に本人の利益となるかを第1に考えてからにしましょう。(執筆者:橋本 玲子)