わたしは30年以上の銀行員生活で、融資の担保として実にさまざまな不動産を見てきました。
その中には法律用語でいう瑕疵(かし)、つまりキズ物の不動産もあり銀行員として対処に苦労します。
銀行員が対処に困るということは、担保として不適格で、最悪の場合担保にできず、融資が受けられないこともあり得ます。
そこで今回は、銀行員として実際に見てきた「瑕疵(かし)のある物件」を紹介し、それがどのような結末となったかをお話しします。
不動産投資を検討している人や、住宅ローンを利用して自宅物件を探している人、あるいは親の土地に自宅を建てようとしている人など、ぜひ参考にしてください。
目次
瑕疵とは?

瑕疵とは
が言葉の意味で、欠陥と似ています。
不動産の場合は、物件の土地・建物に何らかのキズ(欠陥、不具合)があることを意味します。
「瑕疵担保責任」は、普通ではまずわからないような瑕疵(隠れたる瑕疵などと呼びます)があとから判明した場合、不動産の売主が損害賠償請求される場合があるという内容です。
瑕疵には物理的な欠陥や、法律的な欠陥があります。
またいわゆる事故物件(心理的瑕疵とも呼ばれます)など心理的欠陥も瑕疵に含まれます。
銀行は担保を取上げて処分する視点で物件を見る
銀行は担保権を行使し(担保を取上げるという銀行用語)売却することを想定して、不動産を値踏みします。
融資したお金が返済できなくなれば、最終的には担保になっている不動産を処分して、銀行は融資金を回収しなければなりません。
したがって不動産は、他人に売れる物件でなければ担保にしないのが大原則です。
銀行の不動産査定は厳しく、物理面、法律面など多方面で非常に細かく綿密な調査をします。
もし銀行から「この不動産には瑕疵があります」と言われたなら、この物件はそのままでは売れないということになります。
また担保にできなければ、融資が受けられないかも知れません。
ここからは、実際にあった事例を紹介していきます。
物理的な瑕疵:役所(法務局)に内緒で増改築
中古アパートビルを一棟まるごと購入するという融資での話です。
それまでのオーナーがおっとりとした人だったようで、増改築がまるで無法地帯の状態でした。
・ ベランダにコンクリート製の大きな犬小屋が作ってある
・ ビル一階の駐車場部分にラーメン店がある
・ 屋上に小さな家がある
・ ビルの後ろ側、隣のビルとの隙間(幅2メートル)に部屋数ぶんの倉庫がある
しっかりした構造で増改築に該当するものですが、まったく登記していませんでした。
建ぺい率や容積率を超過してしまったなら、違法建築物件になります。
これら内緒の増改築は、重要事項説明書を見た銀行員が「発見」しました。
なぜ増築を見抜けないのか
違法建築の点では、すべて正直に登記すると建ぺい率と容積率が若干超過してしまうのですが、市役所では以前から承知していて、増改築したぶん課税されていたのでおとがめなしでした。
担保の現地調査をした銀行員には、これらの増改築を見抜けませんでしたが、彼に落ち度はありません。
けっして身内の肩を持つわけではありませんが、担保の現地調査というのは非常にデリケートです。
例えば今回のような賃貸物件では、
・ オーナーの許可を得る
・ 住民にも配慮しないと不法侵入や、プライバシーの侵害になる
などがあります。
ですからビルの地下、裏側や屋上、ましてや個人スペースのベランダに立ち入ることは不可能です。
実際の現場では良くて敷地の中、せいぜい郵便受けまでしか立ち入れず、なかには門の外から首を伸ばして除く程度の場合もあり、「隠れた瑕疵」が見抜けないのもムリはありません。
重要事項説明書は重要

「重要事項説明書で銀行員が発見」とはどういうことかというと、融資をあつかった銀行員は若手で、事前に重要事項説明書を見ていませんでした。
融資の必要書類なので売買当日に重要事項説明書のコピーを取り、融資を実行しました。
何日かたったある日、融資書類を点検していた上司が重要事項説明書を見て増改築を「発見」しました。
若手銀行員に事実確認しましたが、コピーをした彼は「重要事項説明書」をまったく見ていなかったそうです。
双方承知なら瑕疵も瑕疵でなくなる
宅地建物取引業法(宅建業法)では、契約を締結するまでのあいだに、物件にかかわる重要事項の説明をしなければならないと定められています。
重要事項説明書とはその物件の説明書ともいえるものです。
現在ではどんなものにも説明書、マニュアルはついてきます。
まして何千万円にもなる高額な不動産で、おそらく一般人なら一生に1度の取引で説明書を見ない人がいるでしょうか?
このケースでも
市役所でおとがめなしということも含めて、増改築については売主買主双方が承知していました。
双方承知で売買契約したのですから、こうなると瑕疵も瑕疵ではなくなります。
知らなかったのは「銀行」だけ
いっぽう銀行はどうでしょうか?
双方が納得していたとしても瑕疵は瑕疵です。
将来売却することを想定すると、登記するか取り壊すかをさせなければなりません。
またそれより深刻なのは、銀行側で値踏みしていた物件の評価が根底から覆り「評価ゼロ」となってしまったことです。
重要事項説明書も「〇〇さん(若手)から言われなかったので渡さなかった」と主張され、お客様との交渉は難航しました。

最終的には不足した担保を補うために実家の不動産を追加担保にすることで決着しました。
事前にわかっていれば担保にはせず融資も断れたはずでした。
しかし、これは銀行の怠慢と主張されても反論できないことで、不満を持ったお客様は他の銀行で借り換えして取引はなくなってしまいました。(執筆者:加藤 隆二)