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国民年金
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また国民年金の保険料を、20歳から60歳までの40年(480月)に渡って納付すると、原則65歳から満額の老齢基礎年金(2019年度は78万100円)を受給できます。
もし未納の期間がある場合には、1か月あたり1,625円(78万100円÷480月)くらい老齢基礎年金が減ってしまうため、できるだけ未納の期間をなくして、満額に近付けたいところです。
ただ学生や無職の期間などは、保険料を納付するだけの金銭的な余裕がない場合が多いので、所定の申請手続きにより、学生納付特例、各種の免除(全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除)、納付猶予を受けるられます。
特例・免除を受けた方が良い理由
保険料を納付した期間と同じように、老齢基礎年金を受給するために必要となる、原則10年の受給資格期間に反映されるからです。
また老齢基礎年金の財源の2分の1には、税金が使われているため、例えば20歳から60歳までの40年に渡って、全額免除を受けた場合には、保険料をまったく納付しなくても、満額の2分の1となる39万50円の老齢基礎年金を受給できます。
ただ学生納付特例と納付猶予の期間は、未納の期間と同じように、税金が使われないため、これらの期間が1か月増えるごとに、1,625円くらい老齢基礎年金が減ってしまいます。
60歳から65歳までの任意加入は、追納と同じような効果が得られる
学生納付特例、各種の免除、納付猶予を受けた期間は、金銭的な余裕がある時に追納して、保険料を納付した期間にした方が良いと思います。
この追納ができる期間は、学生納付特例、各種の免除、納付猶予を受けた各月から、10年以内になっているため、例えば2019年4月分の保険料については、2029年4月末が追納の期限です。
期限を過ぎると追納できなくなりますが、60歳から65歳までの間に国民年金に任意加入して、保険料を納付すると、追納と同じような効果が得られます。
例えば20歳から22歳までの2年に渡って、学生納付特例を受けていた方が、60歳から65歳までの間に国民年金に任意加入して、2年分の保険料を納付した場合には、満額の老齢基礎年金を受給できます。
国民年金の任意加入の優れている点
国民年金の任意加入は、追納と同じような効果が得られるだけでなく、追納より優れている点があると思います。
例えば国民年金の保険料に加えて、毎月400円の付加保険料を納付すると、老齢基礎年金に上乗せして、「200円×付加保険料の納付月数」で算出される、付加年金を受給できます。
この付加年金の金額は決して多くはないのですが、付加年金の受給を始めてから、わずか2年で元がとれるという、とてもお得な制度です。
もし学生納付特例を受けていた期間の保険料を追納する場合、その期間の保険料に加えて、付加保険料を納付できません。
一方で60歳から65歳までの間に国民年金に任意加入して、保険料を納付する場合、その期間の保険料に加えて、付加保険料を納付できるため、追納より任意加入の方が優れています。
ただ国民年金の任意加入には、次のような3つの欠点がありますので、こういった点を考慮したうえで、利用すべきだと思います。
欠点1:老齢年金生活者支援給付金が、減ってしまう場合がある
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2019年10月からは、
「同一世帯の全員が市町村民税非課税」
「前年の公的年金等とその他の所得の合計が77万9,300円以下」
という要件を、すべて満たした方に対して、老齢年金生活者支援給付金が支給されます。
また老齢年金生活者支援給付金の2019年度の月額は、次のような3つを合計したものです。
・ 保険料を納付した期間を元にした金額
5,000円×保険料を納付した期間(月数)/480月
・ 全額免除、4分の3免除、半額免除を受けた期間を元にした金額
1万834円×これらの免除を受けた期間(月数)/480月
・ 4分の1免除を受けた期間を元にした金額
5,417円×4分の1免除を受けた期間(月数)/480月
例えば20歳から60歳までの40年に渡って、1度も未納なく保険料を納付した場合、老齢年金生活者支援給付金は月額で5,000円(5,000円×480月/480月)になるため、年額では6万円(5,000円×12か月)になります。
一方で20歳から60歳までの40年に渡って、全額免除を受けた場合、老齢年金生活者支援給付金は月額で1万834円(1万834円×480月/480月)になるため、年額では13万8円(1万834円×12か月)になります。
このように保険料を納付した期間より、全額免除を受けた期間が多い方が、老齢年金生活者支援給付金を多く受給できます。
そのため国民年金に任意加入して保険料を納付すると、老齢基礎年金は増えていきますが、老齢年金生活者支援給付金は減っていきます。
老齢年金生活者支援給付金を受給できる可能性のある方は、増える老齢基礎年金と、減ってしまう老齢年金生活者支援給付金を事前に試算して、国民年金に任意加入するのかを、判断した方が良いと思います。
なお学生納付特例や納付猶予を受けた期間は、老齢年金生活者支援給付金の金額に反映されないようです。
そのため国民年金に任意加入して保険料を納付し、学生納付特例や納付猶予を受けた期間を、保険料を納付した期間に変えた方が、老齢年金生活者支援給付金が増えていきます。
欠点2:任意加入の期間は、各種免除などを受けることができない
国民年金の保険料は2019年度額で1万6,410円になるため、パートなどの収入しかない方は、国民年金に任意加入して保険料を納付するのを、ためらってしまうかもしれません。
また例えば4分の3免除により、保険料が4,100円まで下がったら、国民年金に任意加入して保険料を納付しても良いと思う方が、現在より増えるかもしれません。
しかし任意加入の期間については、各種の免除などを受けられないため、1万6,410円の保険料を納付するか、それとも任意加入を止めるかの、いずれかを選択するしかないのです。
なお任意加入にも保険料を前払いすると、割引になる制度があるため、納付する保険料を少しでも安くしたいという方は、こちらを利用した方が良いと思います。
欠点3:誰が社会保険料控除を受けるのかを、柔軟に決められない
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国民年金に任意加入した場合、その保険料は原則として、口座振替で納付する必要があるのですが、これも考え方によっては、欠点のひとつではないかと思うのです。
納付した国民年金の保険料は、年末調整や確定申告の際に、「社会保険料控除」として所得から控除できます。
また控除により低くなった所得に税率を乗じて、所得税や住民税を算出するため、控除前よりこれらの税金が安くなります。
この節税効果を高めるには、生計を一にしている親族の中で、所得税の税率が1番に高い方、つまりもっとも所得の高い方が、社会保険料控除を受けた方が良いのです。
もし納付書を使って保険料を納付する場合、生計を一にしている親族の中で、誰が社会保険料控除を受けるのかを、柔軟に決められます。
しかし例えば妻が国民年金に任意加入したので、妻の預金口座で口座振替すると決めた場合、任意加入の保険料で社会保険料控除を受けられるのは、妻だけになってしまうため、夫が社会保険料控除を受けることはできません。
もちろん国民年金に任意加入したのが妻であっても、夫の預金口座で口座振替すると決めた場合には、夫が社会保険料控除を受けられるのですが、最初に書類を記入する段階では、数か月先の年末調整や確定申告まで、頭が回らないと思います。
ですから原則的に口座振替で保険料を納付するというのは、国民年金の任意加入に関する欠点のひとつと考えております。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)