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逆イールドが生じる原因とその意味

2019年8月に米国で、2年国債利回りと10年国債利回りが逆転する「逆イールド」が発生しました。
通常、債券の金利は、満期までの期間が長いものの方が短いものに比べて高くなります。
これは、満期までの期間が長いと、その間はずっと返済が滞るリスクを取り続けなければいけないからで、満期までの期間が短ければそのリスクは低くなりその分金利も低くなるというからくりです。
それでは、逆イールドが発生するのはどうしてでしょう。
金利は大きく
・ 短期金利
・ 長期金利
の2つに分けられます。
「短期金利」は中央銀行(米国ではFRB)が金融政策で決定(誘導)している金利の影響を強く受ける一方、「長期金利」は市場で決定される傾向にあります。
金利は債券価格と逆の動きをするものであり、10年物国債の金利(長期金利)は、当該10年物国債の価格が上がれば下がり、価格が下がれば上がるといった関係にあります。
短期金利 > 長期金利となる「逆イールド」
逆イールドが発生するということは、短期金利が長期金利を上回るということです。
これは、足許の経済状況が比較的堅調で、中央銀行としては景気を過熱させないために短期金利を比較的高めに誘導しているのに対し、将来の景気に自信を持てない投資家たちが10年物国債を買うことで10年物国債の価格が上昇し、10年物国債の金利が低下することによって生じます。
つまり、
に起こるのです。
そういう意味で、逆イールドは景気後退の前兆といえます。
過去に例を見ない大幅な金融緩和時の逆イールド

それでは、今夏に起こった逆イールドも景気後退の前兆といえるのでしょうか。
2019年は、米中の貿易摩擦や新興国の景気減速等の影響を受け世界的に経済成長率は低くなっており、景気後退の前兆という見方もできます。
しかし、現在の世界は超金融緩和時代といえ、長期金利が実力以上に低く抑えられている(長期国債が実力以上の高値を付けている)ため、そもそも短期金利と長期金利の差が縮んでいます。
そのような中では、突発的な長期金利の下落により、長期金利が短期金利を下回る状況が生じることは想定に難くありません。
今夏の逆イールドが通常の経済状況下で起こったものとは異なると結論付けるのは尚早ですが、米中の通商交渉や英国のEU離脱の結果や、今後発表される経済指標等次第では、今夏の逆イールドについてはそこまで神経質になる必要はないかもしれません。
予測困難なリセッション入りの時期
上で見たように、今夏の逆イールドが直接米国の景気後退につながるか否かは微妙なところです。
足許で米中の通商交渉が行われており、来年1月には英国のEU離脱の結論がようやく出そうで、米国経済はそれらの影響を大きく受けると考えられます。
経済指標でも、製造業の景気動向を示す指標が弱含んできていたものの、引き続き注視する必要はありますが、9月には一旦底入れした感があります。
来年には米国の大統領選挙も控えており、再選を狙うトランプ大統領も過度な景気減速・後退は回避すると思われます。
したがって、今夏に生じた逆イールドは頭の片隅には置きつつも、今後の政治リスクや経済指標に注目し、適正な景気判断を行っていただくことをお勧めします。(執筆者:土井 良宣)