離婚後の養育費を取り決める際の目安となる算定表が、16年ぶりに改正されます。
最高裁は2019年11月12日に、全国の家庭裁判所の離婚調停や訴訟で活用されている養育費の算定表の改正版を、12月23日に公表することを発表しました。
現行の算定表は、2003年に東京・大阪の裁判官の共同研究の結果として法律雑誌に発表したのがきっかけで、全国の裁判所に広まりました。
今回、その後の16年間の社会情勢の変化を反映した改正が行われるため、離婚後に子どもを引き取って育てているひとり親が受け取れる養育費の増額が期待されています。
詳細は今のところ不明ですが、改正版算定表によって養育費の受取額がいったいどのように変わるのか予測してみましょう。
目次
現在の養育費の相場

まず、現在の養育費の相場をみてみましょう。
厚生労働省が発表している「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果(pdf)」によると、離婚時に養育費の取り決めをした後、現在も養育費を受けている、または受けたことがある世帯の平均月額は、
・ 父子世帯: 3万2,550円
となっています。
現行の養育費算定表ならいくらになるのか
家庭裁判所の現行の養育費算定表(pdf)では、子どもの年齢や人数、支払う側と受け取る側の年収に応じて標準的と考えられる養育費の水準が示してあります。
例1
・ 受け取る側の年収: 0円
・ 1歳の子ども1人がいる
という世帯では、養育費の目安は2~4万円とされています。
例2
・ 受け取る側の年収: 150万円
・ 16歳と13歳の子ども2人がいる
という世帯なら、養育費の目安は4~6万円とされています。
厚生労働省の調査でわかった相場に近い水準ではありますが、母子が生活していくには厳しいと言わざるを得ません。
養育費算定表を改正する動き
家庭裁判所の養育費算定表は公表されているので、2003年に発表された当初から全国の弁護士も離婚協議や調停、訴訟で現行の算定表を活用してきました。
しかし、ずいぶん以前から、現行の算定表では養育費が低すぎるという批判の声があがっていました。
そこで日弁連は2016年11月、より社会の実情に即し、子どもの利益と福祉に配慮した養育費算定基準を改正する必要性を提言し、独自に作成した養育費・婚姻費用の算定表(pdf)を公表しました。
日弁連の改正提案算定表ではいくらになるのか
先ほどの例で、日弁連の算定表では養育費がいくらになるのかをみてみましょう。
例1
・ 受け取る側の年収: 0円
・ 1歳の子ども1人がいる
という世帯では、養育費の目安は8万円とされています。
例2
・ 受け取る側の年収: 150万円
・ 16歳と13歳の子ども2人がいる
という世帯なら、養育費の目安は9万円とされています。
いずれも、現行の家庭裁判所の算定表よりは金額が大幅にアップされています。
家庭裁判所の算定表はどのように変わるのか

現行の家庭裁判所の算定表では養育費が低すぎるという批判があり、2016年11月以降は全国の弁護士が家庭裁判所の調停や訴訟でも日弁連の算定表による養育費の金額を主張してきました。
この流れを受けての改正なので、家庭裁判所の改正版では養育費の水準がアップすることは間違いないと思われます。
ただし、期待し過ぎるのは禁物だとあえて申し上げます。
理論的には水準が下がる可能性もある
最高裁が算定表をどのように変化させるのか、現時点で報道などから判明しているのは、税制の改正や教育費の上昇などの社会情勢の変化を反映させるということですが、気になる点もあります。
それは、生活保護受給費の基礎となる最低生活費の変化も考慮されるということです。
生活扶助基準額は平成12年~平成14年の16万3,970円をピークとして減少に転じ、平成30年10月には14万8,900円にまで下がっています。
だからといって養育費算定表の水準が下げられるとは考えられませんが、大幅アップを期待するには一抹の不安を感じざるを得ません。
離婚した以上は自助努力も必要
家庭裁判所の算定表の改正によって養育費の水準が上がることは間違いないでしょうし、2020年5月までには改正民事執行法の施行により、養育費の取り立てもしやすくなります。
養育費を受け取る側にとって追い風が吹いていることは間違いありません。
しかし、あくまでも養育費は子どもを育てるためのお金であり、親権者が生活するためのお金ではありません。
算定表が改正されるからといって、母子が養育費だけで十分に生活できるようになることはあり得ません。
改正により養育費の水準がどの程度上がるかに注目
ともあれ、家庭裁判所の算定表の改正によって、養育費の水準がどのくらいアップするのかは注目されるところです。
詳細が公表されたら、あらためて新算定表に対する考察をお伝えしたいと思います。(執筆者:川端 克成)