2019年6月3日に金融庁から長寿化によって会社を定年退職後の人生が延びるため、
と衝撃の報告書を発表しました。
定年退職までに2,000万円の貯蓄が必要と解釈できることから「国民の将来不安をあおる」として、9月には報告書が撤回に追い込まれました。
参考元:金融審議会
しかし、撤回に追い込まれたとはいえ、いったん発表した2,000万円という数字が消えることはありません。
私もFPとして家計相談でよくご質問を受ける
について解説していきたいと思います。
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目次
金融庁が発表した「定年退職までに2,000万円の貯蓄が必要」の根拠は
金融庁の報告書の2,000万円という数字は、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)を対象に総務省の「家計調査」などから平均的な収入と支出をもとに、公的年金を受け取ったとしても毎月約5.5万円の赤字が発生します。
そして定年後に夫婦が夫95歳妻90歳まで約2,000万円不足するという、標準的なサラリーマン家庭の収入や支出に基づいた大ざっぱな計算が根拠となっています。
平均的な元サラリーマンの夫(65歳)と専業主婦の妻(60歳)
20万9,000円(月の年金収入)-26万4,000円(月の生活費)=△5万5,000円(月の不足額)
△5万5,000円 × 12か月 × 30年(夫が30年間生存する前提)≒約2,000万円
頼みの「100年安心」といわれた老齢年金の現実
平成16年に年金制度の大規模な改革が行われ、当時は「100年安心」といわれた年金制度ですが、実は誤解している方も多いようです。
「100年安心」とは今後100年間は年金受給者は安心できると思った方も多いようです。
実際のところは現役世代が払う年金保険料を10年間にわたって引き上げ、物価や賃金の上昇よりも年金の給付額の増加を抑える「マクロ経済スライド」も導入しました。
つまり、年金をいくら払うかを先に決めて、必要な額を年金保険料を徴収するという「年金受給額重視」でした。
そこから、先に徴収する年金保険料を決めて、その範囲内で年金を支給する「年金負担額重視」に変わりました。
集まった分だけ払うということで、「100年安心」は受給する側ではなく、支払う側の国の年金制度として「100年安心」と言っています。
老後(65歳以降)をどのように生活したいか
老後の標準的なモデルケースの年金20万9,000円はあくまで平均的なご夫婦の例です。
主な収入源である年金は、サラリーマン生活が長い方や、公務員や上場企業など報酬額にも恵まれた方、妻も共働きで厚生年金に長く加入している場合などは、年金額もモデルケースよりも多くなる可能性があります。
自営業や非正規社員で厚生年金に加入せず、国民年金のみの場合は40年間保険料を払ったとしても満額は平成31年度は年間約78万円(月6万5,000円)、ご夫婦でも月13万円程度です。
もし未納期間があればさらに少なくなります。
年金については年金定期便などで、今の働き方が継続することを前提に概算の金額は予想できます。
支出については大きなウェイトを占める住居が賃貸か、持ち家かマンションなどにお住まいの人は大規模な改修が予想される場合などで支出は大きく変わってきます。
その他外食やファッション、旅行など趣味にお金をかけたい人と質素な生活をする人など、基本的な生活費については考え方次第で節約することも可能です。
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老後どれぐらいの貯蓄をしておけば安心できるか?
という疑問について、大まかな考え方は、収入から支出を差し引いた額が黒字であれば、収入の範囲で生活ができていますので貯蓄は少なくて済みます。
逆に現役時代の生活が忘れられず赤字になってしまう場合は、寿命を90歳と見積もって65歳まで現役生活を続けると仮定した場合、赤字額の25年分が必要です。
支出については、通常の生活費に加えて、ご自身や家族の病気、将来介護が必要になる場合、風水害など自宅に被害を受けたり、予測できない支出も考えられます。
ですから多いに越したことはありませんが予備費として少なくとも200~300万円程度は余分に貯蓄しておきたいです。
老後もこれまでの現役時代に近い生活水準を維持したいか、現実の年金収入を基に支出を見直して、基本の生活費は年金の範囲内で生活するか、考え方次第で貯蓄目標が大きく変わってきます。(執筆者:後藤 誠道)